■ある有名な数論の定理(その5)

 (その2)(その4)では,ウェアリングの問題の対するヨハン・アルブレヒト・オイラーの不等式『kを正の整数として,n=2^k[(3/2)^k]−1とするとき,n=x1^k+・・・+xg^kと書かれるような最小の正の整数g(k)について,不等式

  g(k)≧[(3/2)^k]+2^k−2

が成り立つ』を紹介しました.

  k=2→n=7=2^2+1^2+1^2+1^2 →g(2)=4

  k=3→n=23=2・2^3+7・1^3  →g(3)=9

  k=4→n=79=4・2^4+15・1^4 →g(4)=19

  k=5→n=223=6・2^5+31・1^5→g(5)=37

のように,7を表すにはちょうど4個の平方数が必要であり,23は9個の立方数,79は19個の4乗数,223は37個の5乗数が必要ですから

  g(k)=[(3/2)^k]+2^k−2

は平方数,立方数,4乗数,5乗数に対して最良の結果を与えています.

 n=2^k[(3/2)^k]−1はkに縛られた特別な値であって,任意の整数ではなく一般性が失われています.無論,任意の整数はすべてこの式で表せるわけでもありません.しかるに,ウェアリングの問題のかなりの範囲のところまで正しいことが確認されています.

 ヨハン・アルブレヒト・オイラーの不等式は,局所情報から何がわかるかという局所情報から大域的な情報を引き出す数学の例になっています.この点がこの不等式の最大の特長なのです.

 この不等式の証明は

  [参]水上勉「チャレンジ!整数の問題199」日本評論社

のQ191(p272)に掲載されています.簡単でいてしかも面白い証明ですの是非お読みください.この証明を読めば,なにゆえをもってn=2^k[(3/2)^k]−1が出てきて,g(k)=[(3/2)^k]+2^k−2がウェアリングの問題のかなりの範囲のところまで正しいことがわかるはずです.

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【1】ウェアリングの問題

 1770年,ウェアリングは4平方和定理を拡張して,

  「任意の整数はたかだか9個の3乗数の和として,あるいは19個の4乗数の和として表される」

ことを証明抜きで主張しました(9三乗数定理,19四乗数定理).これが,有名なウェアリングの問題です.

 g(2)=4はラグランジュにより,g(3)=9はヴィーフェリッヒによって証明されました(1909年).ウェアリングの問題は2次形式ではなく高次形式を扱っていて,多くの数学的思考を刺激しました.そして,1909年,ヒルベルトによって

  「どの数もg個のk乗数の和で表される」

ことが肯定的に証明されています.

  n=x1^k+・・・+xg^k

 ヒルベルトはg(k)の値がkのみによって表されることを証明したのですが,それはg(k)の存在のみを証明したのであって具体的な値を決める方法を示したものではありませんでした.

 1859年,リューヴィルはg(4)≦53を示しました.g(4)=19ですからこの結果は実際とはかなり隔たりがあるのですが,g(4)の限界を与える方法を初めて示したことになります.そのあたりからいろいろな研究がなされることになりました.そして,19四乗数定理:

  「すべての正の整数は19個の4乗数の和で表される」

は1986年に証明されています.つまり,ウェアリングの問題(18世紀)も200年以上かかって解決されたことになります.

 なお,g乗数は平方数よりもずっとまばらにしか分布しませんから,以下,37個の5乗数の和,73個の6乗数の和,・・・と続きます.実は,ガウス記号を用いて

  g(k)=[(3/2)^k]+2^k−2

の式が正しいだろうと予想されています.1≦k≦10では

  k  1  2  3  4  5  6  7  8  9  10

  下界 1  4  9  19  37  73 143 279 548 1079

となり,ここに示した値はすべてこの式を満たし,かなりの範囲のところまで正しいことが確認されます.

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【2】ヨハン・アルブレヒト・オイラーの不等式

(Q)kを正の整数として,n=2^k[(3/2)^k]−1とするとき,n=x1^k+・・・+xg^kと書かれるような最小の正の整数gを求めよ.

(A)2^k[(3/2)^k]−1<3^kであるから,nをk乗数の和として表すときに1^kと2^kしか使えないことがわかる.

  7=2^2+1^2+1^2+1^2  (k=2)

  23=2・2^3+7・1^3  (k=3)

のように,n=2^k+・・・+2^k+・・・とできるだけ2^kを並べ,あとは1^k+・・・+1^kとすればよい.

 そのときの2^kの個数は[(3/2)^k]−1,2^kの個数はn−2^k{[(3/2)^k]−1}=2^k−1であるから

  g=[(3/2)^k]−1+2^k−1=[(3/2)^k]+2^k−2

  g(k)≧[(3/2)^k]+2^k−2

の不等式を証明したのはオイラーの息子,ヨハン・アルブレヒト・オイラー(1772年)で,この式では等号が成立すると予想されているのです.

 一般に,Ak=[(3/2)^k],Bk=(3/2)^k−[(3/2)^k],Ck=[(4/3)^k]とおけば,すべての正の整数kについて

[1]Ak+2^kBk≦2^kのとき

  g(k)=[(3/2)^k]+2^k−2

[2]Ak+2^kBk>2^kかつAkCk+Ak+Ck=2^kのとき

  g(k)=[(3/2)^k]+[(4/3)^k]+2^k−2

[3]Ak+2^kBk>2^kかつAkCk+Ak+Ck>2^kのとき

  g(k)=[(3/2)^k]+[(4/3)^k]+2^k−3

が成り立ちます.ただし,[2],[3]の条件を満たすkはまだひとつも見つかっておらず,k≦4716×10^5のときはすべて[1]の条件を満たすとのことです.

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【3】ウェアリングの問題のもうひとつの一般化

 4^k(8n+7)の形の数は4個の2乗を必要とする(たとえば,7=2^2+1^2+1^2+1^2)のに対して,9個の3乗を必要とする数は,たった2つの場合だけが知られています.

  23=2・2^3+7・1^3

 239=2・4^3+4・3^3+3・1^3

そして,1939年,ディクソンは23,239以外の整数はすべて8個の3乗数の和で書けることを示しています.また,8個の立方数の和として表せない自然数は15,22,50,114,169,175,186,212,231,238,303,364,420,428,454の15個だけです.

 23と239を除くすべての整数が8個以下の立方数の和として表せる,また,454より大きいすべての整数が7個以下の立方数の和として表せる・・・このことから,十分に大きなすべてのnに対して,G(k)個のk乗数の和として表すことができる最小の正の整数G(k)が定義されます.定義よりG(k)≦g(k)ですが,この問題はウェアリングの問題のもうひとつの一般化となっています.

 現在まで,4≦G(3)≦7,G(4)=16,6≦G(5)≦17,9≦G(6)≦24,8≦G(8)≦33,13≦G(9)≦50,12≦G(10)≦59の結果が知られています.

 また,1937年,フアは十分に大きなすべてのnに対して,H(k)個の素数のk乗数の和として表すことができる最小の正の整数H(k)が存在することを示しました.1987年,タノガサラムはH(5)≦23,H(6)≦33,H(7)≦47,H(8)≦63,H(9)≦83,H(10)≦103を示したのですが,ヴィノグラドフがH(1)≦3,フアがH(2)≦5,H(3)≦9を既に示しており,現在までH(4)≦14,H(5)≦21が川田,ウーリーによって,H(7)≦46が川田,クムチェフによって得られています.

  [参]Tattersall「初等整数論9章」森北出版

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【4】おまけ(オイラー予想とその反例)

 オイラーは,フェルマー予想の条件をゆるめて一般化した問題

『x1^n+x2^n+・・・+xn-1^n=xn^n,たとえば,x^4+y^4+z^4=w^4にも自然数解がない』と予想しました.この不定方程式には整数解がないであろうことが長い間予想されていて,モーデルはコンピュータを使ってw<220000の範囲でこの問題は成立することを紹介しています.

 オイラーの予想は正しいと信じられてきましたが,オイラーの推測からおよそ200年後,コンピュータを使って

27^5+84^5+110^5+133^5=144^5  (1966年)

95800^4+217519^4+414560^4=422481^4  (1988年)

2682440^4+15365639^4+18796760^4=20615073^4  (1988年)

などのオイラー予想に対する反例が発見されました.

 反例が現れる網を絞り込んで,最後にコンピュータを使ってこの例を仕留めたのです.さらに,エルキースにより,x^4+y^4+z^4=w^4には無数の解があることが楕円曲線の理論に基づいて示されました(1988年).

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