■楕円積分の加法定理(その13)

 レムニスケート関数と三角関数の類似性がレムニスケート関数の理論を構築する助けとなった.たとえば,三角関数の加法公式

  z={x(1−y^2)^1/2+y(1−x^2)^1/2}

  x=sin[u],y=sin[v],z=sin[u+v]

に対して,レムニスケート関数の加法公式は

  z={x(1−y^4)^1/2+y(1−x^4)^1/2}/(1+x^2y^2)

  x=sl[u],y=sl[v],z=sl[u+v]

である.ここで注意しておきたいことはy=(k−1)xではなく,v=(k−1)uとして得られる式がk倍角公式である.

 レムニスケート関数は楕円関数の特殊なクラスであるが,楕円関数の理論の基本的事項を展開するときにはレムニスケート関数との類比を追う必要がある.今日でさえもレムニスケート関数の性質は楕円関数の一般論の研究のための予備知識として役立っているのである.

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【1】ファニャーノの虚数乗法

 ファニャーノはレムニスケート弧長の2等分を与える

  dt/(1-t^4)^(1/2)=2・dw/(1-w^4)^(1/2)

  t^2=4w^2(1-w^4)/(1+w^4)^2

を見いだしましたが,同時に複素数による楕円積分の例

  dt/(1-t^4)^(1/2)=(1+i)・dw/(1-w^4)^(1/2)

  t^2=2iw^2/(1-w^4)

  sl((1+i)u)=(1+i)sl(u)/(1-sl^4(u))^1/2

も得ています.

 ηを1の8乗根η=(1+i)/√2として,uをηuで置き換えると曲線t^2=1−z^4上の1±iの虚数乗法の公式が得られます.ファニャーノの仕事のこの部分はオイラーの注目を引くには至りませんでしたが,アーベルの手になってからかなりの重要度を獲得することになりました.

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【2】アーベルの虚数乗法

 加法・減法公式

  dy/p(y)^(1/2)=±dx/p(x)^(1/2)

で,加法公式を繰り返し適用すれば乗法公式

  dy/p(y)^(1/2)=a・dx/p(x)^(1/2)

を導くことができます.

 微分方程式

  dy/{(1-c^2y^2)(1-e^2y^2)}^(1/2)=a・dx/{(1-c^2x^2)(1-e^2x^2)}^(1/2)

を満たすようなxの有理または無理代数関数yをすべて求める問題は,特別な場合として変数の倍加(等分)の問題も含んでいます.アーベルはもしこの微分方程式が代数積分をもち,aが複素数ならばaは必ずm±i√n(m,nは有理数)の形にかけることを証明しました.これは楕円関数論に虚数乗法が現れた最初の事例と考えられています.

 なお,純虚数変数の関数を定義するために,積分

  ∫(0,z)1/(1-t^4)^(1/2)dt

の上端を純虚数iyにとります.このとき,

  ∫(0,iy)1/(1-t^4)^(1/2)dt=i∫(0,y)1/(1-t^4)^(1/2)dt

が成り立ちます.ここで,y=sl(v),iy=sl(iv)=isl(v)です.複素変数u+viの関数

  sl(u+vi)={x(1-y^4)^1/2+iv(1-u^4)^1/2}/(1-u^2v^2)

  x=sl(u),y=sl(v)

を得るには加法公式を適用します.

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