今回のコラムで取り上げる内容は,コラム「正多面体の展開図と2次元多様体の分類定理」の縮約版です.
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【1】2次元多様体の分類定理(その1)
ゴム膜でできた長方形の4辺(または2辺)を適当に貼り合わせることを考えてみましょう.そして,長方形を時計回りに順に一周するようなラベルをつけることにします.
すると,1組の対辺だけを向きを保ったまま貼り合わせる操作はa0a^(-1)0と書くことができます.a0a^(-1)0によって円環ができあがります.a0a0すなわち1組の対辺を向きを逆にして貼り合わせる操作によって,メビウスの帯ができあがります.円環の境界は2本の円周ですが,メビウスの帯の境界は1本の円周です.
同様に,abb^(-1)a^(-1)からは球面,aba^(-1)b^(-1)からは輪環面(トーラス),abab^(-1)からはクラインの壷,ababからは射影平面が得られます.
クラインの壷と射影平面は3次元ユークリッド空間の中では描けませんが,4次元空間考えると自己交差なしに重ね合わせることができます.また,イメージするのは難しいのですが,射影平面はメビウスの帯と円板とを縁に沿って貼り合わせたものと同相です.
円環,球面,輪環面は表から裏に行くことはありませんが,メビウスの帯,クラインの壷,射影平面では縁を越えることなしに曲面の裏側にたどりつきます.こういう面を向きづけ不可能な曲面といいます.
これら6種類はすべて2次元多様体の例です.そして,コンパクトな2次元多様体はどんなものでも,円環,メビウスの帯,球面S,輪環面T,クラインの壷K,射影平面Pの6つのものを適当に連結和したものと同相になることが知られています.
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【2】2次元多様体の分類定理(その2)
基本的な曲面(球面S,輪環面T,クラインの壷K,射影平面P)の組み合わせを標準形曲面と呼びます.ここでは標準形曲面S,nT(n≧1),mP(m≧1)を取り扱うことにします.SとnTは向き付け可能,mPは向き付け不可能ですから,Sだけが孤立していますが,Sを0Tと約束するとnT(n≧0)は向き付け可能な標準形曲面となり,好都合です.
また,クラインの壷Kは2つの射影平面の連結和2P=P#Pと同相です.T#PはK#Pと同相であり,したがって3Pとも同相になります.すなわち,クラインの壷Kは射影平面Pをつけることによってみかけ上そのねじれが解消され,トーラスTに射影平面Pがくっついた形になってしまうことは驚くべきことと考えられます.
したがって,nT,mPを扱えばよいことになるのですが,以下にコンパクトな曲面の分類定理をまとめておきます.
[1]向き付け可能なコンパクトな曲面はmT(m≧0)と同相である.ただし,0Tは球面Sを意味するものとする.
すなわち,なめらかに埋め込まれた閉曲面は球面Sか,m人乗りの浮き輪mTのいずれかに同相になります.このmは種数,このような曲面は種数mの閉曲面と呼ばれます.
これで閉曲面の位相的分類定理の半分です.残り半分は次のように表せます.
[2]向き付け不可能なコンパクトな曲面はmP(m≧1)と同相である.
なめらかに埋め込まれた閉曲面以外にも重要な閉曲面があります.クラインの壷Kが向き付け不可能な閉曲面の例です.クラインの壷は2重線のみをもつ閉曲面の例ですが,3重線をもつ閉曲面の例としてボーイの曲面があります.ボーイの曲面は射影平面Pと同相,クラインの壷Kは2Pと同相ですから,射影平面Pの方がより基本的なのです.
向き付け不可能のときは,m個のボーイの曲面を繋げたものに同相になるというのが,閉曲面の位相的分類定理の残り半分です.残り半分は次のように表
Tのいずれかに同相になります.向き付け不可能の場合もmは種数,このような曲面は種数mの向き付け不可能閉曲面と呼ばれます.
[3]これ以外の向き付け不可能なコンパクトな曲面は,P#mT,K#mT(m≧0)のような向き付け不可能な曲面と同相である.P#mT,K#mTを第2標準形曲面と呼ぶ.
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【3】オイラー標数
三角形分解定理(ラドー,1920年代)により,すべてのコンパクトな曲面は平面モデルで表現することができるのですが,閉曲面の位相的分類定理の証明には三角形分解による多角形表示のアイディアを用います.
たとえば,2Tをa,b,c,dというラベルの付いた曲線に沿って切り開くと8角形の平面モデルが得られます.2つ穴トーラス面を真ん中で2つに分けると,トーラス面に穴のあいたものaba^(-1)b^(-1)xとxcdc^(-1)d^(-1)ができます.これらを切り開くとどちらも5角形となります.これをxで2つつなぎ合わせると辺xは内部に吸収され,8角形になるというわけです.そして,任意の多角形表示がすべてm個のトーラスを繋げたものか,m個の射影平面(ボーイの曲面)を繋げたもののいずれかになることを示すことになります.
ここではコンパクトな曲面の不変量として,オイラー標数を取り上げます.
χ(S)=2,χ(T)=0,χ(K)=0,χ(P)=1
χ(mT)=2−2m,χ(mP)=2−m
χ(K#mT)=−2m,χ(P#mT)=1−2m
すなわち,閉曲面に対してオイラー標数が1つに定まるということです.
2つのコンパクトな曲面が同相となるための必要十分条件は
[1]同じオイラー標数をもつ
かつ
[2]ともに向き付け可能かまたはともに向き付け不可能である
ことです.このことから5Tと7Tは決して同相にはならないし,67Pと45Pも決して同相にはならないことが示されます.
Kは2Pと同相なので,向き付け不可能なコンパクトな曲面はm(≧0)個の穴をもつトーラスに1個あるいは2個の交差帽をつけたものと見ることができます.ハンドルを取り付けるには開円板を2個,交差帽を取り付けるには取り除く必要がありますから,種数mは途中に現れる穴の個数,最後にできあがる曲面のオイラー標数は2から取り除いた開円板の個数を引いた数に等しいことがわかります.
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【4】雑感
閉曲面の位相的分類が成功したのは,曲面を三角形に分割して単純な記号の羅列に変換できたからです.3次元以上の多様体に関してはこのような分類定理は存在しません.3次元多様体の位相的分類は数百倍難しくなりますが,考え方としては概ね同じ方向でできると思われます.
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