■クラインの整数(その7)

 ユークリッド整域は,ある数体系内で,除法

  α=β・γ+δ,|δ|<|β|

は可能かという問題ですが,単項イデアル整域(PID)は素因数分解の一意性が成り立つかどうかという問題です.

 前者は数論幾何学的に計算できるのでわかりやすいが,それに比べ,後者はわかりづらい代物である.しかし,後者でも

  0<a<2√(d/3),−a/2<b<a/2  (a^2/4>b^2)

を満たすイデアル(a,b+√−d)が存在して,その個数は4d/3未満であるという幾何学的名構造は存在する.そして,イデアル類群の位数を類数と呼ぶ.

[1]ユークリッド整域ならばPIDである.しかし,逆は成り立たない.PIDはユークリッド整域とは限らないのである.

[2]したがって,Z(√−1),Z(√−2)はPIDであるが,Z(√−d),d>2はPIDとは限らないことになる.実はZ(√−d),d>2は決してPIDとにならないのである.

===================================

 八元整数は成分がすべて整数の数だけでは不十分で,適当に半整数(整数+1/2)も含める必要があります.

 ここで,八元整数の体系内で,除法

  α=β・γ+δ,|δ|<|β|

は可能かという問題があるのですが,ケイリー(その後何人か)が代数的に証明しようとして失敗したという逸話が伝わっています.

 それは可能なことをはじめて証明したのがコクセターです.その証明は幾何学的で,8次元空間内で正単体と正軸体をうまく組み合わせると空間充填可能になります.コクセターは八元整数全体をうまく結ぶと自然にその充填形ができることを証明し,β^-1αに最も近い八元整数γが1未満にあることを幾何学的に証明したことになります.

 なぜなら,辺の長さが1の正単体,正軸体で頂点から最も近いのはその中心で,そこまでの距離名それぞれ

  2/3<1,1/√2<1

となるからです.

 代数的に証明しようとして失敗した難問が,図形的に考えれば,ほとんど自明な事実となってしまったというわけです.

===================================