■空間充填18面体と4軸構造(その3)

 産総研の手嶋吉法先生から窺った話では,1つの軸が残りのn−1本の軸となす角が等しいという意味で対称性をもつのは最大6方向までで,n=1,2,3,4,6に限られるのだそうである.3軸に対しては立方体,4軸に対しては正八面体,6軸に対しては正12面体や正20面体が存在するが,5軸に対しては正10面体が存在しないためである.

 4方向を立方体の対角線の方向[1,1,1],[−1,1,1],[1,−1,1],[1,1,−1]にとるのが4軸構造であり,ザクロ石の結晶は実際にこの構造をとる.空間充填18面体の場合もその4軸はそれぞれ109.471°(70.529°)をなしているのだが,4軸は交わらずにねじれの位置にある.

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【1】構造体Tと構造体U

 4軸構造にはトポロジカルに異なる構造が2種類あり,接触指数6^4(構造体T)と3^4(構造体U)の2タイプが存在することがわかっている.たとえば[1,1,1]を法線ベクトルとする平面(x+y+z=0)に投影したとき円柱が他の円柱と6点で接し,自己保持されているのが構造体T,3点で接し固定されているのが構造体Uである.

[1]構造体T

[2]構造体U

 構造体Tの空間充填率√3π/8=0.680に対して,構造体Uでは√3π/18=0.302となる.

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【2】構造体Tの計量

 空間充填18面体の設計と関係しているのは構造体Tと思われる.円柱の直径をdとするとき,構造体Tを[1,1,1]を法線ベクトルとする平面(x+y+z=0)に投影した図では,直径dの円板が6組の平行線によって,ダビデの星型に取り囲まれる.平行線の間隔もdであり,平面に投影した図の解析から,円柱の中心軸間距離が4d/√3であることなどを窺い知ることができるが,本質的には立体幾何学的な解析が必要とされる.

 円板や球の充填問題はよく知られているが,合同な円柱だけを寄せ集めた構造についてはそれほど多くの研究はなされていないらしい.そのため,定まった表記法になっているかどうかはわからないが,手嶋先生の表記法にしたがって,円柱の中心軸ベクトルPi=tAi+Biを求めることにしよう.

[1]円柱の方向ベクトルを[1,1,1]方向にとり,

  A1=[1,1,1],A2=[−1,1,1],A3=[1,−1,1],A4=[1,1,−1]

とおく.以下,これを規格化した

  A1=1/√3[1,1,1]

  A2=1/√3[−1,1,1]

  A3=1/√3[1,−1,1]

  A4=1/√3[1,1,−1]

を方向ベクトルとして用いることにする.

[2]定点ベクトルBiをAiと直交するように選ぶ.たとえば,規格化した定点ベクトルは

  B2=1/√2[0,1,−1],B3=1/√2[−1,0,1],B4=1/√2[1,−1,0]

になる.ここでは,定点ベクトルの大きさをdとして,

  B2=d/√2[0,1,−1]

  B3=d/√2[−1,0,1]

  B4=d/√2[1,−1,0]

と定める.

 また,AiとAjの両方に直交するベクトルBij,その大きさをdで定めると

  B23=d/√2[1,1,0]

  B34=d/√2[0,1,1]

  B42=d/√2[1,0,1]

となるが,これら6方向の定点ベクトルは[1,1,0]方向すなわち正四面体の6稜の方向,立方体の各面での対角線の方向あるいは菱形12面体の各面の法線方向と言い表すことができる.

[3]さらに,空間図形を[1,1,1]を法線ベクトルとする平面(x+y+z=0)に投影するためのベクトルを用意しておく.B2,B3,B4はA1にも直交するが,A1に直交し,平面に投影した際にA2,A3,A4と同じ方向になるベクトルをCk=Bi−Bjを規格化して定める.たとえば,A2と同じ方向に投影されるベクトルはB3−B4=d/√2[−2,1,1]よりC2=1/2(−2,1,1)となる.

  C2=1/2[−2,1,1]

  C3=1/2[1,−2,1]

  C4=1/2[1,1,−2]

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【3】構造体Tの円柱の接点

 円柱の中心軸ベクトルPi=tAi+Biを求めると

  P1=[t/√3,t/√3,t/√3]

  P2=[−t/√3,t/√3+d/√2,t/√3−d/√2]

  P3=[t/√3−d/√2,−t/√3,t/√3+d/√2]

  P4=[t/√3+d/√2,t/√3−d/√2,−t/√3]

となる.

 2円柱Pi,Pjの双方に対して垂直な単位ベクトルnijは

  nij=Ai×Aj/|Ai×Aj|=1/√2(1,1,0)

さらに2円柱Pi,Pjの距離dijは

  dij=|nij・(Bi−Bj)|=d

と計算される.

 実際,

  n23=A2×A3/|A2×A3|=1/√2(1,1,0)

  d23=|n23・(B2−B3)|=d

となり,円柱は互いに接していることがわかる.

 巡回置換であるから,同様に

  n34=A3×A4/|A3×A4|=1/√2(0,1,1)

  n42=A4×A2/|A4×A2|=1/√2(1,0,1)

  d34=|n34・(B3−B4)|=d

  d42=|n42・(B4−B2)|=d

 つぎに円柱P2,P3の接点を求めてみよう.

  P2=(−t/√3,t/√3+d/√2,t/√3−d/√2)

  P3=(−t/√3−d/√2,t/√3,−t/√3+d/√2)

の距離d23=dとおいて,

  2t^2−2√6dt+3d^2=0 → t=d√(3/2)

 P2とP3の接点における2重法線の方向ベクトルは1/√2(1,1,0)となるので,接点の座標は

  tA2+B2+B23/2=(−d/2√2,5d/2√2,0)

となる.

 接点を平面に投影する場合は,Ckとの内積をとって

  tA2・C2=√2d

  B23/2・C4=d/2√2

すなわち,円との接点から平行線の中心に沿って√2d,そこから方向を60°内側に変えてd/2√2進んだところが接点の平面座標となる.

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