■ブレットシュナイダーの公式(その21)

 三角形の3つの中線は一点で交わります.この交点が三角形の重心です.原点Oに対する三角形ABCの3頂点A,B,Cの位置ベクトルをそれぞれa,b,cとすれば,重心の位置ベクトルは(a+b+c)/3となります.三角形の形をした均一な板の重心は3つの中線の交点,すなわち重心にあります.この点(一様な三角形の重心)は3つの頂点の重心(a+b+c)/3,すなわち三角形の頂点におかれた3つの等しい質量の中心(物理的重心)に一致します.

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【1】四角形の重心は何処?

 一方,四面体ABCDの3組の相対する辺の中点を結ぶ直線は1点で交わり,この交点の位置ベクトルは(a+b+c+d)/4となります.

 三角形と同様に,一様な四面体の重心はその4つの頂点の重心(a+b+c+d)/4と一致します.一様な棒の重心は両端の間の距離を1:1に,三角形の重心は中線を2:1に,四面体の重心は頂点と向かいあう面の重心との距離を3:1に内分します.すなわち,四面体の重心は1つの面の重心から対頂点に引いた直線の1/4の点にあります.4次元以上でもこの規則性が失われることはありそうもなく同様に類推されます.三角形の重心の性質は四面体に遺伝するのです.

 ところが,四角形ABCDの重心Gにはうまい性質がありません.三角形からの類推で,四角形の重心は(a+b+c+d)/4となるような気もします.しかし,これは4点A,B,C,Dに等しい質量がある場合の重心であって,密度一様な板の場合には当てはまりません.

 多角形の各頂点に同じ重さのおもりをつけたときの釣り合いの位置を「頂点の重心」と呼ぶことにすると,任意の四角形の4辺の中点は平行四辺形の頂点になりますから,ABの中点とCDの中点とを結ぶ直線とADの中点とBCの中点を結ぶ直線との交点は四角形の頂点の重心(a+b+c+d)/4に当たります.この点は2対角線の中点を結ぶ線分を1:1に内分します.ここで,d→cすなわち三角形の1つの頂点の付近をちょっと切り取った限りなく三角形に近い四角形を考えると

  (a+b+c+d)/4→(a+b+2c)/4

ですから,(a+b+c)/3には一致せず,(a+b+c+d)/4は重心ではないことがわかります.三角形では頂点の重心は普通の意味の重心(a+b+c)/3に一致しますが,四角形ではそうではないのです.

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