■楕円積分の加法定理(その4)

 今回のコラムでは(その1)で紹介したファニャーノの倍角公式(1718年)を振り返ってみることにします.

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【1】レムニスケートのパラメータ表示

 原点を中心とする半径1の円の円周上の点を(x,y)とすれば,第3の変数θを媒介として,x=cosθ,y=sinθと表されます.θは(x,y)と(0,0),θ/2は(x,y)と(−1,0)を結ぶ直線とx軸とのなす角を表しています.

 さらにt=tan(θ/2)とすると

  tan(θ/2)=sinθ/(1+cosθ),

  cosθ=(1−t^2)/(1+t^2),

  sinθ=2t/(1+t^2)より,

  x=±(1−t^2)/(1+t^2),

  y=2t/(1+t^2)   (−1≦t≦1)

と表すことができます.

 また,a=1/√2のとき,レムニスケート:r^2 =cos2θ,(x^2 +y^2 )^2 =x^2 −y^2 は,

  x=cosθ/(1+sin^2θ)

  y=sinθcosθ/(1+sin^2θ)

ここで,

sinθ=(1−t^2)/(1+t^2)

cosθ=2t/(1+t^2)

とおくと,

  x=t(1+t^2)/(1+t^4 )

  y=t(1−t^2)/(1+t^4 )

のようにパラメトライズすることができます.

[補]なお,三角関数の有理関数の積分はt=tan(θ/2)とおくと有理関数の積分に帰着できることはほとんどの教科書に書かれていますが,うまくtanθ,cos^2θ,sin^2θだけの関数に書き表すことができる場合には,tanθ=tとおくことによって三角関数の有理関数の積分計算は格段と簡単になります.この場合,cos^2θ=1/(1+t^2),sin^2θ=t^2/(1+t^2)となりますから,tan(θ/2)=tとおいた場合に比べ,次数が約半分の有理関数になります.

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【2】ファニャーノの変数変換

  f(t)=1/(1-t^2)^(1/2)

  2u=2∫(0,x)f(t)dt

において,t=2v/(1+v^2)と置換すると

  (1-t^2)^(1/2)=(1-v^2)/(1+v^2)

  dt=2(1-v^2)dv/(1+v^2)^2

より

  dt/(1-t^2)^(1/2)=2・dv/(1+v^2)

 レムニスケート

  f(t)=1/(1-t^4)^(1/2)

  2u=2∫(0,x)f(t)dt

においても類似の置換に導かれて,t^2=2v^2/(1+v^4)と置換すると

  (1-t^4)^(1/2)=(1-v^4)/(1+v^4)

  2tdt=4v(1-v^4)dv/(1+v^4)^2

より

  dt/(1-t^4)^(1/2)=√2・dv/(1+v^4)^(1/2)

 さらに,v^2=2w^2/(1−w^4)と置換すると

  (1+v^4)^(1/2)=(1+w^4)/(1-w^4)

  2vdv=4w(1+w^4)dv/(1-w^4)^2

より

  dv/(1+v^4)^(1/2)=√2・dw/(1-w^4)^(1/2)

 これらの置換を行った結果,ファニャーノは

  dt/(1-t^4)^(1/2)=2・dw/(1-w^4)^(1/2)

  t^2=4w^2(1-w^4)/(1+w^4)^2

であることを見いだします.これに対応する積分間での関係がファニャーノの倍角公式

  2∫(0,x)f(t)dt=∫(0,2x(1-x^4)^1/2/(1+x^4))f(t)dt

というわけです.

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【3】レムニスケート弧長の4等分

 ファニャーノはレムニスケートの四半弧を同じ長さの2つの弧へ分解することができることを示しました.これによって,2^n倍あるいは1/2^n倍に対する公式も導かれます.

 レムニスケートの4半弧を定規とコンパスで2等分できることを示すために,

  sl(u)=2sl(u/2)(1-sl^4(u/2))^1/2/(1+sl^4(u/2))

において,sl(u/2)=v,sl(u)=1とおくことにします.すると,

  v^8+4v^6+2v^4-4v^2+1=0

  (v^4+1/v^4)+4(v^2-1/v^2)+2=0

 さらにまた,v^2-1/v^2=wとおくと,

  w^2+4w+4=0よりw=-2

より,v=(-1+√2)^1/2=0.643594

 奇数n=2m+1に対して,n次方程式x^n−1=0は新しい変数としてy=x+1/xをとることによって方程式の次数をm=(n−1)/2次に減らせた方程式に帰着されますが,この公式でも同様にy=ax+b/xとおくことによって求めたのでした.

 もう一度この手続きを繰り返すと,4半角公式も導かれます.

  a^2v^8+4v^6+2a^2v^4-4v^2+a^2=0,a=(-1+√2)^1/2

  (v^4+1/v^4)+4/a^2(v^2-1/v^2)+2=0

v^2-1/v^2=wとおくと,

  w^2+4/a^2w+4=0よりw=-2/a^2・(1+(1-a^4)^1/2)=b

より,v=((b+√(b^2+4))/2)^1/2

ここで,c=1+√2,d=c^2-1とおくと

  v=(-c+(2c)^1/2+(2d+3d/c^1/2)^1/2)^1/2=0.327379

 この式は平方根だけを含む式なので幾何学的に作図できる方法になっています.

 さらに,ファニャーノは倍角公式,4倍角公式によって得られるものに置き換えて,レムニスケートの四半弧の3等分あるいは5等分を与える代数方程式を導いているのですが,これについてはまた回を改めて紹介したいと思います.

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