■クラインの整数(その2)

[3]ベイカー・スタークの定理

 ガウスの数体Q(i),アイゼンスタインの数体Q(ω)の場合を考えましたが,それに対して,Q(√−5)では

  6=2・3=(1+√−5)(1−√−5)

のように,素数の積に2通りに表されるような状況を生じてしまうのです.(2,3は素数であるし,1+√−5,1−√−5はいずれも

  a+b√−5

のなかには±1と±それ自身以外の約数をもたないので「素数」である.)

 それでは,どういう負の数−dを使った数体系Q(√−d)で,素因数分解は一意となるのでしょうか?

 この答えは既に知られていて,次の9つの虚2次体Q(√d)

  −d=1,2,3,7,11,19,43,67,163

に限られるというものです.このコラムをご覧の読者であれば,最初の2つ以外では半整数a,bを使って,a+b√−dを作る必要があることはおわかりでしょう(=1(mod4)).

 現在,9個の数はヘーグナー数と呼ばれています.ずいぶん以前からこの9個の数は知られていたのですが,10番目の数が存在するかもしれない・・・というまどろっこしい状態が続いていました.その経緯について触れておきたいのですが,1932年,ハイルブロンとリンフットが10番目のdがあるとすれば,それは10^11よりも大きくなることを示しました.また,1952年,ヘーグナーが9個ですべてだという証明を発表しましたが,彼は高校の教師であり研究者として部外者であったため,この証明は懐疑的というよりは間違ったものと受け取られていたようです.

 そして,1966年,アメリカのスタークとイギリスのベイカーが独立に世界中を納得させる証明を与えました.それは不正確であるとして無視されたヘーグナーの証明の誤りを払拭するものでもありましたが,残念ながら,ヘーグナーは1965年に亡くなっており,自らの名誉回復をその目で見ることはできませんでした.また,1968年,ドイリングはヘーグナーの証明を修正することに成功しましたが,既にそのときはベイカー,スタークに先を越されていて遅きに失した状況にありました.

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[4]クラインの整数

 ベイカー・スタークの定理により,ガウス整数とアイゼンスタイン整数は一意分解性をもつことがわかりますが,それに続いて最も簡単な整数環は

  λ=(−1+√−7)/2

  a+bλ

です.

 クライン整数は2つの単数±1のみをもち,菱形格子をなします.クライン環の特徴は,2が素因数分解されることです.

  2=(−1+√−7)/2・(−1−√−7)/2

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