■ピタゴラスの定理と・・・(その2)

 (その1)では,ピタゴラス三角形ばかりを生成し,しかもすべて網羅する行列

    [−1,−2,2]

  P=[−2,−1,2]

    [−2,−2,3]

  [参1]小林吹代「ピタゴラス数を生み出す行列のはなし」ベレ出版

のことをを紹介しました.驚くべきことに行列Pが発見されたのは50年くらい前のことなのだそうです.

  [参2]細矢治夫「ピタゴラスの三角形とその数理」共立出版

のもっと詳細な解説がありますので,行列Pが出てくる舞台裏に隠されている数学的な本質(金鉱脈)について知りたい方はぜひ購読(お買い上げのうえ読破)されるとよいでしょう.

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【1】ピタゴラス三角形の生成行列

    [−1,−2,2]

  P=[−2,−1,2]

    [−2,−2,3]

とします.この行列の逆行列P^-1はP自身で,

  P^-1=P,|P|=−1

になっています.

 ここでaを奇数,bを偶数,cを奇数と約束し,(a,b,c)=(4,3,5)ではなく,(3,4,5)を選ぶことにします.そして(a,b,c)=(3,4,5)’を第1象限上のベクトルとみると,A=(−3,4,5)’は第2象限,B=(−3,−4,5)’は第3象限,C=(3,−4,5)’は第4象限上のベクトルとみなすことができます.このとき,

  PA=(5,12,13)’

  PB=(21,20,29)’

  PC=(15,8,17)’

はすべてピタゴラス三角形になります.

 変換後のピタゴラス三角形は変換前より大きくなりますから,最小の既約ピタゴラス三角形として(a,b,c)=(3,4,5)を選ぶとすべての既約ピタゴラス三角形をもれなくつくり,しかも既約ピタゴラス三角形以外はつくらない変換になっていることが証明されます.

 なお,この変換の裏には

  [m’]=[1,−2][m]

  [n’] [0,−1][n]

が潜んでいます.

  R=[1,−2]

    [0,−1]

とおくと,

  R^-1=R,|R|=−1

を満たします.

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【2】バーニングとホールのピタゴラス三角形生成行列

 1970念に,アメリカのホールは

    [1,−2,2]     [ 1, 2,−2]

  U=[2,−1,2] U^-1 =[−2,−1, 2]

    [2,−2,3]     [−2,−2, 3]

    [1,2,2]     [ 1, 2,−2]

  A=[2,1,2] A^-1 =[ 2, 1,−2]

    [2,2,3]     [−2,−2, 3]

    [−1,2,2]     [−1,−2, 2]

  D=[−2,1,2] D^-1 =[ 2, 1,−2]

    [−2,2,3]     [−2,−2, 3]

という3つの3次正方行列U(up),A(across),D(down)を発見した.ホールとまったく同じことをオランダのバーニングが1963年に発見していたことが後に判明した.

  P=(3,4,5)’

にかけると

  UP=(5,12,13)’

  AP=(21,20,29)’

  DP=(15,8,17)’

はすべてピタゴラス三角形になる.さらに,この3つのベクトルにU,A,Dをかけると,あらたに9つのピタゴラス三角形になる.

バーニングとホールはこの操作を無限に続けていくことによって,すべての既約ピタゴラス三角形をもれなくつくり,しかも既約ピタゴラス三角形以外はつくらない変換になっていることを証明したのである.

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 行列の一部の要素の符号を変えただけで逆行列ができてしまうところが不思議である.また,

  |U|=|D|=1,|A|=−1

とAだけが違う結果になる.

 さらにUとDについては

          [k^2, −2jk,  2jk]

  U^j/k=1/k^2[2jk,k^2−2j^2,2j^2]

          [2jk,−2j^2,  k^2+2j^2]

          [k^2−2j^2,2jk,2j^2]

  D^j/k=1/k^2[−2jk,  k^2, 2jk]

          [−2j^2,  2jk,k^2+2j^2]

で与えられる.

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