■相貫体と複合正多面体のintersection

 立方体に正四面体を内接させることができることは,最初ケプラーにより指摘されたことからケプラー四面体と呼ばれる.また,立方体に2個の正四面体を天地逆転させて重ねて内接させた相貫体にはケプラー八角星(星形八面体)という名前がつけられている.一般に,プラトン立体の複合多面体は2つのプラトン立体をそれぞれの辺が直角に2等分されるように配置したものである.

 立方体に内接する2つの正4面体の他にも,正12面体の頂点の8つを選ぶと立方体の頂点となり,そのような選び方は合計5通りあるから,立方体に外接する5つの正12面体なども考えることができる.実際,正12面体にそれぞれ色の違う5つの立方体を内接させることができるような数学用模型がいくつも作られている.今回のコラムでは,2個以上の正多面体を組み合わせた立体のintersectionについて考えてみよう.

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【1】ダビデの星とケプラーの星

 同じ大きさの正3角形2個のうち,1個を天地逆転させ,もう1個の正3角形に重ねると,星形6角形ができます.これはダビデの星と呼ばれて,イスラエルの国旗にも使われ,ユダヤ人の象徴とされています.

 星形6角形では内側に正6角形ができますが,外側のとがった角を結んでも正6角形ができます.すなわち,星形6角形は外側を正6角形が取り囲んでいて,内側にも正6角形が入っていることがわかります.それでは,・・・

(Q)それでは,同じ大きさの正4面体2個を重ねた場合,その外側と内側にはどのような立体ができるでしょうか?

(A)複合多面体とは,いくつかの多面体を中心がすべて一致するように重ね合わせたもので,多面体が同じくらいの大きさならば,互いに交わったり,ある面が他の面を突き抜けたりします.

 この問題はダビデの星の3次元版で,同じ大きさの正4面体2個による屋根瓦状の相貫体にはケプラーの8角星という名前がつけられています.最も簡単な複合多面体なので,これが頭の中でイメージできれば答は簡単なのですが,勘の働きにくい問題でもあります.

 上から見ても,前から見ても,横から見ても,同じ6角形に見える3次元図形を想像されますが,ところが,外側に立方体(正方形6面),内側に正8面体(正3角形8面)が正解なのです.

 小生はこの問題を「ダビデの星・ケプラーの星」と呼んでいます.「ダビデの星」では正三角形と正六角形が互いに隣接していますが,それが周期的な格子をつくったものが「カゴメ格子」です.「カゴメ格子」は,文字通り,竹篭編みにみられる篭の目の結び目を作る格子であり,日本人が最も愛好した文様のひとつです.ちなみに「カゴメ」は世界でも通用する呼び名とのことです.

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【2】互いに双対な正多面体同士の相貫体のintersection

 ついでに,立方体と正8面体,正12面体と正20面体の相貫体について考えてみましょう.立方体と正8面体の相貫体は,外側を菱形12面体(直交する対角線の比が1:√2の菱形12面)が,内側には立方8面体(正方形6面+正3角形8面)が入っています.正12面体と正20面体の相貫体では,外側を包む立体が菱形30面体(直交する対角線の比が黄金比になっている菱形30面),内側には12・20面体(正5角形12面+正3角形20面)という多面体が内包されているのです.(正多面体とその双対多面体との共通部分は,正8面体,立方8面体(6・8面体),12・20面体です.)

 正多面体の各面の中心(重心)を順に結んで立体を作ると,もとの正多面体と面と頂点の関係が逆向きの正多面体ができます.互いに表と裏の関係にある多面体を双対多面体といいます.正四面体ではふたたび正四面体ができ,正六面体では正八面体が,逆に正八面体では正六面体が,また,正十二面体では正二十面体が,逆に正二十面体では正十二面体ができます.したがって,正四面体は自己双対であり,正六面体と正八面体,正十二面体と正二十面体とは互いに双対です.このことにより,正多面体は,{正四面体},{正六面体と正八面体},{正十二面体と正二十面体}の3つのグループに大別することができます.

 3種類の相貫体−−正4面体と正4面体,立方体と正8面体,正12面体と正20面体−−について調べてみると,それぞれの立体の間に双対関係があり,3種類の相貫体の外側にできる立体と内側にできる立体−−立方体と正8面体,菱形12面体と立方8面体,菱形30面体と12・20面体も互いに双対関係をもっていることがわかります.そして,これらもやはり相貫体をつくることができ,そしてまたそこに現れてくる外側と内側の立体も双対関係になっています.頂点と面に関しての双対性にはうまくできているなと感嘆させられます.自然界の法則性,自然が作るきれいな関係の1例といえましょう.

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【3】複合正多面体のintersection

 同じ正多面体を中心が重なるように合わせたもので,正4面体を2つ,屋根瓦状にあわせたケプラーの「星形8面体」は最も簡単なものです.このとき,8個の頂点は立方体の頂点をなします.残りの4つは以下のものになります.

  正4面体を5つあわせたもの

  正4面体を10個あわせたもの

  立方体を5つあわせたもの

  正8面体を5つあわせたもの

 前3者は頂点を正12面体の頂点の位置に配置したもので,正8面体を5つあわせた複合多面体の頂点は20・12面体になります.また,組み合わせた正多面体すべてのintersectionは立方体を5つあわせたものでは菱形30面体に,その他のintersectionは正20面体になります.

                  核(intersection)   殻(頂点)

  正4面体を2つあわせたもの   正8面体        立方体

  正4面体を5つあわせたもの   正20面体       正12面体

  正4面体を10個あわせたもの  正20面体       正12面体

  立方体を5つあわせたもの    菱形30面体      正12面体

  正8面体を5つあわせたもの   正20面体       20・12面体

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【補】相貫円柱

 断面の形が正方形の四角柱を中心軸が直交するように相貫させると,共通部分は立方体となる.2本のときでも3本のときでも立方体である.しかし,半径が等しい2つの円柱を中心軸が直交するように相貫させたとき,その共通部分がどのような形になるのか,頭の中で想像するのもなかなか難しい.

(Q)2本の円柱が直角に交わっているとき,共通部分の体積はいくらか.

(A)直角の交差する2本の円筒がテーブルの上に横にして置かれているとしよう.どちらの円筒にも球を入れることができるから,2本の共通部分は球より大きく,球を正八面体状に膨らましたものになる.

 共通部分に球を入れたまま,テ−ブルに水平な平面で2本の円筒を切断すると,切り口は球に接する正方形になる.円とその外接正方形の面積比はπ:4であるから,カバリエリの原理により,球の体積の4/π倍であることがわかる.単位球であれば

  4π/3×4/π=16/3

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 アルキメデスは円柱の直径をdとするとその体積は

  2/3d^3

になることを知っていたようである.円柱を3本にすると同じように得られる曲面立体についてはより複雑になる.

(A)半径が等しい3つの円柱を中心軸が直交するように相貫させたとき,その共通部分は立方八面体の双対である菱形12面体を丸く膨らましたような形で12の曲面で囲まれた立体になる.その体積は円柱の直径をdとすると

  (2−√2)d^3

になる.

(A)半径が等しい4つの円柱を中心軸が正4面体の対称性をもって相貫させたとき,その共通部分は菱形立方八面体の双対である凧型24面体を丸く膨らましたような形で24枚の側面をもつ.その体積は円柱の直径をdとすると

  3√2/2(2−√3)d^3

になる.

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