■デーン不変量と二面角の幾何学(その2)

 昨年アップロードしたコラム「デーン不変量と二面角の幾何学」に一部誤りがあったので,そのお詫び・訂正・補足をしておきたいと思います.

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【1】デーンの定理(1901年)

 「正四面体と直方体は(たとえ同じ体積をもっていたとしても)分割合同ではない」ことは,正四面体の二面角δがπとは通約できない,すなわち,0でない整数n1,n2に対して

  n1δ+n2π=0

が成り立たないことを使って証明されます.ここで,正四面体の二面角δは

  cosδ=1/3,δ=arccos(1/3)

でπの有理数倍ではありません.

 ここでひとつ補足しておきたいのですが,

  n1δ+n2π≠0

は1個の正四面体が1個の立方体に解体再編されないことを示しているのみならず,2つの正四面体を併せても1個の立方体に解体再編されない,逆に,正四面体半分は1個の立方体に解体再編されないことをも示しています(定性的評価).

 ただし,正四面体の内部だけをくり抜いて立方体が構成できるというのでは困りますから,正四面体固有部分である稜の近傍が含まれることを要請する必要はありますが,正四面体の稜の近傍は立方体の稜の近傍には解体再編されないことを主張しているわけです.

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[注]多面体Pに対して,デーン不変量は

  Σ(ai,αi)

で定義されます.ここでaiは辺の長さ,αiは二面角です.

 定量的評価,たとえば数量を限定して,1個の正四面体が1個の立方体に解体再編されない,2つの正四面体を併せても1個の立方体に解体再編されない,などを証明したい場合には,

  n1δ1+n2δ2≠0

ではなく

  n1Σ(ai,αi)+n2Σ(bi,βi)≠0

を示す必要があります.

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【2】デーンの定理の一般化

 正多面体の二面角は

  正四面体 → cosδ4=1/3,δ4=70.5288°

  立方体 → cosδ6=0,δ6=90°

  正八面体 → cosδ8=−1/3,δ8=109.471°

  正十二面体 → cosδ12=(1−φ^2)/(1+φ^2)=−√5/5,tanδ12=−2,δ12=116.565°

  正二十面体 → cosδ20=(1−φ^4)/(1+φ^4)=−√5/3,sinδ20=2/3,δ20=138.19°

でδ4,δ6,δ8,δ12,δ20はすべて超越数です.

 したがって,デーンの定理と同様の議論から

  n1δ4+n2δ6≠0,n1δ4+n2δ8≠0,n1δ4+n2δ12≠0,

  n1δ4+n2δ20≠0,n1δ6+n2δ8≠0,n1δ6+n2δ12≠0,

  n1δ6+n2δ20≠0,n1δ8+n2δ12≠0,n1δ8+n2δ20≠0,

  n1δ12+n2δ20≠0

がいえます.すなわち「立方体と正八面体は(たとえ同じ体積をもっていたとしても)分割合同ではない」,「正四面体と正八面体は(たとえ同じ体積をもっていたとしても)分割合同ではない」等々.

[注]コラム「デーン不変量と二面角の幾何学」では,正四面体と正八面体の二面角は互いに補角(δ4+δ8=π)をなすので,

  n1δ4+n2δ8≠0

はいえないと書いたが,mod πで還元する必要はなく,

  n1δ4+n2δ8≠0

も成り立つ.

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 それでは,5種類の正多面体で

  n1δ4+n2δ6+n3δ8+n4δ12+n5δ20≠0

は成り立つでしょうか?

 それは否です.δ4+δ8=π=2δ6より,(n1,n2,n3,n4,n5)=(k,−2k,k,0,0)のとき,

  n1δ4+n2δ6+n3δ8+n4δ12+n5δ20=0

なるケースがあるからです.

 しかし,δ8=π=2δ6−δ4より

  n1δ4+n2δ6+n3δ8+n4δ12+n5δ20

 =(n1−n3)δ4+(n2−2n3)δ6+n4δ12+n5δ20

ここで,改めて

  N1=n1−n3,N2=n2−2n3,N3=n4,N4=n5

とおくと

  N1δ4+N2δ6+N3δ12+N4δ20≠0

は成り立ちます.

 このことから(δ4,0,0,0),(0,δ6,0,0),(0,0,δ12,0),(0,0,0,δ20)は4次元格子点空間の基底として理解することができます.基底の数はこれ以上減らすことはできません.

[注]3次元の正多面体の二面角について,δ6=90°,δ4+δ8=180°という関係があり,(n1,n2,n3,n4,n5)=(k,−2k,k,0,0)のとき,

  n1δ4+n2δ6+n3δ8+n4δ12+n5δ20=0

ですが,それ以外の有理数関係はないようです.また,

  N1δ4+N2δ6+N3δ12+N4δ20≠0

  N1δ8+N2δ6+N3δ12+N4δ20≠0

の一方が成り立てば他方も成り立ちます.

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【3】秋山の定理(2009年)

 秋山仁先生は

(Q)何種類かの凸多面体ピースを使ってすべての正多面体を作ること

という問題を考えて,実際に4種類の元素をα,β,γ,δとすると正四面体はα8,正20面体はβ24,正八面体はβ24γ24,立方体はα8β12γ12,正12面体はα8β12γ12δ12で構成されることを示しました.このことから

  [秋山の定理:2008]正多面体の元素数は≦4である.

となります.

 一方,デーンの定理の一般化により,

  N1δ4+N2δ6+N3δ12+N4δ20≠0

は整数係数(有理係数)で線形独立ですから,必要な原子が最低4種類という結論が主張できます.

  [秋山の定理:2009]正多面体の元素数は≧4である.

 このことは正多面体の元素数は少なくとも4種類であり,at most 4とat least 4,これらのことから正多面体の最小元素数は4であると推定されますが,α,β,γ,δはその例であり,秋山仁先生は実際に最小元素数4の例が構成できることを示したことになります.

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