■デーン不変量と二面角の幾何学(その9)

  正四面体 → cosδ4=1/3,sinδ4=√8/3

  立方体 → cosδ6=0,sinδ6=1

  正八面体 → cosδ8=−1/3,sinδ8=√8/3

  正十二面体 → cosδ12=−√5/5,sinδ12=√20/5

  正二十面体 → cosδ20=−√5/3,sinδ20=2/3

であるが,(その8)ではδはπの有理数倍ではないことをQの円分拡大のガロア理論を用いて,矛盾を引き出すことによって証明した.今回コラムでは(その8)を補足したい.

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【1】2次体

 有理数体Qに,x^2−d=0の根√dを添加して得られる体Q(√d)を考えます.すると0,1以外の平方因数をもたない整数d,すなわち,

  −1,±2,±3,±5,±6,±7,±10,・・・

によって,Q(√d)は体になり,2次体Q(√d)の元は一意的に

  Q(√d)={a+b√d|a,bは有理数}

の形で表されます.とくに,d=−1のとき

  Q(√−1)=Q(i)

はガウスの数体となります.

 ガウス整数(√−1を含む)とアイゼンシュタイン整数(√−3を含む)に対しては通常の整数の素因数分解は一意的ですが,a+b√−5の形の数に対しては1通りには決まりません.

  6=2・3=(1+√−5)(1−√−5)

  (2,3,1+√−5,1−√−5はいずれも素数)

 それではどういう負の数を使うと,√−dから作った数の体系で素因数分解が一意的になるのでしょうか? 1966年,ベイカーとスタークは独立に類数1の虚2次体Q(√d)すなわち(d<0,dは平方因子をもたない)なる2次体をすべて決定したのですが,それによると,

  −d=1,2,3,7,11,19,43,67,163

しかありません.この9個の数はヘーグナー数と呼ばれています.

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【2】2次体と円分体

 1の原始n乗根ζn=exp(2πi/n)をとると,K=Q(ζn)を円のn分体といいますが,すべての2次体Q(√d)は円分体Q(ζn)に含まれます.たとえば,

  Q(√2)<Q(ζ8)   (∵√2=ζ8+ζ8^(-1))

  Q(√3)<Q(ζ12)   (∵√3=ζ12+ζ12^(-1))

  Q(√−1)=Q(ζ4)   (∵√−1=ζ4)

  Q(√−3)=Q(ζ3)   (∵√−3=1+2ζ3)

 また,部分体k=Q(ζn+ζn^(-1))=Q(ζn+ζn~)は,体K=Q(ζn)の拡大次数[K:k]=2なる最大実部分体となります.

  Q(√3)<Q(ζ12)   (∵√3=ζ12+ζ12^(-1))

さらにまた,

  n~=(-1)^{(n-1)/2}n

とおくと,Q(√n~)はQ(ζn)の部分体になります.円分体はQ(ζn+ζn^(-1))やQ(√n~)などを部分体としてもつというわけです.

 このように,Q(ζ12)のなかには,部分体としてQ(√3),Q(√−1),Q(√−3)が含まれています(∵ζ12^3=ζ4,1+ζ12^4=1+2ζ3).Q(ζ12)に含まれる部分体は他には存在しません.

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【3】円分多項式の次数

  α=p/q・2π   (p,q)=1

において,q=p1^e1p2^e2・・・pd^edと素因数分解されるならば

  φ(q)=Πpi^ei-1(pi−1)

である.

φ(2)=2^0(2−1)=1

φ(3)=3^0(3−1)=2

φ(4)=2^1(2−1)=2

φ(5)=5^0(5−1)=4

φ(6)=2^0(2−1)・3^0(3−1)=2

φ(7)=7^0(7−1)=6

φ(8)=2^2(2−1)=4

φ(9)=3^1(3−1)=6

φ(10)=2^0(2−1)・5^0(5−1)=4

φ(11)=11^0(11−1)=10

φ(12)=2^1(2−1)・3^0(3−1)=4

φ(13)=13^0(13−1)=12

φ(14)=2^0(2−1)7^0(7−1)=6

φ(15)=3^0(3−1)・5^0(5−1)=8

φ(16)=2^3(2−1)=8

φ(17)=17^0(17−1)=16

φ(18)=2^0(2−1)・3^1(3−1)=6

φ(19)=19^0(19−1)=18

φ(20)=2^1(2−1)・5^0(5−1)=8

 φ(q)=2を与えるqはq=3,4,6のみで,これらに対応する拡大体はQ(√−3)とQ(i)である.

  cosζ3=−1/2,sinζ3=√3/2→Q(ζ3)=Q(√−3),ガロア群はZ2と同型

  cosζ4=0,sinζ4=1→Q(ζ4)=Q(√−1),ガロア群はZ2と同型

  cosζ6=1/2,sinζ6=√3/2→Q(ζ6)=Q(√−3),ガロア群はZ2と同型

 もし,q=p1^e1p2^e2・・・pd^edと素因数分解されるならば

  φ(q)=Πpi^ei-1(pi−1)

であるから,φ(q)=2を与えるqはq=3,4,6のみで,これらに対応する拡大体はQ(√−3)とQ(i)である.

 正四面体,正八面体→Q(√−2)

 正十二面体,正二十面体→Q(√−5)

であるが,Q(√−3)もQ(i)もどちらもQ(√−2),Q(√−5)と異なるので矛盾,したがって,δはπの有理数倍ではない.

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【4】雑感

 (その8)の雑感に

  [秋山の定理:2009]正多面体の元素数は≧4である.

の場合,Q上の4次拡大体Q(√−2,√−5)に対して,

  N1δ4+N2δ12+N3δ20≠0  (mod π)

を証明しなければならないと書いた.

 φ(q)=4を与えるqはq=5,8,10,12のみである.

  cosζ5=(√5−1)/4,sinζ5=(10+2√5)^1/2/4→Q(ζ5)=Q((10+2√5)^1/2),ガロア群はZ4と同型.

  cosζ8=√2/2,sinζ5=√2/2→Q(ζ8),ガロア群はZ2×Z2と同型.

  cosζ10=(√5+1)/4,sinζ10=(10−2√5)^1/2/4→Q(ζ10)=Q(10+2√5)^1/2)

  cosζ12=√3/2,sinζ12=1/2→Q(ζ12)

 どちらもQ(√−2,√−5)と異なるのだが,これで

  N1δ4+N2δ12+N3δ20≠0  (mod π)

がいえるかどうかは疑問である.おそらく証明にはなっていないと思う.

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