■4次元の雪,5次元の雪,6次元の雪,・・・(その23)

【1】ルート系と単純リー群の分類

 基本単体を鏡映も許しながら自分自身に重ねていく操作がルート系であり,それは,アメリカのキリングやフランスのカルタンによって成し遂げられた単純リー群の分類と関係しています.

 n次元空間において高度の対称性をもったベクトルの集合がルート系なのですが,n次元正単体とn次元立方体の対称群は,それぞれAn-1,Bn(Cn)で表されます.

 ルート系では,ベクトルの間の角度は30°,45°,60°,90°またはその補角に限られるので,2次元の可能なルート系は

  A2(正六角形:正三角形格子)

  B2=C2(正方形)

  G2(星形六角形:正6角形を2個合わせたもの)

しかありません.

 また,このようにルート系のベクトルの末端を結んでできるn次元図形が正多胞体になるのは比較的少数です.他には

  D4(正24胞体の3対性)

  Cn(双対立方体)

  F4(正24胞体を2個合わせたもの)

があげられます.

 正24胞体は,すべての次元を通じて,単体以外の唯一の自己双対な正則胞体です.この24胞体の対称性を,鏡映で生成される既約な有限群(ルート系)との関係でみても興味深いものがあります.たとえば,正24胞体に含まれる正16胞体は互いに60°をなしますから,D4の3対性をもっているというわけです.

 また,正24胞体は1つの例外型対称群F4をもつことが知られています.2個の正24胞体を中心を一致させて重ねて回転させます.これはちょうど平面上でダビデの星が2つの正六角形を30°ずらして重ねたものと似ているわけですが,この対称性がF4に相当します.正24胞体は単体以外の唯一の自己双対な正則胞体であるという事実がF4と関係しているのですが,この点もまた注目すべきものでしょう.

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 単純リー群を分類するという問題はある意味では興味深い幾何学の可能性を決定することになります.

 既約ルート系の分類の基づいて,複素単純リー代数の分類を行ったものがカルタンの分類定理であり,それは『いかなる複素単純リー代数もAk(k≧1),Bk(k≧2),Ck(k≧3),Dk(k≧4),E6,E7,E8,F4,G2の型のものに限られる.』というもので,Ak,Bk,Ck,Dk型の複素単純リー代数は古典型,E6,E7,E8,F4,G2の型のものは例外型と呼ばれます.すなわち,単純リー群には9つの型があり,それらはA,B,C,Dと名づけられた4つの無限系列とE6,E7,E8,F4,G2と名づけられた5つの例外群であったのです.

 キリングやカルタンの研究は面白い幾何学がどれだけできるかという設問に対する解答でもあり,大ざっぱにいえば,A型が複素ユニタリ幾何,B型とD型がそれぞれ奇数次元と偶数次元の実ユークリッド幾何,C型が4元数上の幾何学,5つの例外型は8元数上の幾何学に対応しています.→コラム「群と月光」「エルランゲン・プログラムと変換群」参照

 線形代数はAkという特定のルート系の理論であり,ユークリッド空間やシンプレクティック空間の幾何に対応するのはBk,Ck,Dkの理論です.実数版→複素数版→4元数版ときましたが,そこでの理論の多くは,例外型の結晶群(E6,E7,E8,F4,G2)に対してだけでなく,結晶群でないユークリッド鏡映群(I2(p),H3,H4)に対しても成り立ちます.

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