■立方体に内接する最大の正多面体(その9)

 このシリーズでは,PとQを正多面体として,PがQに含まれるときの体積比の最大値を求めることを問題としてきた.PとQの組み合わせ方によって,全部で20通りの場合があるが,そのうち14通りについてクロフトは解決した.今回のコラムではクロフトの7の定理と把持定理を比較してみることにする.

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【1】物体の把持

 対象物を把持するという工学の問題を考えます.人間の指であれば,親指と人差し指で物体を器用に把持(ピンチング)できますが,それは指が柔らかいために物体と面接触し,そこに働く摩擦力と微妙に物体をころがして接触面を移動させるという巧みな調節が無意識のうちに働くことによって,物体が安定に拘束されているためです.

 人間の腕や手は冗長関節系になっていますが,いちいち複雑な計算をしながら制御されているわけでもないのに冗長性が自然に解消されています.しかし,ロボットの場合,うまく把持するという動作の調節は簡単にはいきません.

 そこでここでは最も簡単な場合,すなわち,2次元の凸多角形に対して辺に直交する力を加えて水平面上で動かないようにするという問題を考えます.この場合,物体にかかる力の和=0,トルク(回転モーメント)の和=0となることが平衡(平行移動も回転もしない)のための物理的条件です.

 はじめに三角形物体を考えると,任意の三角形物体は3つの固定点で不動化できることがこの物理的条件から証明されるのですが,辺上の3点をP1,P2,P3とすると,これらの点からその辺に垂直な線を引き,この3つの直線が1点Oで交わるというのが不動化のための条件となります.

 このような点Oの典型例は,点Oが三角形の最大内接円の中心(すなわち内心)となることで,そのとき,P1,P2,P3は最大内接円と三角形の接点(すなわち内心から各辺に下ろした垂線の足)として与えられます.

 しかし,点Oは必ずしも三角形の内部にある必要はなく,点Oから各辺に下した垂線の足がその辺上で交わればよいのです.辺の延長線上ではいけません.

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【2】把持定理

 三角形は3点で不動化可能ですが,一般に凸多角形は4点で不動化できます.この場合も最大内接円が関係してきます.さらに細かくいうと,長方形,平行四辺形,台形のように平行な辺をもつ凸多角形ではどうしても4点が必要になりますが,平行な辺をもたない任意の凸多角形は3点で不動化できます.

 この定理の3次元版は少し複雑になりますが,任意の3次元多面体は6点で,平行面をもたない多面体は4点で不動化できることが証明されています.

 さらに,任意のn次元胞体の場合,固定点は2n個,平行な胞(n−1次元対応物)をもたないときはそれよりずっと少なくでき,n+1個まで減らせることが示されています.

 これらのことからふと思ったのですが,これらの定理はn次元超立方体や双対立方体を平面に投影すると2n角形(3次元立方体であれば影の形は6角形になる),n次元正単体を投影すると輪郭はn+1角形になることと関係しているのかもしれません.正直いってよくわかりませんが,ひょっとすると類似の方法が使えないかと期待しています.小生の希望に過ぎませんが・・・

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【3】7の定理

 把持定理は物体が点で支えられて安定に拘束されているための不動化定理ですが,面に直交する力を加える位置には自由度があります.それに対して,多面体PがQに含まれるとき,Qは固定されているので自由度は制限され,可動調節するわけにはいきません.

 その場合,

(1)Pの頂点がQの面と接触するとき,1ポイントと数える.

(2)Pの頂点がQの辺と接触するとき,2ポイントと数える.

(3)Pの頂点がQの頂点と接触するとき,3ポイントと数える.

(4)Pの面がQの面と接触するとき,3ポイントと数える.

 そして,P in Qの不動化定理には少なくとも7ポイントの拘束が必要になるというのがクロフトの定理です.

  Croft, HT: On maximal regular polyherda inscribed in a regular polyhedron, Proc. London Math Soc(3), 41, 279-296, 1980

 Pの辺がQの辺と接触する場合,Pの辺がQの面と接触する場合のポイントについては記載がありませんが,2ポイントと数えるのでしょう・・・

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