■高次元結晶と通信理論(その13)

 (その8)を補足.

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 立方体は単独で空間全体を格子状に埋めつくすことができる.このことはこれ以上説明するまでもないだろう.単純立方格子状配置(SC),すなわち角砂糖の箱の封を切ったときに見えるパターンでは1頂点に集まる多面体の数は8個になり,空間分割の局所条件は満足されない.立方格子を作るような形の積み上げでは1つの細胞の格子線方向の移動は他の1つの細胞が支持して止めるので,ある方向に力を加えた場合に全体が変形する可能性をもっていて,力学的に不安定なのである.

 立方体以外の単一多面体による空間分割(空間充填体)としては,菱形十二面体や切頂八面体がよく知られている.両者はしばしば対比され,どちらも単独で空間充填可能な立体図形であるが,菱形十二面体が面心立方格子のボロノイ図であるのに対して,切頂八面体は体心立方格子のボロノイ図となっている.

 菱形十二面体の頂点には3価の頂点と4価の頂点の2種類ある.3価の頂点の周りには4つの立体が出会い安定であるが,4価の頂点の周りには6つの立体が出会うため不安定となる.6角柱,長菱形12面体の場合も同様に考えることができる.

 切頂八面体はすべての頂点に3つの辺が集まる単体的多面体である.そのため,切頂八面体が空間を合同な部分に分割する際,どの頂点でも4つの切頂八面体が出会うようになっていて,安定な空間充填多面体となる.すなわち,1点に4個の多面体が会してボロノイ分割に対して安定なものは切頂八面体だけなのであるが,立方体や菱形十二面体は切頂八面体の辺を点に縮めることによって得られるので,頂点や辺だけで接している多面体を生じるというわけである.

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 ところで,n次元BCC配置(体心立方格子状配置)が存在することは中間値の定理から証明される.

 n次元立方体で空間を格子状に埋めつくしておいて,頂点と中心を結ぶ線に直角に角をを少しずつ削っていく.ここにできるスペースはそのままにしないでn多胞体を充填する.はじめのうち角にできる多胞体は正軸体であるが,そのうち切頂正軸体に変わり,ついには立方体へと変化する.

 また,もとの立方体も次第に形を変え,最後には消滅することになる.その途中,両者の形状係数(shape parameter)が一致する瞬間があり,これがBCC配置のボロノイ領域となるのである.

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 これが中間値の定理に負っているのであるが,「白石180個と黒石181個,あわせて361個の碁石が一列に並んでいる.どのように配置したとしても,それより右にある碁石をすべて取り除くと白黒同数となる碁石が存在する」ことも中間値の定理が保証してくれるのである.

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