■4次元の雪,5次元の雪,6次元の雪,・・・(その33)

 これまでの高次元多面体研究について整理すると,

[1]群論的な方法(group-theoretical manner)

[2]個々に構成する方法(case-by-case manner)

[3]計量的な方法(metric manner)

に大別される.

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[1]は主としてコクセターに代表される方法である.この方法は鏡像で生ずる有限離散群(polytope),無限離散群(honeycomb,空間充填)を論ずるもので,方法としては最もエレガントだと思うが,敷居が高いことも事実である.当時の流行だったとはいえ,そのことが結果的に研究者の参入を阻む原因となった.

 また,大域的な幾何構造はわかるが,局所的な幾何構造がわかりにくいという欠点もある.

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[2]は乙部融朗氏に代表される方法である.乙部先生の原稿を整理してみると,(ミスプリと思われる数か所を除き)計数値は正確であった.これは驚異的であるといえる.もっと驚いたことに大域的な幾何学のほかに局所幾何学についても整理されてある.

 実際に構成して数えるわけであるから,大域的な幾何構造も局所的な幾何構造もよくわかる反面,一般的な公式にはなりにくいという欠点がある.

 乙部先生の4次図形構成法には,私の理解を超えているところも残っているのであるが,あの方法では5次元図形をアタックすることはできないとも思っている.率直にいって,氏の方法は5次元以上に高次元化することは難しいだろう.

 また,乙部氏の記述は意味不明ではないにしても仏教用語に似た独自の用語も多く,とっつきにくいという指摘がある.以前,ご本人より4次元幾何学に関わる基礎を解説していただいたことがあるが,用語については決して難解ではない.

 たとえば,数学と結晶学とでは同じことを指すのに用語は異なるので,自分に領域のことばに直して理解しなければならない.そのような置き換えを行えば,摩訶不思議な教典もあながち解読不能ではないはずである.それは当たり前のことであって,理解できないのは言葉の違いにびっくりして理解できないというのではなく,思考自体が理解できないということなのであろう.

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[3]は最も正統的な道で,石井源久氏のとった方法はこれにあたる.私なりに解釈すると,石井氏のは大域幾何学的,乙部氏のは局所幾何学的といえるかもしれない.そのため,乙部氏は針金模型を作りやすかったし,石井氏は正多面体本来の高度な対称性を活用してCGを作りやすかったはずである.

 コクセター,乙部融朗,石井源久,いずれの準正多胞体研究にも共通してみられるアイデアが「ワイソフ構成」である.石井氏はワイソフ構成を知らずに,それと本質的に同値なあるいはそれ以上の方法を考案していたことになる.

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[4]位相幾何学的な方法+α

 準正多面体研究は大別すると,metricな方法とtopologocal-combinatorialな方法に分けられる.小生も当初は[3]から始めたのであるが,[4]に移って成功した.ここで,第4の方法について述べてみたい.

 三者三様の体系的に組み上げに「ワイソフ構成」が共通して見られることは前述した.しかし,誰もワイソフ構成が遺伝子の役割を果たすことには気づいてはいないようだ.私はワイソフ構成の果たす遺伝子としての機能から位相幾何学的(組み合わせ論的)に求められることに気づいたのである.そうすれば大域も局所も両方見通せるようになり,簡単に解読することができる.

 +αとは遺伝学的なアプローチのことである.遺伝子という言葉は何やら難しいものを連想させるかもしれない.正多面体本来の高度な対称性を活用しているわけではないので位相幾何学的な方法の一種には違いないのだが,群論の知識も何も必要としない.実際,見かけほど困難ではなく,行列計算ができればそれで済むのである.

 結果的にこの方法でうまくいくが,一般的な公式にはならないという欠点がある.多面体によっては一般的な公式が得られるものもあるが,一般的な公式が得られない多面体では,計算途中で二項係数の積が簡単な形にならないというのがその理由である.その形を許せば一般的な公式は存在するのである.

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