■代数幾何学小話(その2)

 今回のコラムでは2001年にアップロードしたコラム「代数幾何学小話」を補足しておきたいと思います.また,代数幾何ではないのですが,シュレーフリつながりでトポロジーの小話も挿入してあります.

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【1】代数曲線と代数曲面

 18,19世紀になると,2次曲線論に続いて3次および4次曲線について論じられた.3次曲線の分類には,2次曲線とは異なった種類の難解さが要求されたが,ニュートンはあらゆる場合を考察して,最終的に3次曲線は全部で78種類が必要であることを示すに至り,さらに3次曲線の一般式が5個の標準形に帰することを示した.

 代数幾何学において重要な変換に双有理変換(クレモナ変換)があるが,ニュートンは楕円,放物線,双曲線から3次曲線を得るのに双有理変換を使っている.この例からわかるように代数曲線の次数は双有理変換で不変ではないが,種数は不変である→[補].

 ニュートンの3次曲線の分類に引き続いて,オイラーは4次平面曲線の分類を企てたが,可能な場合の数が非常に多いという理由で断念している.この問題に対する答えは長い間知られていなかったが,プリュッカーが19世紀に4次曲線の152の型を数え上げることによって解かれた.プリュッカーはオイラーが4次曲線の分類で犯した多くの誤りを見つけたが,18世紀の解析幾何とは違って,高次曲線,曲面は解析幾何の対称ではなく,代数幾何の分野となった.

 1849年,ケーリーは滑らかな3次曲面はすべてある一定数の直線を含むこと,サーモンはその数は27であることを証明した.1次曲面(平面)は∞^2個,2次曲面は∞^1個の直線を含み,一般の3次曲面では(少なくとも1本の直線を含むが)その数は高々有限個(27本)である.それに対して,一般のn次曲面(n>3)は直線を全然含んでいない.

 シュレーフリは3次曲面上の27本の直線の組に従って,滑らかな実3次曲面を5組に分類した.この5組にはそれぞれ27,15,7,3,3本の実直線,そして3直線を含む実平面が45,15,5,7,13入っている.

 アルキメデスの墓石に円柱・円錐・球,ガウスの墓石に正17角形が彫られた如く,ケーリーとサーモンの墓石には27本の直線を彫るべきだとシルベスターがいったことは19世紀にこれらの3次曲線がいかに重要視されたかを物語るものだろう.

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【2】オイラーの定理の一般化

 シュレーフリは,fkをn次元多面体のk次元面の数とし,

  (f0,f1,・・・,fn-2,fn-1)

を構成要素とするn次元正多胞体では,オイラーの定理を一般化した

  f0−f1+f2−・・・+(−1)^(n-1)fn-1=1−(−1)^n

すなわち,nが奇数なら2,偶数なら0を満たすことを証明した.

 この式はn=2の場合,v−e=0,n=3の場合,v−e+f=2となり,オイラーの定理である.この定理は正多胞体に限らず,n次元凸多胞体について常に成立する.

 組み合わせ的方法によって,k次元胞数fkが求めら,たとえば,正単体では

  fk=(n+1,k+1)

なのであるが,k=n−1のときfk=n+1であって,胞数はn+1と計算される(n+1個の頂点と面).

 同様に,双対立方体では

  fk=2^k+1(n,k+1),k=n−1のとき,fk=2^n(2n個の頂点と2^n個の面)

立方体では

  fk=2^n-k(n,k),k=n−1のとき,fk=2n(2^n個の頂点と2n個の面)

となる.

 もちろん,

  正単体:fk=(n+1,k+1)

  双対立方体:fk=2^k+1(n,k+1)

  立方体:fk=2^n-k(n,k)

はシュレーフリの定理:

  f0−f1+f2−・・・+(−1)^(n-1)fn-1=1−(−1)^n

を満たしている.

 シュレーフリはn≧5の場合,正多面体を高次元化した3種類しかないが,n=4では6種類(3種類+これ以外の3種類)あることも証明している.

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 オイラーの定理をもっと複雑な多面体にまで拡張することを最初に試みたのはポアンソである.ケプラー・ポアンソの星形正多面体は4種類あるが,ケプラーの発見した2つの星形正多面体,小星形十二面体は正十二面体に,大星形十二面体は正二十面体に三角錐を載せできるものである.

 残りの2つはケプラーから約200年後にポアンソがつけ加えた星形大二十面体,大二十面体で,星形正多面体は4種類しかないことはコーシーが示している(ポアンソはほぼ同時代の数学者ポアソンと混同しないよう注意).

 4種類の星形正多面体のうち2種類はオイラーの関係式(v−e+f=2)が成り立つが,残りの2種類はv=12,e=30,f=12となり,

  2f−e+v=6

が成り立つことをポアンソは示した.これを一般化したものがケーリーの式

  nf−e+v=2N

である.

 多面体の示性数gは,g=1−(f−e+v)/2で定義されるが,オイラーの多面体定理より凸多面体や2種類の星形正多面体に対してはg=0となる.残りの2種類はg=4になる.シュレーフリはオイラーの公式が成立しない多面体を「多面体」と認めなかったと伝えられている.いまでもg=0のみを星形正多面体と呼ぶべきだとの主張もあるが,この多面体をn重被覆された球面と考えればそれほどの矛盾ではないだろう.

 なお,g=4はトポロジカルにいえば穴が4つあるドーナツと同一である.リュイリエはg個のハンドルをもった多面体(種数gの多面体)に対するより一般的な関係式

  f−e+v=2−2g

を証明した.ポアンソの関係式が成り立つ星形多面体に対しては

  2f−e+v=6−2g

となる.

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【補】3次曲線のj-不変量

 6つの有理関数

  f1(x)=x,f2(x)=1−x,f3(x)=1/x,f4(x)=1/(1−x),

  f5(x)=(x−1)/x,f6(x)=x/(x−1)

を考えます(x≠0,1).2つの関数の合成,たとえば,

  f2・f3(x)=f2(f3(x))=1−1/x=(x−1)/x=f5(x)

ですから,f2・f3=f5とします.

 すると,この6つの関数は群となります.

     | f1  f2  f3  f4  f5  f6

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  f1 | f1  f2  f3  f4  f5  f6

  f2 | f2  f1  f5  f6  f3  f4

  f3 | f3  f4  f1  f2  f6  f5

  f4 | f4  f3  f6  f5  f1  f2

  f5 | f5  f6  f2  f1  f4  f3

  f6 | f6  f5  f4  f3  f2  f1

 なお,位数がnの有限体はnが素数と素数の累乗の場合だけに限られます.すなわち,位数が2,4,8,16,32,・・・の有限体,3,9,27,81,243,・・・の有限体はあるのですが,6や15の有限体はないのです.

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 非特異3次曲線の標準型:

  y^2=x(x−1)(x−λ)

のj-不変量は

  j=2^8(λ^2−λ+1)^3/λ^2(λ−1)^2

によって定義されます.λ=−1のときj=1728,λ=−ζ6(1の6乗根)のときj=0となります.

 jー不変量はモジュラー不変量とも呼ばれ,

  j(λ)=j(1−λ)=j(1/λ)

 =j(1−1/λ)=j(1/(1−λ))=j(λ/(1−λ))

ですから,4個の点{0,1,λ,∞}の入れ替えに依存しないinvariantで,最も単純で重要な保型関数と考えられます.

 複比を

  λ={(λ0−λ2)/(λ1−λ2)}/{(λ0−λ3)/(λ1−λ3)}

によって定義すると,λiの順序を変えるとλの値は変わります.すなわち,{λ0,λ1,λ2,λ3}からつくられる複比の値は,

  λ,1−λ,1/(1−λ),1/λ,λ/(λ−1),(λ−1)/λ

の6つのどれかに移ります.

 この順序による曖昧さを消すために,λの6つの分数変換の不変式をとって,

  j=2^8(λ^2−λ+1)^3/λ^2(λ−1)^2

とおくのです.複比は一次分数変換で不変であり,jもまた射影変換で不変です.(直線上の4点の複比は射影によって不変である)

 なお,

  j(λ)=j(1−λ)=j(1/λ)

が成り立てば,あとの等式はこの2つから導かれますから,有理関数

  (λ^2−λ+1)^3/λ^2(λ−1)^2

が本質的であって,係数2^8には本質的な意味はありません.実際,

  (x^2−x+1)^3/x^2(x−1)^2=(λ^2−λ+1)^3/λ^2(λ−1)^2

と,変数xの方程式を考えると,

λ^2(λ−1)^2(x^2−x+1)^3−(λ^2−λ+1)^3x^2(x−1)^2=0

はλ≠0,1より,6次方程式となり,

  λ,1−λ,1/(1−λ),1/λ,λ/(λ−1),(λ−1)/λ

のどれを代入しても成り立ちます.重複が生ずるのは

  λ^2−λ+1=0,λ=1/2,λ=−1,λ=2

の場合に限ります.

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