■わが闘争・2008

 今年は書きも書いたり160余篇.昨年10月,壊れたパソコンが復旧してからは日記代わりに書くようになり,それ以来3日に1篇以上のハイペースが続いている.

 質はともかくコンテンツの量だけは書いた当人ですら仰天しているのだが,今回のコラムではシリーズものを中心にして1年を時系列的に振り返ってみることにしたい.

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【1】カンタベリー・パズルの木工製作

 このシリーズでは中川宏さんにお願いして数学教育用の玩具をいくつか設計・製作した.それらは来年オープンされる予定の富良野の数学ワンダーランドにて展示されることになっている.NPO科学協力学際センター(川添良幸代表理事)が製作協力してくれた正多角形ドリルや正多面体製作用の発泡スチロールカッタも寄贈される予定である.

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【2】楕円積分の加法定理

 レムニスケートには円に共通する性質があり,定規とコンパスだけで奇数のn等分することができる必要十分条件はnがフェルマー素数(n=22^m+1の形の素数:3,5,17,257,65537)であることである.とはいうものの自分でn等分を試みたことのある人はきわめて少ないであろう.かくいうわたしもその一人であるが,ファニャーノの変数変換を用いてn等分してみたのがこのシリーズである.

 円もレムニスケートも2等分点,3等分点,5等分点をコンパスと定規を使って作図可能である.それに対して,楕円は円を一方向に一定の倍率で伸縮したアフィン変換図形であるにもかかわらず,円のように弧長を2等分,3等分,5等分できなかった.その意味では円のもつ性質を引きずっていないことになる.また,中間曲線(円とレムニスケートの中間にあることから私が勝手に名付けた曲線)にも,円のもつこの性質は遺伝していなかった.

 これらの不可能性の根拠となる楕円積分に関してはオイラー全集T−20,21に掲載されているのだが,現在では

  http://math.dartmouth.edu/~euler/

から無料でダウンロードできる.

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【3】三角数と四角数のパズル,ラマヌジャンの和

 (a)オイラーの五角数定理(1750年)

  Π(1-q^n)=Σ(-1)^mq^(m(3m-1)/2))   n:1~∞,m:-∞~∞,m(3m-1)/2は五角数

 (b)ヤコビの三角数定理(1829年)

  Π(1-q^n)^3=Σ(-1)^m(2m+1)q^((m^2+m)/2)   n:1~∞,m:0~∞,(m^2+m)/2は三角数

をヤコビの三重積公式を使って証明した.以前やった証明に誤りがあったので,それを訂正することができた.

 また,ラマヌジャンの和については以前に近似値を求めたことがあったが,杉岡幹生氏にアイゼンシュタイン級数を用いる方法を教えてもらって,

 (c)Σn^5/{exp(2πn)-1}=1/504

 (d)Σn^3/{exp(2πn)-1}=1/80(ω/π)^4-1/240

 (e)Σn/{exp(2πn)-1}=1/24-1/8π

を証明した.

 これらの無限乗積や無限級数はヤコビの三重積公式やアイゼンシュタイン級数を用いるとあっさり証明できることはわかったが,これらの道具なしにどうやって証明したらいいのだろうか? 本質的に易しい照明方法はないのであろうか?

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【4】空間充填18面体と4軸構造,エンゲルの空間充填38面体

 中川宏さんの空間充填多面体(space filler)の研究に触発されて,「空間充填18面体と4軸構造」ではLoeckenhoff and Hellnerの空間充填18面体が4軸構造から完全に構造決定できることを示した.さらに「エンゲルの空間充填38面体」では空間充填38面体が概ね空間充填18面体の6等分体になっていることを示した.

 4軸構造については産総研の手嶋吉法先生にご教示を賜ったのだが,空間充填多面体の研究に一般のn軸構造を応用することは難しそうである.

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【5】菱形十二面体の黄金化と菱形三十面体の白銀化

 金原博昭さんよりいままでみたことのない多面体「菱形十二面体の黄金化と菱形三十面体の白銀化」について教えていただいたのですが,これらの黄金比三角多面体と白銀比三角多面体には相互補完的な関係にあることが判明しました.相補的というのは凸24面体は凹60面体にぴったりはまりこむことという意味ですが,黄金比と白銀比の相補関係は計算なしには気づきにくいことです.

 菱形多面体に引き続いて凧型多面体でも同様の計算を行ってみました.こちらはうまくいきませんでしたが,どこかに隠れた金鉱脈が埋まっているかもしれません.

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【6】立方体に内接する最大の正多面体

 正多面体だけでもいろいろおもしろい課題があります.「正多面体に内接する最大の別の多面体は何か」という問題の1例として,立方体に内接する最大の正八面体を考えてみましょう.たとえば,正八面体の1つの面が立方体の1つの面上にくるような配置が考えられますが,そのような配置の正八面体は立方体に含まれる最大体積の正八面体ではありません.それよりも大きな体積をもつものが存在するのです.

 立方体に内接する最大の正八面体の解答はいささか意外な結果になります.立方体に内接する最大の正八面体が立方体に収まる様子は(その3)で示しましたが,不思議な収まり方で,立方体に接触する辺とそうでない辺の長さが等しいことはすぐには気づかないでしょう.

 正Q面体から最大体積の正P面体を切り出すという興味深い問題が提起されているのですが,5種類の正多面体の組み合わせは全部で20通りあり,そのうち14通りについてはクロフトにより解決済みです.

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【7】論文となった小篇

 「正多面体と平行多面体の元素数」,「デーン不変量と二面角の幾何学」の内容については秋山仁先生と,「がん細胞の形」,「形の物理学」,「泡細胞の幾何学」については高木隆司先生と共著論文を書くことができた.

 秋山仁先生との共著論文はサブミットはしたものの採択率が1〜2%のジャーナルへの投稿であり,まだアクセプトされていないのであるが・・・

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