■周期の世界(その1)

 最も広く知られた数学記号π(3.14159・・・)は,円周の直径に対する比を表します.紀元前1800年から今日までほぼ4000年の間,πの値を一層精密に決定しようとする試みが継続してなされてきました.円を正方形化する問題は,最終的には1882年に不可能であることが示されましたが,その問題のもつ永遠の魅力から,πのより精確な値の追求は今日でも高性能の計算機を使って続けられています.

 √2やsin1°やlog2の値を何百桁まで求めようとした人はいないわけですから,πには人を魅する何か魔術的なものがあるようです.

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【1】グレゴリー・ライプニッツ級数(1671年)

 π/4=arctan1

    =1/1−1/3+1/5−1/7+1/9−1/11+・・・

=Σ(−1)^n-1 ・1/(2n+1)

 ライプニッツはπ/4がすべての奇数の逆数を交互に加えたり引いたりしてえられる無限級数の和に一致するという事実に対して「神は奇数で楽しむ」と書いていて,この式に自然の神秘の深遠さを感じ,外交官への道から数学の研究の道に転じたといわれています.

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1/(1+x)=1−x+x^2 −x^3 +・・・

これを項別積分すると

log(1+x)=x−1/2x^2 +1/3x^3 −1/4x^4 +・・・

が得られます.ここで,xをx^2 に置き換えると

1/(1+x^2 )=1−x^2 +x^4 −x^6 +・・・

これを項別積分して

arctanx=x−1/3x^3 +1/5x^5 −1/7x^7 +・・・

両辺にx=1を代入すると,グレゴリー・ライプニッツ級数

π/4=arctan1=1/1−1/3+1/5−1/7+・・・

が得られます.

 グレゴリー・ライプニッツ級数が発見されたとき,この公式を変形すればπが有理数であることが証明できるのではないかという期待があったらしいのですが,もちろんそのようなことはありえません.円周率が無理数であり,したがって循環小数ではないことは,微分積分学の初歩的な操作によって証明されています.

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【2】オイラーの第1級数(1736年)

 18世紀最大の数学者オイラーが1736年に発見した結果はエレガントなだけでなく意外なものでした.その無限級数とは

 1/1^2 +1/2^2 +1/3^2 +1/4^2 +・・・=π^2 /6

です.

 この式の驚くべき点は自然数のみを含む級数の極限に円周率πが突然現れることです.実際,この足し算をいくら見つめても答えに円周率の現れそうな気配はまったくありません.1728年にベルヌーイはこの和が8/5に近いと述べ,その後,オイラーは何年もこの足し算にとりつかれ大変な努力の末にこの値を求めましたが,π2 /6であることをつきとめたとき,平方数の逆数和のかなたに円周率が浮かび上がる不思議にとても感動したようです.

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 Σ1/n^2 =1/1^2 +1/2^2 +1/3^2 +1/4^2 +・・・

が収束することは次のようにして示すことができます.

(証明)n次部分和をPn とすると,

Pn =1/1^2 +1/2^2 +1/3^2 +・・・+1/n^2

<1+1/1・2+1/2・3+・・・+1/(n−1)・n=2−1/n

<2

より,単調増加数列{Pn }は有界でn→∞のとき収束することがわかります.

 なお,級数Σ1/n(n+1)は,優雅な公式Σ1/n^2 =π^2 /6に表面的にはよく類似していますが,

 Σ1/n(n+1)

=Σ(1/n−1/(n+1))

=(1−1/2)+(1/2−1/3)+(1/3−1/4)+・・・

=1

となり,両者の間には大きな格調の差があるという有名な例になっています.幾何学的に考慮すれば,級数Σ1/n(n+1)は縦,横それぞれ1/k,1/(k+1)の長方形を単位正方形の中に,Σ1/n2 は1辺の長さが1,1/2,1/3,1/4,・・・の正方形を1辺の長さがπ/√6の正方形の中に詰め込む問題になります.

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