■ダイヤモンド結晶とK4結晶(その5)

 フラーレン(サッカーボール型炭素分子)はいくつもの六角形の合間に正五角形がはさまっていて,全体が球状に閉じている.それでは,六角形の合間に八角形をはめ込んだらどのような立体になるだろうか?

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【1】マッカイ結晶(3次元のダイヤモンド)

 1991年,ロンドン大学のアラン・マッカイが考え出したこの奇妙な立体は,ねじれ正多面体の1種であり,ひとつながりの面が縦・横・高さの三方向にどこまでも続く3次元結晶である.

 ねじれ正多面体は空間全体を2分割し,一方から他方へはどこかの面を突き抜けない限りいくことができないという性質をもつため,天文学にも応用されている.ねじれ正多面体では内側と外側が同じ構造なのである.

 マッカイはこの構造を炭素で実現させることを思いついた.K4結晶同様,まだ計算上の物質であるが,フラーレンを立体的に積み重ね,圧力を加えて接触面を合体させた構造をしている.この新しい炭素結晶構造が実際に見つかれば,グラファイトとダイヤモンドの2つの顔を併せもつものになるはずである.

 大澤映二先生らのグループのマッカイ結晶のシミュレーションでは,現在よりもはるかにエネルギー変換効率の高い太陽電池を作れる可能性かあることが期待されている.

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【2】フラーレン(0次元のダイヤモンド)

 ダイヤモンドとグラファイト(鉛筆の芯)に次ぐ炭素第3の形として「フラーレン」があげられる.フラーレンは1970年に大澤映二氏(当時京都大学)が存在を予言していた分子である.フラーレンの中でも60個の炭素原子が球殻状に結合したC60はサッカーボール(切頂20面体)にそっくりで,12個の五角形と20個の六角形からなる網目状のカゴ構造を形成している.

 1985年に,クロトー,スモーリー,カール(Kroto,Smalley,Curl)がグラファイトにレーザーを当ててできた欠片をマススペクトルにかけたところ分子量が720(C60)と840(C70)という値が得られその存在が確認された.彼らはネイチャー誌に論文を書いてサッカーボールの画を載せた.(その後,数mg〜数百mgのフラーレンが得られる製法が開発され,NMRで間違いなくサッカーボールの形であることが証明された.)

 彼らの論文はサッカーボールの形を推定しただけであるが,結局この3人が1996年にノーベル化学賞をもらって,大澤映二氏の名前は世界に広く知られることはなく随筆で止まってしまった.日本人にとっては残念なストーリーであるが,大澤映二氏は有機合成のエキスパート,現在でも精力的に人造・人工ダイヤの研究を行っておられる(現・ナノ炭素研究所).

 その後,サッカーボール型のC60だけでなく、ラグビーボール型のC70,金属を内部に取り込んだC80などが次々に発見され,これら一群の球状炭素分子はフラーレンと総称される.

 フラーレンはダイヤモンドに次ぐくらい硬く,セシウムやルビジウムなどのアルカリ金属を加えると超伝導をおこすという化学的性質をもつ.切頂20面体は頂点が60あり,どの頂点からも3本の手がでている.したがってC60では30本の二重結合(12500のケクレ構造)が描ける.また,異性体は1812種類もあり,そのうちで12個の五角形がすべて離れているものが1つだけあり,それがサッカーボール型のC60である.この形は最も安定であるが,C60,C70以外にも正五角形12枚,正六角形は20枚〜100枚以上の0次元ダイヤモンドが知られている.

 フラーレンの抗酸化薬としての作用をアルツハイマー病の治療に応用したり,きわめて微小なドラックデリバリー物質として,がん細胞を狙い撃ちする用途も検討されている.

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(Q)五角形と六角形からなる多面体には五角形が常に12個ある.

(A)オイラーの多面体定理で示される制限からいえることとして,

  v−e+f=2,2e≧3f,2e≧3v

を組み合わせると,

  2v+2f=2e+4≧3f+4 → f≦2v−4

  2v+2f=2e+4≧3v+4 → v≦2f−4

また,別の組合せ方をすると,

  3v+3f=3e+6≦2e+3f → 3f−e≧6

  3v+3f=3e+6≧2e+3v → 3v−e≧6

 n本の辺をもつfn枚の面とn本の辺が交わるvn個の頂点をもつ凸多面体について,

  F=f3+f4+f5+・・・

  2E=3f3+4f4+5f5+・・・

  6F−2E≧12

に代入すると

  3f3+2f4+f5−f7−2f8−3f9−・・・≧12

 地図のように2つの辺に囲まれた領域まで許すことにすると,この数え上げ公式は

  4f2+3f3+2f4+f5−f7−2f8−3f9−・・・=12

となり,係数が1ずつ小さくなり,それが0となるf6は式中に現れない.

 ここで,

(1)f2=f3=f4=0だとすると,少なくとも12個のf5がなければならないことになる

(2)多面体の面がすべてf5とf6であるならば,f5=12(切頂二十面体)

(3)多面体の面がすべてf4とf6であるならば,f4=6(切頂八面体)

(4)多面体の面がすべてf4,f6,f8であるならば,f4=f8+6(斜方切頂立方八面体)

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【3】カーボン・ナノチューブ(1次元のダイヤモンド)

 1次元の炭素同素体といえば,カルバイン(単結合と3重結合を交互にもつ長鎖分子,アセチレンをずっと伸ばしたような炭素の1次元同素体)のようなものを思い浮かべるのが普通であるが,グラファイトをぐるっと管状に丸めたものもれっきとした1次元ダイヤモンドである.

 すべての面が六角形であるような多面体は存在しない.蜂の巣状六角形タイル貼りに五角形タイルを1つ入れるとその部分が盛り上がった曲面となる.五角形タイルの数を増やしていって12枚になったところで閉じたい多面体となる.これを2つに切って両半球にそれぞれ6枚ずつの五角形が含まれる場合(6,6)に,半球間にグラファイトを細い円筒状に巻いたものがカーボン・ナノチューブである.

 カーボン・ナノチューブは1991年,飯島澄男氏(当時NEC)により発見された1次元物質である.興味深いことにグラファイトシートの巻き方によって電気伝導性が大きく変わり,電気をよく伝えるものから電気を伝えにくいものまでいくつかの種類がある.このことから次世代半導体としてカーボン・ナノチューブが注目されている.

 最近ではグラファイトを円錐形に丸めたナノコーンも面白い性質をもつ物質として応用上注目されているという.円錐にするには両端のキャップ部分の五員環を(6,6)ではなく,(1,11),(2,10),(3,9),(4,8),(5,7)の組にする.したがって,ナノコーンの仰角は5種類に限られる.(5,7)では5個側から7個側にチューブが徐々に太くなる.また,らせんを作るには五員環,六員環以外に七員環を入れる必要がある.

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