■楕円積分の加法定理(その17)

 オイラーは,弾性曲線の研究で積分

  f(x)=∫(0,x)x^2dx/(a^2−x^4)^1/2

によって与えられる弾性曲線の性質として,その原点から(x,y)までの弧長

  s(x)=∫(0,x)a^2dx/(a^2−x^4)^1/2

について

  f(a)s(a)=πa^2/4

であることを発見した.

 今回のコラムでは,オイラーの積分

  ∫(0,1)1/(1-x^4)^(1/2)dx・∫(0,1)x^2/(1-x^4)^(1/2)dx=π/4

を求めてみることにするが,この関係は第1種楕円積分s(x)と第2種楕円積分f(x)の周期の間に成り立つルジャンドルの関係式をレムニスケートの場合に特殊化したものにほかならない.

  f(x)=1/(1-x^2)^(1/2)

のとき,

  sin^(-1)z=∫(0,z)f(x)dx

であるから,

  2∫(0,1)f(x)dx=3.141592・・・=π

  ∫(0,1)f(x)dx=π/2

となる.それでは,

  f(x)=1/(1-x^4)^(1/2)

としたとき,

  ∫(0,1)f(x)dx=1.311028・・・=ω

は,どのようにすれば得られるのだろうか?

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【1】ガンマ関数・ベータ関数

  Γ(x)=∫(0,∞)t^(x-1)exp(-t)dt (t>0)

この無限積分をxの関数とみてガンマ関数Γ(x)といいます.

  Γ(1)=∫(0,∞)exp(-t)dt=1

  Γ(1/2)=∫(0,∞)t^(-1/2)exp(-t)dt

ここで,t=u^2とおくと∫(0,∞)exp(-u^2/2)du=√π/2(ガウス積分)より

  Γ(1/2)=√π

が得られます.

 オイラーの第2種積分とも呼ばれるガンマ関数Γ(x)には,

  Γ(x+1)=xΓ(x)

の関係があり,次のような漸化式が成り立ちます.

  Γ(x+1)=xΓ(x)=x(x-1)Γ(x-1)=・・・・

したがって,xが正の整数nのときにはΓ(n+1)=n!が成り立ち,ガンマ関数は階乗の一般形となっていることがわかります.階乗の解析的補間をしている関数がガンマ関数なのです.

 ガンマ関数(オイラーの第2種積分)は,

  Γ(x)=∫(0,∞)t^(x-1)exp(-t)dt

ベータ関数(オイラーの第1種積分)は,

  B(a,b)=∫(0,1)t^(a-1)(1-t)^(b-1)dt

によって定義されます.ここで,積分変数をtからu=(1-t)/tによってuに変えると,

  B(a,b)=∫(0,∞)u^(a-1)/(1+u)^(a+b)du (u:0-∞)

が得られます.また,ベータ関数とガンマ関数との間には,

  B(a,b)=Γ(a)Γ(b)/Γ(a+b)

の関係がありますから,ベータ関数はガンマ関数の兄弟分にあたります.

  Γ(1)=1,Γ(1/2)=√π

であることを知っていればたいてい間に合いますが,Γ(1/2)=√πを得るにはベータ関数が用いられます.この関数において,t=sin^2θとおくと

  dt=2sinθcosθdθ

ですから

  B(a,b)=∫(0,1)t^(a-1)(1-t)^(b-1)dt=2∫(0,π/2)sin^(2a-1)θcos^(2b-1)θdθ

ここで,a=1/2,b=1/2とすると

  B(1/2,1/2)=2∫(0,π/2)dθ=π

  Γ^2(1/2)/Γ(1)=π

Γ(1)=1ですから,Γ(1/2)=√πとなります.

 ベータ関数を一般化すると,

  ∫(a,b)(x-a)^m(b-x)^ndx=m!n!/(m+n+1)!(b-a)^(m+n+1)

が得られます.これらは受験参考書に必ず書いてある

  ∫(a,b)(x-a)(x-b)dx=-1/6(b-a)^3

  ∫(a,b)(x-a)(x-b)^2 dx=1/12(b-a)^4

という公式の一般化になっています.

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【2】オイラーの積分

 ベータ関数において,a=m/n,b=1/2とおき,t=x^nと置換すると,

  ∫(0,1)x^(m-1)/(1-x^n)^(1/2)dx=Γ(m/n)√π/nΓ(m/n+1/2)

したがって,

 (m,n)=(1,1)のとき,∫(0,1)1/(1-x^1)^(1/2)dx=2

 (m,n)=(1,2)のとき,∫(0,1)1/(1-x^2)^(1/2)dx=π/2

 (m,n)=(1,3)のとき,∫(0,1)1/(1-x^3)^(1/2)dx=Γ^3(1/3)/2^(4/3)3^(1/2)π

 (m,n)=(1,4)のとき,∫(0,1)1/(1-x^4)^(1/2)dx=Γ^2(1/4)/2^(5/2)π^(1/2)

が得られます.

  ∫(0,1)1/(1-x^1)^(1/2)dx=2

  ∫(0,1)1/(1-x^2)^(1/2)dx=π/2

は初等的にも得ることができます.一方,

  ∫(0,1)1/(1-x^3)^(1/2)dx=Γ^3(1/3)/2^(4/3)3^(1/2)π

  ∫(0,1)1/(1-x^4)^(1/2)dx=Γ^2(1/4)/2^(5/2)π^(1/2)

は,特別な数と楕円積分を関係づけるものになっています.

 これらを,Γ^q(1/q)の形で統一的に表示すれば,

  Γ^2(1/2)=π=2∫(0,1)1/(1-x^2)^(1/2)dx

  Γ^3(1/3)=2^(4/3)3^(1/2)π∫(0,1)1/(1-x^3)^(1/2)dx

  Γ^4(1/4)=2^5π(∫(0,1)1/(1-x^3)^(1/2)dx)^2

 なお,

  ∫(0,1)1/(1-x^3)^(1/2)dx=Γ^3(1/3)/2^(4/3)3^(1/2)π

を得るには,ガンマ関数の乗法公式(倍数公式)

  Γ(x/2)Γ((x+1)/2)=π^(1/2)Γ(x)/2^(x-1)

と相反公式(相補公式)

  Γ(x)Γ(1-x)=π/sinπx

また,

  ∫(0,1)1/(1-x^4)^(1/2)dx=Γ^2(1/4)/2^(5/2)π^(1/2)

を得るには乗法公式を用いています.

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

 (m,n)=(1,4)のとき,∫(0,1)1/(1-x^4)^(1/2)dx=Γ(1/4)√π/4Γ(3/4)

 (m,n)=(3,4)のとき,∫(0,1)1/(1-x^4)^(1/2)dx=Γ(3/4)√π/4Γ(5/4)

が得られます.

 ここで,Γ(5/4)=Γ(1/4)/4ですから,

  ∫(0,1)1/(1-x^4)^(1/2)dx・∫(0,1)x^2/(1-x^4)^(1/2)dx=π/4

が成立します.

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[補]∫(0,1)x^(m-1)/(1-x^n)^(1/2)dx=Γ(m/n)√π/nΓ(m/n+1/2)

   ∫(0,∞)x^(m-1)/(1+x^n)dx=π/nsin(mπ/n)

   ∫(0,1)x^(n-k-1)/(1-x^n)^((n-k)/n)dx=∫(0,∞)x^(n-k-1)/(1+x^n)dx

ここで,

  (p,q)=∫(0,1)x^(p-1)(1-x^n)^((q-n)/n)dx

とおくと,

  (p,q)=(q,p)

  (n-k,k)=(k,n-k)=π/nsin(kπ/n)

  ((p+n),q)=p(p,q)/(p+q)

n=3のとき,(2,1)=(1,2)は

  ∫(0,1)x/(1-x^3)^(2/3)dx=∫(0,1)1/(1-x^3)^(1/3)dx=2π/3√3

n=4のとき,(3,1)=(1,3)は

  ∫(0,1)x^2/(1-x^4)^(3/4)dx=∫(0,1)1/(1-x^4)^(1/4)dx=π/2√2

 (2,2)は

  ∫(0,1)x/(1-x^4)^(2/4)dx=∫(0,1)x/(1-x^4)^(1/2)dx=π/4

n=6のとき,(5,1)=(1,5)は

  ∫(0,1)x^4/(1-x^6)^(5/6)dx=∫(0,1)1/(1-x^6)^(1/6)dx=π/3

 (4,2)=(2,4)は

  ∫(0,1)x^3/(1-x^6)^(4/6)dx=∫(0,1)x^3/(1-x^6)^(2/3)dx

  =∫(0,1)x/(1-x^6)^(2/6)dx=∫(0,1)x/(1-x^6)^(1/3)dx=π/3√3

 (3,3)は

  ∫(0,1)x^5/(1-x^6)^(5/6)dx=∫(0,1)x^5/(1-x^6)^(1/6)dx=π/6

n=17のとき,(16,1)=(1,16)は

  ∫(0,1)x^16/(1-x^17)^(16/17)dx=∫(0,1)1/(1-x^17)^(1/17)dx

  =π/17sinπ/17

  (p,q)=B(p/n,q/n)/n

であって,p+q=nの場合を考えると

  (p,q)=π/nsin(pπ/n)

  B(p/n,1-p/n)=π/nsin(pπ/n)

  Γ(p/n)Γ(1-p/n)=π/nsin(pπ/n)

これはガンマ関数の相補公式

  Γ(x)Γ(1-x)=π/sinπx

にほかならない.

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