■n次元平行多面体数(その80)

【1】ミンコフスキー和

 ミンコフスキー和の計算結果についてまとめておきたい.辺の長さを1に規格化した体積を掲げる.

 菱形30面体: 4τ{(5+√5)/2}^1/2

 菱形20面体: 2τ{(5+√5)/2}^1/2

 菱形12面体(第2種): 4τ/5{(5+√5)/2}^1/2

 扁長菱形6面体: 2/5{(5+√5)/2}^1/2

 扁平菱形6面体: 2/(5τ)・{(5+√5)/2}^1/2

 以下,前節の言明「黄金菱形平行6面体には2種類(太った菱面体とやせた菱面体)あって,細めで尖ったほうがacute(扁長菱面体),太めで平たいほうがobtuse(扁平菱面体)と呼ばれていますが,2つずつacute とobtuse が集まれば菱形十二面体(第2種),5つずつ集まれば菱形二十面体,10個ずつ集まれば菱形三十面体となります.」について,体積計算して正しいことを確認しておきたい.

 {(5+√5)/2}^1/2を省略して書くと,

  A6+O6=2/5(1+1/τ)=2τ/5

  2(A6+O6)=4τ/5=B12

  5(A6+O6)=2τ=F20

  10(A6+O6)=4τ=K30

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【2】準結晶

 一方,これと同じ対称性を有する物質も発見され,準結晶と名付けられました.イスラエルの結晶学者シェヒトマンはこのパターンを合金のなかに発見し,2012年のノーベル化学賞に輝いています.

 結晶学の常識では,原子が周期的に配列した結晶物質では2重,3重,4重,6重の対称性しか許されないというのが鉄則・大前提になっていました.

 なぜ5重,7重,8重などの対称が結晶に存在し得ないかは正五角形は平面を埋めつくすことができないことから容易に理解されるところです.3次元では5回対称軸をもつ正五角形の役割を正12面体や正20面体が果たしますが,正五角形が平面充填形でないのと同様に正12面体・正20面体は空間充填形ではありません.

 ところが,1984年に5重の対称性を示す物質(アルミニウムとマンガンの人工合金)がシェヒトマンによって発見され,結晶学の根底は揺るがされ,この大前提は覆されました.それはあたかも誰かが5角形の雪の結晶を発見したような事件であったのです.この物質はペンローズのタイル貼りと密接に関係していて,ペンローズが始めた5重の対称性をもつ敷きつめを3次元空間に一般化したものであり,ある規則性をもちながら周期配列をしないことから,準周期的結晶,あるいは簡単に準結晶と呼ばれます.最近まで,結晶とアモルファスの両方の物質の状態を共有しそのどちらでもない新しい状態があると思っている人はごく少なかったのですが,この準結晶は両方の性質をもっています.

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【3】高次元の準結晶

 さらに高次元版を考える上で,n次元の立方体の対称性は有用である.偶数次元立方体,たとえば4次元立方体は正八角形の対称性,奇数次元立方体,たとえば7次元立方体は正七角形の対称性を示すことは,コラム「正多角形の菱形分割」「正多角形の二等辺三角形分割」にも書いたとおりである.

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