■パラメータ解? (その10)

 直角三角形では,斜辺をc,他の二辺をa,bとすると,ピタゴラスの定理「a^2+b^2=c^2」が成り立つことはよく知られています.特に,三辺の長さが整数である直角三角形をピタゴラス三角形といいます.3元2次の不定方程式a^2+b^2=c^2の整数解を求める問題をピタゴラスの問題といいますが,(a,b,c)=(3,4,5),(5,12,13),(8,15,17),・・・などがその解です.

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【1】ピタゴラス三角形

 ピタゴラス三角形は無限にあり,その一般形にはいくつかの変形がありますが,m,nを整数,kを相似係数として

  a=k(m^2−n^2),b=2kmn,c=k(m^2+n^2)

が形も簡単で広く用いられています.

  {(n^2−1)/2}^2+n^2={(n^2+1)/2}^2

  (n^2−1)^2+(2n)^2=(n^2+1)^2

のように文字を一つだけ使ったのでは,ピタゴラス三角形全部をもれなく表す公式は作れませんが,二つの文字を使った公式

  (m^2−n^2)^2+(2mn)^2=(m^2+n^2)^2

では全部を表すことができます.逆に,この式から4より大きい平方数は常に2つの自然数の平方の差として表されることがわかります.

 4000年も前の紀元前二千年頃に,エジプトでは(a,b,c)=(3,4,5),(5,12,13),(8,15,17)などのピタゴラス三角形が知られていたことがパピルスに記録されています.また,同じ頃のバビロニアの粘土板プリンプトン322にはピタゴラスの定理が成り立つような3数の組が15組刻まれているのですが,その中のきわめつけが(12709,13500,18541)です.この数値は試行錯誤で得られるような代物ではなく,バビロニア人たちはすでに一般的なピタゴラスの定理を知っていたのではないかと想像されます.

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【2】アイゼンシュタイン三角形

 ピタゴラス三角形とよく似た三角形に三辺の長さが整数であって,二辺a,bのあいだの角が120°である鈍角三角形があります.一松信先生はこの三角形をアイゼンシュタイン三角形と呼んでいますが,この三角形はピタゴラスの定理の拡張である余弦定理c^2=a^2+b^2−2ab・cosCより,

  a^2+ab+b^2=c^2

を満たします.

 この一般解は

a=k(m^2−n^2),b=k(2mn+n^2),c=k(m^2+mn+n^2)

と表現でき,(a,b,c)=(3,5,7),(7,8,13),(5,16,19),・・・など無限に存在します.

 ディオファントスはa^2+ab+b^2=c^2を満たすa,b,cをとり,(m,n)=(c,a),(c,b),(c,a+b)の三組からは同一面積(a+b)abcの直角三角形ができることを示しています.

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【3】ヘロン三角形

 すべてのピタゴラス三角形は整数の面積をもっています.三辺の長さと面積が整数である三角形をヘロン三角形といいますが,直角三角形でない三角形の中にもヘロン三角形は存在します.

 ヘロン三角形は2つのピタゴラス三角形を貼り合わせることで簡単に作ることができ,たとえば,直角三角形(5,12,13)と直角三角形(9,12,15)から三辺の長さが(13,14,15)で面積が84の鋭角三角形と三辺の長さが(4,13,15)で面積が24の鈍角三角形が得られます.

 一般に,3辺と面積が有理数であるようなすべての三角形は,有理数辺をもつ2つの直角三角形から合成されます.3辺がすべて有理数の直角三角形は適当な整数倍によってピタゴラス三角形になりますから,ヘロン三角形は広義のピラゴラス三角形から合成されるといってもよいでしょう.なお,直角三角形の面積は6の倍数ですが,それが平方数となる(a,b,c)は存在しません.

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