■虹は2次曲線(その3)

 主虹では外側から内側に赤・橙・黄・緑・青・藍・紫の順に見え,その外側に,色の配列が主虹と逆順の副虹がうすく見える.副虹では赤が弧の内側になる.

 主虹(下の方で明るく見える虹)は水滴の中で2回屈折し,1回反射した虹,副虹は2回屈折し,2回反射の虹である.さらに高次(3次,4次,・・・)の虹が現れることもあるが,虹の光自体が弱く,薄くてほとんどみられることはない.主虹と副虹の間が,アレクサンダー暗帯である.デカルト・ニュートンの虹の古典論によると,ここに反射してくる光はまったくない.

 虹では光が空中から水中へ屈折して入り,中で反射して,屈折して空中に出ていく.光の経路にはスネルの法則が関係しているのだが,円(球)の性質も反映している.雨粒を理想化して,球であると考える.その際,水球に入った平行光線の束が,どのように出ていくかを調べると,入射光線と雨滴の中心との距離は様々な値をとるのであるが,出ていくときはある角度に光線が密集して,明るくなることがわかる.

 この光の優先道路は入射角から測って42°の方向に集約される.数学的には包絡線というのだが,光学分野では焦線(caustic)あるいは火線という名で知られている.水滴の中の光の経路は1本線で書き表されることが多いのであるが,それは焦線であるから,極大値をとる方向ということであって,水滴から出てくる光線は均一に位置しているのではなく,最小偏向角の辺りに集中している.したがって,焦線について正確に説明するためには微積分が必要になってくる.

  [参]アダム「自然の中の数学」,シュプリンガー・ジャパン

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【1】虹の反射

 フェルマーの最小時間原理より,所要時間T

  T=(a^2+x^2)^1/2/v1+(b^2+(c−x)^2)^1/2/v2

が最小であることを微分を用いて表せば

  dT/dx=0→sinθ1/v1−sinθ2/v2=0

より,スネルの法則

  sinθ1=nsinθ2,n=v1/v2(屈折率)

が導かれる.

 i,rをそれぞれ入射角,反射角,D(i)を2回屈折し,1回反射した後の偏向角とすれば,

  sini=nsinr

  D(i)=π+2i−4r(i)

が成り立つ.

 微分を使って

  dD/di=2−4dr/di=2−4cosi/(ncosr)

したがって,極値を与える偏向角は

  1/4=cos^2i/(n^2−1+cos^2i)

  cosi=((n^2−1)/3)^1/2

  D(i)=π+2i−4arcsin(sini/n)

 n=4/3(水の屈折率)を代入すると,

  i=arccos√7/27=59.4°

  D(i)=138°

その補角180°−132°=42°が観測者を頂点とし,太陽とを結ぶ直線を軸とする虹の円錐の半頂角である.

 これは内部で1回反射したあとの偏向角であったが,内部でk回反射した場合は,

  cosi=((n^2−1)/k(k+2))^1/2

  d^2D/di^2=2(k+1)(n^2−1)tanr/n^2cos^2r>0

  D(i)=kπ+2i−2(k+1)arcsin(sini/n)

が成り立つ.

 副虹についてはk=2であるから

  D(i)=2π+2i−6r=2i−6r(mod 2π)

      =2i−6arcsin(sini/n)

  dD/di=2−4dr/di=2−6cosi/(ncosr)

  1/9=cos^2i/n^2(1−sin^2r)=cos^2i/(n^2−sin^2i)

  cosi=((n^2−1)/8)^1/2

n=4/3(水の屈折率)を代入すると,

  i=arccos√7/72=71.8°

  D(i)=−129°

主虹の補角は180°−132°=42°であったが,副虹では51°となり,主虹より9°上の空に現れることになる.

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 このことをもっと丁寧に調べることにしよう.水滴の半径を1,屈折率をn,入射光線と水滴の中心との距離をa,反射光線と入射光線の間の角度(虹角)をθとすると,平面幾何学的に,1回反射の虹では

  θ=4arcsin(a/n)−2arcsin(a)

2回反射の虹では

  θ=−4arcsin(a/n)+2arcsin(a)+π

となることが示される.

 一般に,奇数回反射した場合は

  θ=2(r+1)arcsin(a/n)−2arcsin(a)

偶数回反射した場合は

  θ=−2(r+1)arcsin(a/n)+2arcsin(a)+π

となる.

 散乱角θをaで微分すると

  a=√(4−n^2)/3   (主虹)

  a=√(9−n^2)/8   (副虹)

でθは最大になる.

 n=4/3とおくと,主虹はa=0.86で最大値42°,副虹はa=0.95で最大値51°をとるが,どちらからの散乱光もまったくやってこない領域が主虹と副虹の間で,この領域がアレクサンダー暗帯である.

 さらに丁寧に考察するならば,

  dθ/da=2(−3a^2−n^2+4)/√(n^2−a^2)√(1−a^22(√(n^2−a^2)+√(1−a^2))

より,n>2の場合にはdθ/da<0より包絡線が存在しないので,主虹は存在しないことも理解される.

 水(屈折率≒4/3)であっても,ガラス(屈折率≒3/2)であっても虹はできるのであるが,反射する球体の屈折率が2以上の場合,たとえばダイヤモンド(屈折率=2.42)の場合,虹のできる様子は水滴の場合とはかなり異なってくる.どのような透明体であっても差し支えないわけではなく,水の屈折率が1.3程度であったおかげで,われわれは美しい虹を見ることができるのである.

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【2】虹の散乱

  D(i,n)=π+2i−4arcsin(sini/n)

より,

  ∂D/∂n=−4∂/∂n{arcsin(sini/n)}

       =4sini/n(n^2−sin^2i)^1/2

 dD/di=0のとき,n^2−sin^2i=4cos^2iより

  ∂D/∂n=2tani/n>0

 赤色光の波長と屈折率はλ=656.3,n=1.3318

 紫色光の波長と屈折率はλ=404.7,n=1.3435

より,可視スペクトルの範囲でnの変化Δn=0.012が与えられたときのΔDは,n=1.33,i=59.4°とすると

  ΔD=2Δntani/n=1.7°

であるから,主虹の角度の広がりは約1.7°(満月3個分)と計算される.

 実際,赤色光の半頂角は42.3°,紫色光の半頂角は40.6°であるから,主虹ではΔD=1.7°となる.

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【3】虹の波動理論

 前節では水滴の中を通る光線の道筋(光線に関するは幾何光学的理論)を用いれば虹の性質のほとんどを理解することができることを述べたが,エアリ−は,光の波動理論(回折)の考え方に従って過剰虹を説明しようとした.

 エアリーは回折に関する一般的な理論の仮定を用いて,焦線の近傍で光の強度(振幅分布)を計算した.結果だけを述べると,虹の光の振幅は,エアリー関数

  Ai(x)=∫(0,∞)cos{π/2(t^3−xt)}dt

で記述される.光の強度はこの積分関数を2乗したものになる.

 ここで,パラメータxは

  x=(2ka/π)^2/3(sin^3θ/cosθ)^1/3

  k:光の波数,a:水滴の半径,θ:虹光線からの角度

であるから,xは焦線からの距離と焦線の曲率に依存する定数である.本質的には焦線からの距離を表し,x=0のときがちょうど焦線のところで,デカルトの幾何光学に対応する.エアリー関数はx>0では指数関数的に減少し,x<0では正弦関数のように振動する関数である.

 エアリー積分を使えば,光線の干渉によって生じる過剰虹のできる場所や強さを予測することができる.光が最も強くなるのはデカルトの理論よりも少し内側にくることがわかるし,また,三角関数のように繰り返し極大値をとるので,それが過剰虹を与えるというわけである.

 一方,アレクサンダー暗帯でも,光の強度が完全に0というわけではなく,わずかながら光が漏れてくることもわかる.また,水滴が小さくなると焦線の曲率は大きくなって,虹のできる角度もより大きくなる理由も説明される.

 1836年,エアリーはこのようにしてアレクサンダー暗帯の存在と過剰虹発生とを説明した.過剰虹がなぜ見えるかという問題に答えるには,幾何光学だけでは定まらず,本質的には光の波動理論を必要としたのである.

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