■周期の世界(その8)

【1】ζ(3)の無理数性

 ζ(2n)はπ^2nの有理関数になる,従って,超越数であることはオイラー以来知られていますが,奇数ベキ級数の和ζ(2n+1)についての類似の関係式は何にひとつわかっていませんでした.

 つい最近までζ(3)は有理数になるかもしれないと思われていたのですが,ところが,1978年に,フランスの無名の数学者アペリによってζ(3)の無理数性が示されました.それを補ったのがポールテンです.ζ(3)=1.202056・・・に収束するものの,ごく最近までこの値が無理数であることすらわかっていなかったのです.

 アペリはζ(3)が無理数であることを示すために,

  ζ(3)=Σ1/n^3=5/2Σ(-1)^(n-1)/n^3(2n,n)

に基づく連分数展開

  6/ζ(3)=5-1^6/(117-)2^6/(535-)n^6/(34n^3+51n^2+27n+5)-・・・

を使いました.ζ(3)が無理数ならば連分数展開は無限列となります.

 アペリが行ったことは,より正確には,漸化式

  (n+1)^3un+1=(34n^3+51n^2+27n+5)un-n^3un-1

を満たす2つの数列{an}{bn}を構成したことです.たとえば,

  an=Σ(n,k)^2(n+k,k)^2

  a0=1,a1=5,a2=73,a4=1445,a5=33001,・・・

 bnに対する式も,より複雑ではありますが,同様に構成することができます.

  bn=Σ(n,k)^2(n+k,k)^2c

  c=Σ1/m^3+Σ(-1)^(m-1)/2m^3(m,n)(n+m,m)  

  b0=0,b1=6,b2=351/4,b4=62531/36,b5=11424695/288,・・・

 この漸化式を満たす任意の数列は,

  Cα^(±n)/n^(3/2)

  (α=17+12√2=(1+√2)^4は2次方程式:x^2−34x+1=0の根)

で指数的に増加(減少)することより,直ちに

  bn/an → ζ(3)

が示されます.

 まったく同じ論法を用いて,ζ(2)の無理数性も示すことができます.

  ζ(2)=Σ1/n^2=3Σ1/n^2(2n,n)

  5/ζ(2)=3+1^4/(3+)2^4/(25+)n^4/(11n^2+11n+3)+・・・

  (n+1)^2un+1=(11n^2+11n+3)un+n^2un-1

  an=Σ(n,k)^2(n+k,k)

  bn=Σ(n,k)^2(n+k,k)^2c

  c=2Σ(-1)^(m-1)/m^2+Σ(-1)^(n+m-1)/m^2(m,n)(n+m,m)  

  α=(11+5√5)/2={(1+√5)/2}^5は2次方程式:x^2−11x−1=0の根(黄金比φを用いると,φ^5=3φ+2)

 興味深いのは,アペリの証明が最先端の研究結果を使ったものではなく,オイラーが解決していたとしても不思議はないとされるような200年前にはすでにわかっていた定理や手法のみでの証明だったことです.

 ζ(3)が無理数であるという証明が発表されたとき,学会場はどよめきの渦に包まれ騒然となったそうですが,アペリは非常に話し下手であり,参加者の多くは半信半疑というよりは懐疑的であったと伝えられています.アペリはマイナーな数学者とされていますが,今から考えると当時主流だった秀才数学者集団,ブルバキに押しつぶされた個性豊かな人物だったようです.

===================================

 アペリの証明の核心は,漸化式

  (n+1)^3un+1=(34n^3+51n^2+27n+5)un-n^3un-1

を満たす数列{an}を構成したことですが,そこにはゼータ関数に帰着する無限級数(n=1~∞)

  5/2Σ(-1)^(n-1)/n^3(2n,n)=ζ(3)

が現れます.

 同様に,

  Σ1/(2n,n)={2π√3+9}/27

  Σ1/n(2n,n)=π√3/9

  3Σ1/n^2(2n,n)=ζ(2)

  12Σ(2-√3)^n/n^2(2n,n)=ζ(2)

  5/2Σ(-1)^(n-1)/n^3(2n,n)=ζ(3)

などが知られています.

 さらに,ポールテンの問題

  36/17Σ1/n^4(2n,n)=ζ(4)=π^4/90

より,ζ(2),ζ(3),ζ(4),・・・がΣ1/n^k(2n,n)あるいはΣ(-1)^(n-1)/n^k(2n,n)の簡単な有理数倍になっていると予想するのは当然の成りゆきでしょう.

  ζ(k)=R*Σ1/n^k(2n,n),ζ(k)=R*Σ(-1)^(n-1)/n^k(2n,n)

 このことから,

  ζ(5)=R*Σ(-1)^(n-1)/n^5(2n,n)

と予想されますが,

  ζ(5)=5/2*Σ(1/1^2+1/2^2+・・・+1/(n-1)^2-4/5n^2)(-1)^(n-1)/n^3(2n,n)

となって,予想に反して,Rはたとえ有理数であったにしても,簡単なものにはならないらしいということです.

 ζ(3)は無理数であることしかわかっておらず,いまだζ(3)が超越数であるかどうかは知られていませんし,ζ(5),ζ(7),・・・が有理数なのか無理数なのかもわかっていません.アペリの方法はζ(5),ζ(7),・・・の場合の拡張されるに至っていないのです.

===================================