■杉岡の和(その2)

 ラマヌジャンは

  Σn^k/{exp(2πn)-1}=?

を問題として,

  Σn^5/{exp(2πn)-1}=1/504

  Σn/{exp(2πn)-1}=1/24-1/8π

  Σn^3/{exp(2πn)-1}=1/80(ω/π)^4-1/240

  Σ1/n{exp(2πn)-1}=-π/12-1/2log(ω/√2π)

を証明している.

 杉岡幹生氏もHP

  http://www5b.biglobe.ne.jp/~sugi_m/page175.htm

において

  Σn^k/{exp(2πn)-1}=?

を取り上げたが,

  http://www5b.biglobe.ne.jp/~sugi_m/page178.htm

では

  Σn^k/{exp(2πn)}=?

の収束値について問題としている.今後,

  Σn^k/{exp(2πn)+1}=?

も取り上げられるであろうと思う.

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【1】統計力学

 n個の箱にr個の玉を入れる問題を考えます.箱を空間の小領域,玉を気体の分子と見立てて,ボルツマンは統計力学(Maxwell-Boltzmann統計)を構成しました.MB統計では1つの玉の入れ方がn通りで,玉がr個ですから全部でn^r通りの入れ方があると考えます.しかし,このように考えると,黒体輻射の実験がどうしてもうまく説明できませんでした.

 そこで,玉は区別がつかないと仮定すると,n個の箱に区別できないr個の玉を入れる入れ方は重複組合せnHr通り=n+r-1Cr通りあることになり,新たな統計力学が構成されます.この統計力学はBose-Einstein統計と呼ばれ,光子や中性子がうまく当てはまります.BE統計にしたがう素粒子はボゾン(boson)と呼ばれます.

 さらに,1つの箱には玉は1つしか入らないとするパウリの排他則を仮定すると重複のない組合せnCr通りとなり,Fermi-Diracの統計が得られます.FD統計にしたがう素粒子に電子や陽子があり,それらはフェルミオン(fermion)と総称されます.

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【2】ガンマ関数とゼータ関数

Γ(x)=∫(0,∞)t^(x-1)exp(-t)dt x>0

無限積分Γ(x)をxの関数とみてガンマ関数といいます.また,ゼータ関数は無限級数

ζ(x)=Σ1/n^x=1/1^x+1/2^x+1/3^x+1/4^x+・・・

として定義される関数です.すなわち,ゼータ関数は調和級数を一般化したものと考えることができます.

ゼータ関数とガンマ関数との間に

ζ(x)=1/Γ(x)∫(0,∞)t^(x-1)/(exp(t)-1)dt

ζ(x)=1/(1-2^(1-x))Γ(x)∫(0,∞)t^(x-1)/(exp(t)+1)dt

が成り立ちます.これらを導いてみましょう.

Γ(s)=∫(0,∞)t^(s-1)exp(-t)dt

にt=nxを代入するならば

Γ(s)/n^s=∫(0,∞)x^(s-1)exp(-nx)dx

が得られる.この式のnについての総和をとるなら

ΣΓ(s)/n^s=Σ∫(0,∞)x^(s-1)exp(-nx)dx

=∫(0,∞)x^(s-1)exp(-x){1+exp(-x)+exp(-2x)+・・・}dx

=∫(0,∞)x^(s-1)exp(-x)/(1-exp(-x))dx

1+x+x^2+x^3+・・・1/(1−x)

=∫(0,∞)x^(s-1)/(exp(x)-1)dx

これより

Γ(s)ζ(s)=∫(0-∞)x^(s-1)/(exp(x)-1)dx

が得られる.

また,交代級数

φ(s)=1-1/2^s+1/3^s-1/4^s+・・・=Σ(-1)^(n-1)/n^s

を考えます.負項を正項に変えて,あとでその2倍を引きます.

φ(s)=(1+1/2^s+1/3^s+1/4^s+・・・)-2(1/2^s+1/4^s+・・・)

=(1-2^(1-s))ζ(s)

となります.

ΣΓ(s)(-1)^(n-1)/n^s

=Σ∫(0,∞)x^(s-1)(-1)^(n-1)exp(-nx)dx

=∫(0,∞)x^(s-1)exp(-x){1-exp(-x)+exp(-2x)-・・・}dx

=∫(0,∞)x^(s-1)exp(-x)/(1+exp(-x))dx

1−x+x^2−x^3+・・・=1/(1+x)

=∫(0,∞)x^(s-1)/(exp(x)+1)dx

これより

Γ(s)ζ(s)(1-2^(1-s))=∫(0-∞)x^(s-1)/(exp(x)+1)dx

が得られる.

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【3】ラマヌジャンの等式の近似値

 ラマヌジャンの等式は,ゼータ関数の積分表示

  ζ(s)=1/Γ(s)∫(0,∞)x^(s-1)/{exp(x)-1}dx

の離散化とみることができるが,この式はプランク分布(Bose-Einstein統計)そのものといってもよい.ラマヌジャンの計算の近似値を求めてみることにしよう.

  ζ(s)=1/Γ(s)∫(0,∞)x^(s-1)/{exp(x)-1}dx

において,x=2πyとおくと,dx=2πdyより,

  ∫(0,∞)y^(s-1)/{exp(2πy)-1}dy=ζ(s)Γ(s)/(2π)^s

 これより,

  Σn^(s-1)/{exp(2πn)-1} 〜  ζ(s)Γ(s)/(2π)^s

ここで,ζ(2)=π^2/6,ζ(4)=π^4/90,ζ(6)=π^6/945を代入すると,

  Σn^5/{exp(2πn)-1}=1/504 〜 1/504

  Σn^3/{exp(2πn)-1}=1/80(ω/π)^4-1/240 〜 1/240

  Σn/{exp(2πn)-1}=1/24-1/8π 〜 1/24

  Bose-Einstein統計 → ζ(x)=1/Γ(x)∫(0,∞)t^(x-1)/(exp(t)-1)dt

と同様に,

  Fermi-Dirac統計 → ζ(x)=1/(1-2^(1-x))Γ(x)∫(0,∞)t^(x-1)/(exp(t)+1)dt

  Maxwell-Boltzmann統計 → Γ(x)=∫(0,∞)t^(x-1)exp(-t)dt

が対応すると見ることができる.

  Σn^(s-1)/{exp(2πn)+1} 〜  ζ(s)Γ(s)(1-2^(1-s))/(2π)^s

  Σn^(s-1)/{exp(2πn)} 〜  Γ(s)/(2π)^s

したがって,

  Σn^5/{exp(2πn)+1} 〜 (1-2^(-5))/504=31/(32・504)

  Σn^3/{exp(2πn)+1} 〜 (1-2^(-3))/240=7/(8・240)

  Σn/{exp(2πn)+1}=1/24-1/8π 〜 (1-2^(-1))/24=1/(2・24)

  Σn^5/{exp(2πn)} 〜 6!/(2π)^6=45/(4π^6)

  Σn^3/{exp(2πn)} 〜 4!/(2π)^4=3/(2π^4)

  Σn/{exp(2πn)} 〜 2!/(2π)^2=1/(2π^2)

 実は,

  Σn^k/{exp(2πn)}=?

については近似値を求める必要はなく,

  Σ1/n{exp(2πn)}=-log(1-exp(-2π))

  Σ1/{exp(2πn)}=1/(exp(2π)-1)

  Σn/{exp(2πn)}=exp(2π)/(exp(2π)-1)^2

  Σn^2/{exp(2πn)}=exp(2π)(exp(2π)+1)/(exp(2π)-1)^3

  Σn^3/{exp(2πn)}=exp(2π)((exp(4π)+4exp(2π)+1)/(exp(2π)-1)^4

  Σn^4/{exp(2πn)}=exp(2π)((exp(6π)+11exp(4π)+11exp(2π)+1)/(exp(2π)-1)^5

  Σn^5/{exp(2πn)}=exp(2π)((exp(8π)+26exp(6π)+66exp(4π)+26exp(2π)+1)/(exp(2π)-1)^6

などと計算されます.

 k<−1の場合は,ポリログ関数が出現します.

  Σ1/n^2{exp(2πn)}=polylog(2,exp(-2π))=L2(exp(-2π))

  Σ1/n^3{exp(2πn)}=polylog(3,exp(-2π))=L3(exp(-2π))

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