■周期の世界(その4)

[1]ガンマ関数の例

 Γ(1/2)=√πは超越数ですが,ネステレンコの定理より,

  Γ(1/3),Γ(1/4)

も超越数であることが導かれます.変数sが有理数値のときのガンマ関数Γ(s)の値は周期と密接に関係しています.そのため,周期を代数的数とπのベキを除いて,有理数変数におけるガンマ関数の有理数ベキの積として表すという試みがあります.

 ガンマ関数(オイラーの第2種積分)は,

  Γ(x)=∫(0,∞)t^(x-1)exp(-t)dt

ベータ関数(オイラーの第1種積分)は,

  B(a,b)=∫(0,1)t^(a-1)(1-t)^(b-1)dt

によって定義されます.ベータ関数において,a=m/n,b=1/2とおき,t=x^nと置換すると,

  ∫(0,1)x^(m-1)/(1-x^n)^(1/2)dx=Γ(m/n)√π/nΓ(m/n+1/2)

したがって,

 (m,n)=(1,1)のとき,∫(0,1)1/(1-x^1)^(1/2)dx=2

 (m,n)=(1,2)のとき,∫(0,1)1/(1-x^2)^(1/2)dx=π/2

 (m,n)=(1,3)のとき,∫(0,1)1/(1-x^3)^(1/2)dx=Γ^3(1/3)/2^(4/3)3^(1/2)π

 (m,n)=(1,4)のとき,∫(0,1)1/(1-x^4)^(1/2)dx=Γ^2(1/4)/2^(5/2)π^(1/2)

が得られます.

 レムニスケート周率ωが,

  ω=Γ^2(1/4)/2^(3/2)π^(1/2)

と書けるいうわけです.

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[2]ゼータ関数の例

 ゼータ関数

  ζ(s)=Σ1/n^s

において

 ζ(2)=1/1^2+1/2^2+1/3^2+1/4^2+・・・=π^2/6

以下,ζ(4)=π^4/90,ζ(6)=π^6/945が続きます.

 このように,ζ(2n)はπ^2nの有理関数になる,従って,超越数であることはオイラー以来知られていますが,奇数ベキ級数の和ζ(2n+1)についての類似の関係式は何にひとつわかっていませんでした.つい最近までζ(3)は有理数になるかもしれないと思われていたのですが,1978年に,フランスの無名の数学者アペリによってζ(3)の無理数性が示されました.それを補ったのがポールテンです.ζ(3)=1.202056・・・に収束するものの,ごく最近までこの値が無理数であることすらわかっていなかったのです.

 アペリはζ(3)が無理数であることを示すために,漸化式

  (n+1)^3un+1=(34n^3+51n^2+27n+5)un-n^3un-1

に基づく連分数展開

  6/ζ(3)=5-1^6/(117-)2^6/(535-)n^6/(34n^3+51n^2+27n+5)-・・・

を使いました.ζ(3)が無理数ならば,連分数展開は無限列となります.

 ζ(3)はいまだ無理数であることしかわかっておらず,オイラーによる

  ζ(3)=2π^2/7log2+16/7∫(0,π/2)xlog(sinx)dx

という結果(log2の有理式×π^2)があるばかりです(1772年) .

 いまだζ(3)が超越数であるかどうかは知られていませんし,ζ(5),ζ(7),・・・が有理数なのか無理数なのかもわかっていません.アペリの方法はζ(5),ζ(7),・・・の場合の拡張されるに至っていないのです.

 なお,ζ(2n+1)は有理数と円周率から四則演算によって得られる数ではないだろうと予想されていますが,証明されてはいません.また,log2を含むであろうと推測されています.

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 ところが,s≧2のすべての整数でのζ(s)値は周期になることがわかっています.たとえば,積分

  I=∫(0,1)∫(0,1)1/(1−xy)dxdy/√xy

において,1/(1−xy)を幾何級数として展開し,項別積分すると

  I=Σ1/(n+1/2)^2

 このとき,

  1+1/3^2+1/5^2+1/7^2+・・・

の値が必要になりますが,この値はζ(2)=Σ1/n^2から次のようにして求まります.

  1+1/2^2+1/3^2+1/4^2+・・・

 =(1+1/2^2+1/4^2+・・・)(1+1/3^2+1/5^2+・・・)

 =1/(1−1/4)・(1+1/3^2+1/5^2+・・・)

分母を奇数のベキ乗だけにすると一般式は

  {1-2^(ーs)}ζ(s)

となるのです.したがって,

  ∫(0,1)∫(0,1)1/(1−xy)dxdy/√xy=(4−1)ζ(2)

 さらにζ(3)は,c:0<x<y<z<1として

  ζ(3)=∫(c)dxdydz/(1−x)yz

このように,多くの式の無限和も周期となります.

 なお,有名ではありませんが,次のようにゼータ関数に帰着する無限級数(n=1~)も知られています.

  3Σ1/{n^2(2n,n)}=ζ(2)

  12Σ(2-√3)^n/{n^2(2n,n)}=ζ(2)

  5/2Σ(-1)^(n-1)/{n^3(2n,n)}=ζ(3)

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[3]超幾何関数の例

 ガウスは,1812年に超幾何級数

  F(α,β,γ:x)=1+αβ/γx+1/2!α(α+1)β(β+1)/γ(γ+1)x^2+1/3!α(α+1)(α+2)β(β+1)(β+2)/γ(γ+1)(γ+2)x^3+・・・

について非常に詳細な研究を行っていたことで知られています.

 この形の超幾何関数はガウスの超幾何関数と呼ばれ,

  2F1(α,β;γ:x)

で表されます.また,α,β,γを有理数としたとき,超幾何微分方程式はピカール・フックス型になります.

 オイラーの積分表示によって

  2F1(α,β;γ:x)=Γ(γ)/Γ(α)Γ(γ−α)∫(0,1)t^(α-1)(1-t)^(γ-α-1)(1-xt)^(-β)dt

が成り立ちます.

  (1-xt)^(-β)

を2項定理を用いて展開すると

  (1-xt)^(-β)=Σ(-β,n)(-xt)^n=Σ[β]/n!(xt)^n

が得られます.これとベータ関数

  B(a,b)=∫(0,1)t^(a-1)(1-t)^(b-1)dt

を組み合わせることで,オイラーの積分表示が示されます.

 たとえば,楕円積分に関係した超幾何関数値

  2F1(1/2,1/2,2,1)=4/π

において,この余計な1/πはガンマ関数の相補公式

  Γ(x)Γ(1-x)=π/sinπx

から派生してくるものとも考えられるわけですが,超幾何関数の代数的な変数での特殊値は,1/πを除いて周期となります.

 超幾何関数の代数的な変数での特殊値はふつう超越的ですが,ときどき予期されない代数的値をとることがあります.例をあげると,楕円積分と関わる保型関数

  4√E4(z)=2F1(1/12,5/12;1;1728/j(z))

とのつながりから,ガウスの超幾何関数

  2F1(1/12,5/12;1/2;1323/1331)=3/4・4√11

など,思いもかけないような式が得られています.

 これと似たようなふるまいをする簡単な例は,無限級数(n=0~)

  Σ(n!)^2*3^n/(2n+1)!=4π/3√3

です.一般に,F(x)=Σanx^nとおくと,a0=1で連続する2項の係数比

  an+1/an

が定数となる関数を超幾何関数と呼ぶのですが,この級数の項比は

  an+1xn+1/anxn=3(n+1)^2/4(n+3/2)・x/(n+1)

ですから,

  Σ(n!)^2*3^n/(2n+1)!=a0*2F1(1,1,3/2|3/4)

また,a0=1より

  Σ(n!)^2*3^n/(2n+1)!=2F1(1,1,3/2|3/4)

より,級数Σ(n!)^2*3^n/(2n+1)!は超幾何級数2F1(1,1,3/2|3/4)であると同定されます.

 また,無限級数(n=1~)

  Σ1/{n(2n,n)}=1/2*2F1(1,1,3/2|1/4)=π√3/9

  Σ1/{(2n,n)}=1/2*2F1(1,2,3/2|1/4)={2π√3+9}/27

も同様で,現在,一般的な超幾何関数nFn-1が代数的になる条件はすでに決定されています.

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  2F1(1/2,1/2,2,x^2)=4/(πx^2)*{E(x)-(1-x^2)K(x)}

  2F1(1,1,3/2,x^2)=arcsinx/(x√(1-x^2))

  2F1(2,1,3/2,x^2)=1/{2(1-x)}*(2F1(1,1,3/2,x^2)+1)

   =1/{2(1-x)}*{arcsinx/(x√(1-x^2))+1}

 超幾何関数が重要なのは,多くの既知の関数がこの級数で表されるという事実で,たとえば,指数関数,対数関数,三角関数,2項関数,ベッセル関数,直交多項式列,不完全ガンマ関数,指数積分,ガウスの誤差関数なども超幾何級数であって,超幾何関数は一般に収束半径1をもちます.

 前述のゼータ関数も

  ζ(s)=Σ1/(n+1)^sより

  an+1xn+1/anxn=(n+1)^(s+1)/(n+2)^s*x/(n+1),a0=1

したがって,

  ζ(s)=s+1Fs(1,1,・・・,1,1|1)

   (2,2,・・・,2 | )

と表されます.

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