■ダイヤモンド結晶とK4結晶(その6)

 このシリーズでは変わった構造の炭素分子が次から次へと設計され,あるものはすでに合成されていることを紹介してきた.物質科学者は分子をかなり自由に作り上げ,その性質を調べあげることができるようになったということなのであろう.今回取り上げるのはZTC(ゼオライト鋳型炭素)である.

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【1】ZTC

 天然の粘土や岩石の中に非常に隙間の大きな篭型の格子状構造をとる物質の一群がある.ゼオライト(沸石)と総称されるが,ゼオライトは多孔質結晶で,その基本骨格は切頂八面体の正六角形面に正六角柱を貼りつけた形をしている.下の写真は,中川宏さんによる4次元空間充填30胞体の木工模型である.

 形状選択性をもつゼオライトは大気や自ら汚染物質を除去する分子ふるいとしてガソリンの精製などに役立っている.ガソリンとは違って,重油を精製するには穴の大きいゼオライトが必要になるが,そのようなゼオライトは自然界には存在しないため,物質科学者たちは人工ゼオライトを開発しようとしている.

 東北大学の物質科学グループ(京谷,西原)は酸化珪素でできたゼオライトを鋳型として使って,ZTC(ゼオライト鋳型炭素)と名付けられた炭素新物質を合成した.炭素の五員環,六員環が組み合わさった帯状のシートが立体的に結合し,ジャングルジムのようになった新構造の炭素物質であるという.

 この物質は室温で大量の水素を着脱できるため,水素燃料自動車用の水素運搬に活用できるかもしれない.すでに燃料電池の水素貯蔵用として研究が進められているという.

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【2】雑感

 このシリーズでは,太陽電池や燃料電池など省エネ技術につながる炭素新物質を紹介してきた.グラフェン(蜂の巣状面状炭素分子, honeycomb lattice),フラーレン(球状炭素分子),ナノチューブ(筒状炭素分子)と違って,K4やマッカイ結晶はまだ合成されていない.まだまだ夢の化合物の方が多いと思われるが,この夢を現実に近づける努力が世界中の実験室で続けられているし,さらにその先の可能性を夢見る人もいるのである.

 最後に構造の特徴をまとめておくが,

  グラファイト  (六員環)

  ダイヤモンド  (六員環)

  フラーレン   (六員環,五員環)

  ナノチューブ  (六員環,五員環)

  ZTC     (六員環,五員環)

  マッカイ結晶  (六員環,八員環)

  K4      (十員環)

すなわち,六員環に五員環を入れるとグラフェンが内側に反って曲面が球面に離散化する(球状に閉じる)し,七員環,八員環を入れると外側に反って,ねじれて螺旋状になるのである.

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