■ダイヤモンド結晶とK4結晶(その8)

 (その7)では次数3,4,6の2次元格子について計量した.2次元ネットワ−クに操作を加えることによって,3次元ネットワークを網羅的に探索することができるのだが,2次元格子はタイトなので,3次元格子に変換するためにはネットワークの一部を切断する必要が出てくる.

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【1】2次元ネットワークと3次元ネットワークの次数対応

 1段目の2次元ネットを敷き詰めたあと,2段目,3段目も同様に積み重ねて,上下の段の接するネットを結ぶ.その際,たとえば六角格子の2つの6角形からその隔壁部分を除去し,次数を3に保ったまま3次元の10員環に組み換えことができる.同様に正方格子は6員環に,三角格子は4員環に変換される.2つのf角形から2f−2員環ができるのだが,かくして次数対応は以下のようになる.

     2次元     3次元

次数3  六角格子    K3格子(10員環)

次数4  正方格子    ダイヤモンド格子(6員環)

次数6  三角格子    単純立方格子(4員環)

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【2】グラフ理論的対応(最大アーベル被覆グラフ)

 次数対応は化学的には自然に見えるが,どれが自然な対応かは見方による.砂田利一先生は結晶学者とは別の視点(グラフ理論的対応)からK4格子に着目されたのであるが,科学の発展というのは多様な側面をもつことにいまさらながら感心させられる.

 以下,砂田利一先生からの受け売りでグラフ理論的対応について述べるが,六角格子は2頂点を3本の辺で結ぶグラフの最大アーベル被覆グラフ,ダイヤモンド格子は2頂点を4本の辺で結ぶグラフの最大アーベル被覆グラフ(同様に一般次元のダイヤモンド格子が定義される),したがって,六角格子は2次元のダイヤモンド格子となる.

 正方格子と立方格子も複数のループ辺をもつ1頂点からなるグラフの最大アーベル被覆グラフとなっているので次元は異なるが仲間.K4については一般に完全グラフKnを考えれば高次元の仲間ができるが,2次元には対応物がない(完全グラフK3は三角形なので,その最大アーベル被覆は1次元標準格子).

     2次元     3次元

     六角格子    ダイヤモンド格子

     正方格子    立方格子

     (−)     K3格子

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【3】等方性と強等方性

 砂田利一先生の解説によると,等方性とは少々粗っぽい言い方をすれば「任意の辺の方向に結晶を眺めたとき同じ形に見える」ということです.等方性は強等方性より弱い性質であって,強等方ならば等方ですが,逆は成り立ちません.

 たとえば,立方格子は等方的ですが,強等方性はもちません.等質性を含めた意味での「強等方性」は考えうる限りの等方性の意味の中で最も強いものなのです.

 六角格子(グラフェン),ダイヤモンド,K4は強等方性をもつという意味で数学的な親戚関係にあり,それ以外に強等方性をもつものはありません.(強等方性の定義を満たす1次元結晶は標準的なものしかなく,カルバインは定義を満たしていません.フラーレンは0次元結晶と呼んでも差し支えはないと思われますが,強等方性は満たしていません.)

 等方性で2次元格子を数え上げると(病的格子を除けば)

  正方格子

  三角格子

  六角格子(これのみが強等方的)

  カゴメ格子

  3つの無限系列

となりますが,このリストから理解されるように,強等方性を緩めて等方性とすると,結晶格子のリストは大きく膨らみます.3次元の等方的結晶格子のリストは完成していませんが,おそらく大きなリストになると思われます.

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