■球面の不思議(その2)

 高次元の球や立方体については見て考えることができないので,2次元・3次元から類推して考えることになります.ところが,高次元の場合,奇妙なことが起こるので類推があてになりません.

 微分トポロジーは大きく分けて,高次元多様体(5次元以上)と低次元(3次元・4次元)を扱うものに分かれますが,高次元微分トポロジーからはミルナーのエキゾチック球面について(その1)で紹介しました.(その2)では低次元微分トポロジーからドナルドソンの定理を紹介します.

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【1】ドナルドソンの定理

 ミルナーの結果から,微分可能構造の存在とその単独性のどちらも保証されません.さらに興味深いことに,n次元ユークリッド空間R^nでは,

  次元     微分構造

  数直線     1

  平面      1

  空間      1

  4次元空間   ∞

  5次元空間   1

  6次元空間   1

つまり,4次元空間では微分構造の数が無限個になるというのです.

 このことは,1982年にドナルドソンという数学者が最初に証明したのですが,ドナルドソンは4次元微分可能多様体にゲージ理論を適用してR^4に異種構造が存在する,そして3次元空間ではどのような閉じた有界な領域も球体に閉じこめられるが.4次元空間ではどのような超球にも閉じこめられない閉じた有界な領域が存在する,3次元や5次元のユークリッド空間ではこのようなことは決して起こらないことを示して数学界を驚かせました.

 4次元のエキゾチックなR^4存在するということは,4次元多様体の特異性を際立たせる重要な定理です.しかし,ドナルドソンの定理は理論物理学にでてくるヤン・ミルズ場を使った難解な内容のため,おいそれと近づくことさえできませんでした.

 その証明を易しくしたのが,4つの力の統一を目指した「超弦理論」で名高いウィッテンです.とはいっても,3次元・4次元の問題は「低次元問題」という難しい分野に分類されていますから,ドナルドソンやウィッテンの研究対象やその業績については小生のまったく理解できないものなので,ノーコメントとせざるを得ませんが,・・・(生兵法は怪我の元).

 トポロジーは曲げたり伸ばしたりの連続変形を施しても変わらないようなものを研究するのですが,空間の性質は,次元が変わるごとに劇的といってよいほど変わります.しかし,それは単にオイラー標数の話だけでなく,そこにはもっと深い幾何学的な事情があるのです.

 4次元微分トポロジーにおけるドナルドソンやウィッテンの理論によると,4次元空間だけが非常に特殊なのですが,4次元が特別だからこそ,われわれが4次元時空に存在できる理由だと考えられています.ともあれ,高次元の世界は,われわれが3次元空間でイメージするものとは大きく異なっているのです.

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