■ウィア・フェラン泡(その57)

 ウィア・フェラン泡は合金構造の研究から発見されたものであるが,この形は自然界には存在するだろうか?

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[4]クラスレート化合物の世界

 クラスレート化合物は小さな分子を水分子が取り囲んだかご状構造体である.メタンハイドレートはその1例で,かご状構造体として安定化する.クラスレートの世界では,単独の空間充填多面体としてケルビンの14面体(4^66^8)やウィリアムズの14面体(4^25^86^4),2種類以上の多面体(曲面)の組合せによる空間充填としてはウィアの12面体・14面体の組合せ以外にも12面体(5^12)と16面体(5^126^4)の2種類の組合せ,12面体(5^12),12面体(4^35^66^3),20面体(5^126^8)の3種類の組合せが知られている.

 これらのなかで普遍的に認められるのは後3者で,それぞれ構造体T,U,Hと呼ばれている.構造体Tがウィア・フェランの極小曲面に相当するものである.ウィリアムズの14面体型(4^25^86^4)は比較的最近発見されたクラスレートであって,特殊な物理的環境下でしか存在しない.

 このことから,等積空間充填多面体では5角形の頻度が最も高いと事実を窺い知ることができるだろう.それに対して,切頂八面体を含むケルビンの14面体はまったく5角形面をもたない.14面体の面のかたちについては,オイラーの多面体定理より必然的に辺数5を中心とする分布をなすことが計算されるのだが,どうして5角形の頻度が高くなるのだろうか?

 理由はシンプルであると考えられる.すべての面が六角形であるような多面体は存在しない.蜂の巣状六角形タイル貼りに五角形タイルを1つ入れるとその部分が盛り上がった曲面となる.五角形タイルの数を増やしていって12枚になったところで閉じた多面体となる.すなわち,6角形面を5角形面に変換することは平面構造からから球面構造への変換に繋がる.表面積は小さく体積は大きくというわけであるが,真空中ではともかく,水中の空間分割では丸くなることが重要な物理的要請になっていると考えられる.

 このような変換によって,側面に5角形を有する効率の良い空間分割を実現しているものと想像されるのであるが,ともあれウィアの極小曲面が最も境界面積が小さな形になっているかという問題はまだ解決されていない.「同じ体積の泡が集まっているときに,境界面積が最小となる泡の形は何か?」は,泡の種類を増やせば面積をもっと減らすチャンスがあり,それで科学者たちは現在もより効率の良い空間分割法を探索し続けているのである.

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