■空間充填四面体の木工製作(その3)

 2:√3:√3の合同な二等辺三角形4枚からできる工藤の三角錐(テトラドロン)は面白い性質をもっている.8個組み合わせるともとと同じ形で2倍(体積は8倍)の一回り大きい四面体になる.3個組み合わせると三角柱ができる.

 この三角柱を垂直に切った断面は正三角形になるが,工藤の三角錐は(その2)で述べた無限系列(1)に属する空間充填四面体である.二面角がπ/3,π/2の無限系列(1)の特殊型といってもよい.

 「ボロノイ細胞と平行多面体(その20)」では展開図が平面充填五角形になる空間充填四面体を調べたが,これは

  [参]中村義作「数理パズル」中公新書427

も紹介されていることから,この四面体を「中村の三角錐」と呼ぶことにする.中村の三角錐は正三角形や正六角形が平面を隙間なく敷き詰めるように,空間を隙間なく埋めつくすことができる.

 中村の三角錐も断面が正三角形となる三角柱から逆に展開図が五角形になるダブル充填四面体として求められたものである.それでは,中村の三角錐も無限系列にに属する空間充填四面体だろうか.

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【1】展開図が五角形になるための条件

 正三角形の1辺の長さをaとし,頂点の位置を(0,0),(a/2,a√3/2),(−a/2,a√3/2)にとる.

 ダブル充填四面体

[1]v=3:工藤の三角錐(二等辺三角形)

[2]v=4:工藤の三角錐(平行四辺形)

[3]v=5:?

[4]v=6:鼈臑(平行六辺形)

の展開図の基本形は平行六辺形であるから,展開図が五角形になるためには展開図の3点が同一直線上にあることが必要となる.

 そこで四面体の3頂点の座標を

  A(−a/2,a√3/2,1)

  B(0,0,0)

  C(a/2,a√3/2,−1)

とおいても一般性は失われない.

 また,工藤の三角錐は4枚,鼈臑は2枚の二等辺三角形をもつ.展開図が平面充填五角形になる空間充填四面体にも2枚の二等辺三角形をもたせるために

  D(0,0,3)

とおく.

 これより,四面体の各面は三辺の長さがそれぞれ

  (a^2+4)^1/2,(a^2+1)^1/2,3

  3,(a^2+1)^1/2,(a^2+16)^1/2

  (a^2+4)^1/2,(a^2+16)^1/2,(a^2+4)^1/2

  (a^2+4)^1/2,(a^2+1)^1/2,(a^2+1)^1/2

の三角形となる.

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【2】展開図が平面充填図形になるための条件

 展開図が平面充填図形になるためには,五角形を2個組み合わせると3組の対辺がすべて平行な六角形になることが必要である.

 そこで,それぞれの三角形の内角のひとつをθ,α,β,γ

  cosθ=(2a^2−4)/2(a^2+4)^1/2(a^2+1)^1/2

  cosα=(2a^2+8)/2(a^2+1)^1/2(a^2+16)^1/2

  cosβ=(a^2+16)/2(a^2+16)^1/2(a^2+4)^1/2

  cosγ=(a^2+4)/2(a^2+4)^1/2(a^2+1)^1/2

とおくと,

  θ+α+β+γ=π

となるようなaを求めればよい.

 ここまでくればあとは数値計算の問題で,計算結果は

  a=3.93737

  θ=41.179°

  α=31.2016°

  β=50.5451°

  γ=57.0744°

となった.

 辺の長さは

  (a^2+1)^1/2=4.06237

  (a^2+4)^1/2=4.4162

  (a^2+16)^1/2=5.61274

 また,二面角を求めると,

  38.1109°,51.8892°,60°

  66.9084°,90°,113.092°

で,2πの整数分の1(60°,90°)が含まれている.

  38.1109°+51.8892°=90°

  66.9084°+113.092°=180°

はそれぞれ直角,二直角の補角をなす.

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【3】まとめ

 工藤の三角錐は無限系列(1)に属したが,中村の三角錐は無限系列(2)に属し,その意味ではS3の仲間である.したがって,中村の三角錐2個で無限系列(1)になり,それを組み合わせると正三角柱ができる.

 なお,S1は工藤の三角錐(2/24立方体),S2は1/24立方体,S3は1/12立方体,H1は鼈臑(べつどう)である.鼈臑(べつどう)は単位立方体[0,1]^3の1≧x≧y≧z≧0なる部分である.すなわち,1/6立方体であって,秋山仁先生によりテトラドロンと名付けられている.

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