■楕円積分の加法定理(その5)

 オイラーは円からの類推を用いて,

  1/(1-t^3)^(1/2)

  1/(1-t^4)^(1/2)

  1/(1-t^6)^(1/2)

に対する一般積分を見いだしているのですが,

  1/(1-t^5)^(1/2)

に対しては結果が得られなかったようです.

 また,ガウスは1796年に

  u=F(x)=∫(0,x)1/(1-t^3)^(1/2)f(t)dt

の逆関数,その翌年には

  u=F(x)=∫(0,x)1/(1-t^4)^(1/2)f(t)dt

の逆関数について考察しています.後者はレムニスケートサイン関数の定義につながるものであったわけですが,今回のコラムでは前者について考えてみることにしましょう.

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【1】1/(1-t^3)^(1/2)

  ∫1/(1-x^2)^(1/2)dx

は円(2次曲線),

  ∫1/(1-x^4)^(1/2)dx

はレムニスケート(4次曲線)に対応していますが,周長が

  ∫1/(1-x^3)^(1/2)dx

  ∫1/(1-r^3)^(1/2)dx

で表される曲線はどのようなものになるでしょうか?

 この円と双葉の中間に位置する幾何学的対象物は,微分方程式

  (1+(dy/dx)^2)^(1/2)=1/(1-x^3)^(1/2)

  dy/dx=(x^3/(1-x^3))^(1/2)

あるいは

  {1+(rdθ/dr)^2}^(1/2)=1/(1-r^3)^(1/2)

  dθ/dr=(r/(1-r^3))^(1/2)

を満たさなければなりませんが,このことから12次曲線

  r^(3/2)=cos(3/2θ)

が得られます.

  r^2=x^2+y^2,x=rcosθ,y=rsinθ

  cos3θ=4cos^3θ−3cosθ

  cos^2(3θ/2)=(1+cos3θ)/2=(4cos^3θ−3cosθ+1)/2

ですから

  2r^3−1=4x^3/r^3−3x/r

  2r^6−r^3=4x^3−3xr^2

  (2r^6−4x^3+3xr^2)^2=r^6

  (2(x^2+y^2)^3−4x^3+3x(x^2+y^2))^2=(x^2+y^2)^3 → 12次曲線(3次曲線ではありません!)

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【2】中間曲線の2等分?

 レムニスケートでは

  dt/(1-t^4)^(1/2)=2・dw/(1-w^4)^(1/2)

なる変数変換により2等分できることがわかるが,この半三つ葉型の「中間曲線」ではどうなるのだろうか?

  t^3/2=2v^3/2/(1+v^3)

  t^3=4v^3/(1+v^3)^2

と置換すると

  (1-t^3)^(1/2)=(1-v^3)/(1+v^3)

  3t^2dt=12v^2(1-v^3)dv/(1+v^3)^3

より

  dt/(1-t^3)^(1/2)=(2/(1+v^3))^(2/3)dv

 さらに,

  v^3/2=2w^3/2/(1−w^3)

  v^3=4w^3/(1−w^3)^2

と置換すると

  (1+v^3)^(3/2)=(1+w^3)^3/(1-w^3)^3

  3v^2dv=12w^2(1+w^3)dv/(1-w^3)^3

より

  dt/(1-t^3)^(1/2)=(2/(1+v^3))^(2/3)dv=2^(4/3)・dw/(1-w^6)^(1/3)

となって,これらの置換を行った結果では2等分できないことがわかる.

 レムニスケートは定規とコンパスだけで2^n等分(さらに奇数のn等分,n=3,5,17,257,65537)できるいかに特殊な曲線であるのか,おわかりいただけるであろう.

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