■パドヴァン数列とプラスチック比

 今回のコラムでは,漸化式

  an=an-2+an-3

で表される数列(パドヴァン数列)を取り上げます.

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【1】フィボナッチ数列と黄金比

  1,1,2,3,5,8,・・・

初項1,第2項1から始まり,隣り合う2項の和が次の項となるこの数列をフィボナッチ数列とよびます.その一般項Fn は

  Fn=Fn-1+Fn-2

です.フィボナッチ数列の特性方程式

  x^2−x−1=0

の2つの解より,連続する2項の比は黄金比

  φ=(1+√5)/2=1.618034・・・

に次第に近づくことになります.

 黄金長方形から正方形を取り除くと一回り小さな黄金長方形が現れてきます.このことを繰り返し行えば対数らせんが現れますが,この曲線は自然界ではオーム貝などの形にみられ,自己相似的な成長過程を表す理想的な曲線とされています.サイクロイドの伸開線はそれと合同なサイクロイドですが,対数らせんの伸開線もそれと合同な対数らせんになります.

 今度は逆に1辺の長さがフィボナッチ数列の正方形をらせん状に加えていきます.最初の2つの正方形は1辺の長さが1で,そこに1辺の長さが2の正方形,引き続いて1辺の長さが3,5,8,13,21,・・・.すると,優美な対数らせんが現れてきますが,このらせんはほぼ黄金比

  φ=(1+√5)/2=1.618034・・・

で外に広がることになります.

 初項2,第2項1のフィボナッチ数列

  2,1,3,4,7,11,18,・・・

は彼にちなんでリュカ数列と呼ばれています(1877年).

  Ln=Ln-1+Ln-2

 リュカはフィボナッチ数列,リュカ数列を用いてメルセンヌ数(2^n−1)が素数であるかどうかを判定し,(2^127−1)が素数であることを示しています(1876年).この数は12番目のメルセンヌ素数で,1952年の13番目(2^521−1)からはコンピュータによる発見ですから,コンピュータを使わずに見つけられた最大のメルセンヌ素数になっていて,わかっている最大の素数として最長不倒記録を保ち続けました.

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【2】パドヴァン数列とプラスチック比

 フィボナッチ数列では正方形をらせん状に並べましたが,ここでは正三角形をらせん状に並べてみましょう.最初の3つの正三角形は1辺の長さを1,次の2つは1辺の長さが2で,そのあとは3,4,5,7,9,12,16,21,・・・.このようにしてもおおよそ対数らせんを描きます.

 数列

  1,1,1,2,2,3,4,5,7,9,12,16,21,・・・

は直前の1項を除いたその前の2項を加えたものです.漸化式は

  Pn=Pn-2+Pn-3   (P0=P1=P2=1)

で表されます.この各項が2つ前と3つ前の項の和で与えられる数列は,イタリアの建築家パドヴァンにちなんでパドヴァン数列と呼ばれています.

 パドヴァン数列の特性方程式

  x^3−x−1=0

の唯一の実数解より,パドヴァン数列の連続する2項の比はプラスチック比

  p=1/3{3√(27/2−3√69/2)+3√(1/2+√69/18)}=1.324718・・・

に次第に近づくことになります.pがφよりも小さいことより,パドヴァン数列はフィボナッチ数列に較べてゆっくりと増加することになります.

  p^5−p^3−p^2=0

  p^4−p^2−p^1=0

より

  p^5−p^4−p^3−p^1=p^5−p^4−1

ですから,3次方程式p^3−p−1=0の解はこの5次方程式も満たすことがわかります.あるいは,因数分解

  p^5−p^4−1=(p^3−p−1)(p^2−p+1)

でもよいのですが,このことから

  Pn=Pn-1+Pn-5

の関係が成り立つこともわかります.

 リュカはパドヴァン数列と同じ生成規則に従い,最初の項の値が異なるものを考案しました(1876年).

  An=An-2+An-3   (A0=3,A1=0,A2=2)

  3,0,2,3,2,5,5,7,10,12,17,22,29,・・・

 この数列は現在ではペラン数列と呼ばれるものです.この数列の項比もpに近づきますが,さらに深遠な性質「nが素数のときAnはnで割り切れる」をもっています.しかし,逆命題「Anがnで割り切れるときnは素数である」は必ずしも成り立たないことが知られています.ただし,その最小の反例は数万の大きさなので,コンピュータでも使わなければ反証できません.

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【3】正六角形によるらせん状タイリング

 正多角形は無限に多く存在しますが,それでは

[Q]互いに合同な正多角形を隙間も重なりもないように並べて平面を完全に埋める仕方が何通りあるでしょうか?

[A]この問題は昔から知られていて,それが3種類に限ることは以下のようにして証明されます.

 正多角形の中で平面をタイル張りのように隙間なく埋めつくすことができる平面充填形では,各頂点に正p角形がq面が会するとすると,正p角形の一つの内角は2(1−2/p)×90°であり,一つの頂点の回りの内角の和はこれがq個集まって四直角ですから,

  2q(1−2/p)=4

  1/p+1/q=1/2   (p,q≧3)

で,この条件を満たす(p,q)の組は(3,6),(4,4),(6,3)の3通りしかありません.したがって,平面充填形は正三角形,正方形,正六角形の3つだけです.このうち正方形のは碁盤、正六角形のは蜂の巣などでおなじみでしょう.

 次に合同ではなく,相似な図形による平面タイリングの問題を考えてみます.フィボナッチ数列では相似な正方形を,パドヴァン数列では相似な正三角形をらせん状に並べましたが,それでは

[Q]相似な正六角形をらせん状に並べて平面タイリングすることは可能でしょうか?

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【4】正方形の分割問題

[Q]正方形を3つの相似な長方形に分割せよ.ただし,どの2つの長方形も互いに合同ではないとする.

[A]最小の長方形の短辺の長さを1,長辺の長さをxとする.2番目の長方形の短辺の長さはx,長辺の長さはx^2より,正方形の1辺の長さはx^2+1となり,これが3番目の長方形の長辺の長さとなる.一方,3番目の長方形の短辺の長さはx^2−x+1であるから,

  (x^2−x+1)/(x^2+1)=1/x

が成り立つ.変形すれば,3次方程式

  x^3−2x^2+x−1=0

が得られる.

 実数解は

  x=2/3+1/3{3√(25/2−3√69/2)+3√(25/2+3√69/2)}=1.754・・・

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 この数は黄金比と深い類似性があるそうだ.

  x(x−1)^2=1 → 1/x=(x−1)^2

一方,1/φ=φ−1であるし,xが満たす等式として他には

  1/x^2=√x−1,√x=1/(x−1)

  1+1/(x−1)=x+1/x

などがあげられる.

 驚いたことに,xに対する3番目の長方形の短辺の長さx^2−x+1の比がプラスチック比p=1.342・・・になっているという.両者の関係は

  p=1/(x−1),p=x^2−x

と表すことができる.

 また,xの拡張として

  1/y=(y−1)^n

を満たす数を考えることができるが,これと超黄金比(z=φk)

  z^k-1+・・・+z+1=0

にはいかなる関係がみられるのだろうか?

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【補】超黄金比

 フィボナッチ数列を拡張する方向としては,ひとつには加える項を変えること,もう一つには加える項数を増やすことです.パドヴァン数列は前者の例で,後者,たとえば1つの項の和がその前の3つの項の和になっている

  Tn=Tn-1+Tn-2+Tn-3

で定義される数列

  1,1,1,3,5,9,17,・・・

は,フィボナッチ数列の拡張とみなせるので,フィボナッチ(Fibonacci)をもじってトリボナッチ(Tribonacci)数列と呼ばれます.

 トリボナッチ数列でも連続する2項の比はある決まった値

  1/3{3√(19+3√33)+3√(19−3√33)+1}=1.839・・・

に収束します.これは

   x^3−x^2−x−1=0

の実根です.

 テトラナッチ数列,ペンタナッチ数列,ヘキサナッチ数列のそれぞれ特性方程式

   x^4−x^3−x^2−x−1=0

   x^5−x^4−x^3−x^2−x−1=0

   x^6−x^5−x^4−x^3−x^2−x−1=0

   ・・・・・・・・・・・・・・

をニュートン法で近似計算してみると超黄金比φkが求められます.

 超黄金比φkはただひとつ存在し,

  x^k−1=(x−1)(x^k-1+・・・+x+1)

より,k→∞のときφk→2に近づくことがわかります.

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【5】トロミノの分割問題(おまけ)

(Q)L字型のトロミノ

  □

  □□

を合同な4片に分割せよ.

(Q)L字型のトロミノは2,3,4,6,8,9,10,12,14個の合同細片に分割されるが,5,7,11,13個の合同細片に分割できるだろうか?

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