■デーン不変量と二面角の幾何学(その8)

 今回のコラムではQの円分拡大のガロア理論を用いて,

[Q]角δがcosδ=1/3を満たすならば,δはπの有理数倍ではない

ことを証明する.

  [参]Hartshorne "Geometry: Euclid and Beyond", Springer-Verlag

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【1】円分体

 円周のn分の1の角をα=2π/nとするとき,

  ζ=exp(αi)=cosα+isinα

は1のn乗根である.1,ζ,ζ^2,・・・,ζ^(n-1)のなかで,(d,n)=1となるζ^dを1の原始n乗根とよぶ.

 また,

  Φn(x)=Π(x−ζ^d)=(x^n−1)/ΠΦd(x)

はn次の円分多項式とよばれる.その次数はオイラーのφ関数

  φ(n)=#{1≦d<n,(d,n)≠1}

で与えられる.

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【2】円分拡大のガロア理論

 体Q(ζ)はQ上n次の円分拡大と呼ばれ,

  ζ=exp(αi)=cosα+isinα

で生成される.それはQ上,次数φ(n)をもち,そのガロア群はZnと同型である.とくにnが素数pのとき,次数p−1をもち,そのガロア群はZpと同型の位数p−1の巡回群である.

る.

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【3】正四面体の場合

  cosδ=1/3,sinδ=√8/3

であるから

  z=cosδ+isinδ=1/3+i√8/3

を考える.

  z−1/3=i√8/3

より,zは2次方程式3z^2−2z+3=0の解である.それゆえ,zはQ上の2次拡大体Q(z)=Q(−√2)を生成する.

 δがπの有理数倍ならは,

  δ=p/q・2π   (p,q)=1

と書ける.zは1のq乗根となるから,円分多項式Φq(z)の次数はφ(q)=2となる.

 もし,q=p1^e1p2^e2・・・pd^edと素因数分解されるならば

  φ(q)=Πpi^ei-1(pi−1)

であるから,φ(q)=2を与えるqはq=3,4,6のみで,これらに対応する拡大体はQ(√−3)とQ(i)である.

 どちらもQ(√−2)と異なるので矛盾,したがって,δはπの有理数倍ではない.

 正八面体→Q(√−2)

 正十二面体→Q(√−5)

 正二十面体→Q(√−5)

の場合も同様に,δはπの有理数倍ではない.

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【4】雑感

 (その7)より概念的な証明になっていることがみてとれたであろうと思う.ところで,Q(√2),Q(√3)はQ上の2次拡大体であるが,Q(√2,√3)はQ上,次数4の拡大であり,基底として元1,√2,√3,√6をとることができる.いいかえれば,Q(√2,√3)体のどの元も

  a+b√2+c√3+d√6

の形にただ1通りに書ける.

  [秋山の定理:2009]正多面体の元素数は≧4である.

の場合,Q上の4次拡大体Q(√−2,√−5)に対して,

  N1δ4+N2δ12+N3δ20≠0  (mod π)

を証明しなければならないのである.

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