■空間分割と14面体(その2)

 3次元凸集合に対し,表面積をS,体積をVとすると,

  S^3/V^2≧36π=113.10

が成り立ちます.等号成立は球のときだけで,すべての立体中で球が表面積に対して最大の体積をもっています.

 それでは,f個の面をもつ多面体の中で等周比の最小値を与えるものは何でしょうか?

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【1】メディアル多面体

(Q)等周比の点からいえば,5種の正多面体では正4面体が最も球に遠く,正20面体が最も球に近いことになります.それでは,f個の面をもつ多面体の中で等周比の最小値を与えるものは何でしょうか?

(A)答えはf=4,6,12ではプラトンの正多面体,すなわち,正四面体,立方体,正十二面体が最小値をとります.しかし,f=8で等周比の最小値をあたえるものは正八面体ではありません.

 フェイェシュ・トートの「配置の問題−平面・球面・空間における−」みすず書房にはf=8で等周比の最小値をあたえるものはアルキメデスの反プリズムとあったと記憶しているのですが,マイケル・ゴールドバーグの論文:

  M. Goldberg: The isoperimetric problem for polyhedra, Tohoku Math. J. 40, 226-236(1935)

には四角形4枚,五角形4枚からなるメディアル多面体(4^45^4)が極値を与えることが紹介されています.

          等周比

  正八面体    187.06

  六角柱     187.06

  歪重角錐    181.55

  4^45^4    180.23

  S^3/V^2≧54(f−2)tan(ωf)(4sin^2(ωf)−1)=177.45

ただし,等号は3稜頂点多面体に対してのみ成り立つことに注意して下さい.一方,3角形多面体に関しては

  S^3/V^2≧54(f−2)(3tan^2(ωf)−1)

 同様にf=20も未解決のまま残っていますが,五角形12枚,六角形8枚からなるメディアル多面体(5^126^8)が極値を与えることが紹介されています.

          等周比

  正二十面体   136.46

  5^126^8    133.31

 これらのことからゴールドバーグは最小値はメディアル多面体(どの面も[6−12/f]角形または[6−12/f]+1角形)のとき達成されると予想しました.f≧12のとき,メディアル多面体の構成は5^126^(f-12)になります.

[補]f=10のとき,等周比の最小値はねじれ重角錐台(4^84^2:シリコンフラーレン),f=32では切頂20面体(サッカーボール),f=42では切稜12面体により達成される.

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【2】ゴールドバーグの14面体

 14面体というと,重角錐台型(4^126^2)やねじれ重角錐台型(5^126^2)も考えられます.ねじれ重角錐台型はケルビンの14面体と区別するために「ゴールドバーグの14面体」と呼ばれています.

                 五角形面  平均会合面数  空間分割

  α−14面体(4^66^8)    なし    5.143    可

  β−14面体(4^25^86^4)  あり    5.143    可

  重角錐台 (4^126^2)     なし    4.286   不可

  ねじれ重角錐台 (5^126^2)  あり    5.143   不可

 f≧12のとき,メディアル多面体の構成は5^126^(f-12)になります.f=14のときは5^126^2型のねじれ重角錐台(truncated double skew pyramid)となります.

 もし,ゴールドバーグの予想が正しければ,f=14のときの等周比の最小値はケルビンの14面体(4^66^8)ではなく,ゴールドバーグの14面体(5^126^2)によって達成されることになります.

          等周比

  4^66^8    150.123

  5^126^2    143.89

 ゴールドバーグの14面体はspace fillerではありませんが,後述するウィア・フェランの14面体のところにでてくる多面体です.

[補]f面をもつ多面体の個数

  f=4        1

  f=5        2

  f=6        7

  f=7       34

  f=8      257

  f=9     2606

  f=10   32300

  f=11  440564

[補]f面をもつ3稜頂点多面体の個数

  f=4        1

  f=5        1

  f=6        2

  f=7        5

  f=8       14

  f=9       50

  f=10     233

  f=12    7616

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【3】ケルビンの14面体

 空間分割のひとつの例として石鹸の泡によるものがあり,昔から物理学者の研究の対象になってきた.石鹸の泡による空間分割に結びつく物理的作用はいうまでもなく表面積を極小化しようとする力(表面張力)であるから,ここでは石鹸膜を作る素材の総量を一定なものと仮定してみよう.最小の素材の下で得られるべき利得を最大にすることは商業上重要というだけでなく,物理学分野でも合目的的な構築原理である.

 等周定数(S^3/V^2)を用いて体積1のときの表面積を求めると,菱形12面体型分割では

  3√(S^3/V^2)=3√(108√2)=5.345・・・

切頂8面体型分割では

  3√(S^3/V^2)=3(1+√12)/4・3√4=5.314・・・

と後者の方が約0.5%少なくなる.

 このようにして,1887年,英国の物理学者,ケルビン卿(ウィリアム・トムソン)は石鹸の泡による空間分割の力学的研究から切頂八面体の集合によって空間を満たすことができ,そのときの界面積は菱形十二面体で満たしたときより小さいことを発見した.

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【4】ウィリアムズの14面体

 f=14の単一多面体による空間分割を考えると,まず,切頂八面体とその変形,すなわち8個の六角形と6個の四角形の面をもつものがあげられる(4^66^8).これは1887年にケルビンが石鹸の泡による空間分割の力学的研究から誘導したものである.然るに,ケルビンの14面体はまったく5角形の面をもたず,理論と実際の間に大きな乖離があることになる.

 ケルビンの14面体(α14面体)は長い間空間を隙間なく分割しうる単一の多面体で,空間分割の局所条件を満足する唯一のものであると信じられてきた.面を平面にするという条件下にはこれは今日でも通用することである.ところが,曲面の存在を許せば空間分割の局所条件を満たしながら空間を隙間なく充填しうる14面体がもう1種類あることを1968年になってウィリアムズが報告している.この間,実に1世紀近い年月の隔たりがある.

 この14面体(β14面体)は8個の五角形,4個の六角形,2個の四角形の面をもつ(4^25^86^4).β14面体はα14面体の2つの[4,6,6]型頂点を連結した屋根状部分を90°回転させて[5,5,5]型頂点に組み替えたものと考えることができる.幾何学的性質の単純さはα14面体に劣るが,α14面体はまったく5角形の面をもたないから,β14面体のほうが空間分割のある側面をよく表していると考えることができるだろう.

 また,α型でもβ型でも空間分割の局所条件を満足し,位相幾何学的な面の数は14になる.この結論は重要である.空間分割の局所条件を満足させる多面体は14面体であり,それ以外にこの条件を満足する単一多面体は存在しないことを明確に示すからである.たとえば,12面体だけで空間分割の局所条件を満足させながら空間を隙間なく分割することは不可能なのである.

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【5】ウィア・フェランの極小曲面

 同じ体積の泡が集まっているときに,境界面積が最小となる泡の形は何だろうかという問いに対して,ケルビンの14面体(4^66^8)は100年以上もの間,最も効率よく空間を充填する多面体として最善の答であったが,本当に表面積を最小化する多面体であるのかというと否定的であって,実はこの問題はいまでも未解決問題となっている.

 もし,体積が同じで形の異なる2種類の多面体を組み合わせてみたら,ケルビン問題の反例がみつかるのでは・・・.そして,1994年,アイルランドの物性物理学者,ウィアは合金構造をヒントにもっと面積が小さくなる解を発見した.それは同じ体積の2種類の多面体による空間充填であって,不等辺五角形の面をもつ12面体(5角形12枚)と14面体(5角形12枚と6角形2枚:ゴールドバーグの14面体)が1:3の割合で並ぶものである.

 もちろん,この12面体は正十二面体ではないし14面体もケルビンの14面体ではない.そして,ウィアの空間充填ではウィリアムズの14面体(4^25^86^4)の場合と同様に辺や面には微妙な曲がりが含まれている.また,ウィアの空間充填ではウィリアムズの14面体よりも多くの五角形の面をもつという特徴もあげられる.

 そしてこれらの多面体の表面積はケルビンの14面体よりも0.3%小さいことが判明したのである.曲面の高精度計算がコンピュータでできるようになったことがこの新発見に繋がったのであるが,辺や面を微妙に調節することによって空間充填が可能となる.

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