■三角数と四角数のパズル

 k角数とは「初項1,公差k−2の等差数列の和」として定義されますが,ここでは三角数を△,四角数を□で表すことにします.

 たとえば,□+□=□?は2つの四角数を足してまた四角数になることがあるかというピタゴラスの問題です.(x,y,z)=(3,4,5),(5,12,13),(8,15,17)はそのような3数の例であり,一般解は

  x=k(m^2−n^2),y=2kmn,z=k(m^2+n^2)

と表されます.

 ピタゴラスの問題□+□=□?を拡張する方向としては,一つには未知数の個数を増すこと(□+□+□=□あるいは一般に□+□+・・・+□=□を解くこと),もう一つには指数を大きくすること(a^3+b^3=c^3あるいは一般にa^n+b^n=c^nを解くこと)になります.前者の解としては,x1=−a1^2+a2^2+・・・+an^2,x2=2a1a2,x3=2a1a3,・・・,xn=2a1anとすれば(a1^2+a2^2+・・・+an^2)^2=y^2となります.後者は有名なフェルマーの問題でこれには整数解がないことが証明されています.

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【1】リュカの問題

 n個の同じ大きさの正方形や円を重ならないように最小面積の正方形や円に詰め込む問題は実用価値があります.実生活でもカンやビンをいろいろな形の容器に詰め込む必要はよくありますが,大規模集積回路(VLSI)のチップ面積をできるだけ小さく設計する場合,モジュール部品をどのように配置したらよいのかなど現実的な要請があるからです.

 しかし,正方形充填問題における最適な詰め込みかたは意外なことにnが平方数のときとnが2,3,5のごく小さい値のときだけしかわかっていません.たとえば,nが17から19までの場合の単位正方形をつめこむことができる最小の正方形を読者は発見できるでしょうか.この節では類似の問題として,辺が相続く整数列1,2,3,4,5,・・・の大きさの異なる正方形による正方形充填問題について考えてみることにします.

  1^2+2^2+3^2+・・・+24^2=24(24+1)(2・24+1)/6=70^2

は,最初の24個の平方数の合計が平方数になっているという面白い式です.驚異的ですらあります.

 級数の公式:Σk^2=n(n+1)(2n+1)/6をご存じの方も多いでしょうが,1からnまでの平方の和が平方数となるのはnが1か24の場合しかありません.四面体数=四角数あるいは25平方の等式ともいうべきこの等式はリュカの問題(1873年)として知られています.

 y^2=x(x+1)(2x+1)/6の唯一自明でない整数解は(24,70)で,それ以外の自明な解がないことは楕円関数やペル方程式を使って証明されています.すなわち,1より大きい数でこれが起こるのは24だけで,それ以外の数では決して最初の2個の平方の和は平方数にはならないのです.

 この等式は辺の長さが相続く整数列1,2,・・・,24の正方形を1辺の長さ70の正方形の中に詰め込める可能性があることを示唆しています.それでは,実際に,70×70の正方形を辺が1から24の相続く正方形によって埋めつくすことができるでしょうか.この問題の答えは否定的(不可能)です.1辺の長さ7の正方形を除くすべての正方形は詰め込めるのですが・・・.それならば,無駄な空間の割合を最小にして,辺の長さが1,2,・・・,nの正方形を全て詰め込むことができる最小の正方形の辺の長さはいくつでしょうか.また,相続く整数辺の正方形を使って長方形を充填できるでしょうか.

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【2】リュカの問題の拡張

 上記の問題を立方体に拡張することははるかに難しくなりますが,次に,たくさんの小立方体を立方体に詰め込む問題について考察してみましょう.最初のn個の立方数の和は平方数になります(Σk^3={n(n+1)/2}^2).

 フィボナッチはこれを次のように証明しました.

  1^3=1,2^3=3+5,3^3=7+9+11,4^3=13+15+17+19,5^3=21+23+25+27+29,・・・

また,最初のn個の奇数の和は1+3+5+・・・+(2n−1)=n^2 ,最初のn項までに現れる奇数の全項数は1+2+3+・・・+n=n(n+1)/2

よって,

  1^3+2^3+3^3+・・・+n^3={n(n+1)/2}^2=(1+2+3+・・・+n)^2

が示されます.

 三角数とはm(m+1)/2の型の自然数のことと定義すると,任意の立方数は2つの三角数の平方数の差と表されることがわかります.すなわち,y^3={y(y+1)/2}^2−{y(y−1)/2}^2がこの証明の根拠となっていることが理解されます.

 1^3+2^3+3^3+・・・は完全平方数ですが,はたして,この数は立方数になりうるでしょうか.

  1^3+2^3+3^3+・・・=1・1^2+2・2^2+3・3^2+・・・

より,この関連問題は,ある1つの正方形を1辺1の正方形1個,1辺2の正方形2個,1辺3の正方形3個,以下同様・・・,によって充填する問題といい換えてもよいのですが・・・.

 また,1からはじめなくてもよければ,3^2+4^2=5^2,18^2+19^2+・・・+28^2=77^2,3^3+4^3+5^3=6^3,11^3+12^3+13^3+14^3=20^3など連続した平方(立方)数の和が平方(立方)数となることはあるのですが,y^3={x(x+1)/2}^2にx=1,y=1以外の自明でない整数解はあるのでしょうか?

 実は,x=1を除きx(x+1)/2は立方数にはならないことが示されます.さらに,高次元化して

  Σk^s=1^s+2^s+3^s+・・・+n^s=m^s

の解について考察してみてもおもしろいかと思われます.ベルヌーイ数Bnが

  Σ1/n^s=1/1^s+1/2^s+1/3^s+1/4^s+・・・

の計算に重要な役割を果たしているのですが,ベルヌーイ数は元来,ベキ和

  Σk^s=1^s+2^s+3^s+・・・+n^s

を求めるために考案されたものです.この和の中にs乗数はあるでしょうか.

Σk=n(n+1)/2

Σk^2=n(n+1)(2n+1)/6

Σk^3=n^2(n+1)^2/4

Σk^4=n(n+1)(2n+1)(3n^2+3n−1)/30

Σk^5=n^2(n+1)^2(2n^2+2n−1)/12

Σk^6=n(n+1)(2n+1)(3n^4+6n^3−3n+1)/42

Σk^7=n^2(n+1)^2(3n^4+6n^3−n^2−4n+2)/24

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

ですから,左辺は,sが偶数のときn(n+1)(2n+1)(多項式)/(整数),1以外の奇数のときn^2(n+1)^2(多項式)/(整数)と書くことができます.Σk^sは(s+1)次の多項式になり,最高次数の係数は1/(s+1)ですが,Σk^sはBn を含む一般式の形で表すことができます.もっと知りたい人のためには,クヌースらによる「コンピュータの数学」共立出版刊をお勧めします.

 不定方程式

  Σk^p=1^p+2^p+3^p+・・・+n^p=m^q

は(p,q)=(3,2)のときすべてのnについて,(p,q)=(1,2),(3,4),(5,2)のとき無限に整数解をもちますが,当該の不定方程式では,s≧3の場合,x=y=1以外に解はないものと予想されています.すなわち,十分条件はおろか充填のための必要条件すら満足しません.有理数解ならば簡単に与えられる問題であっても整数解に限ると格段にむずかしい深遠な問題に昇華するのです.

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【3】ラマヌジャンのパズル

 多変量解析の目的関数として,ユークリッド距離□+□+□+□の他にマハラノビス距離□/□+□/□やミンコフスキー距離□+□+□−□がしばしば用いられます.マハラノビスはラマヌジャンの友人,ミンコフスキーはアインシュタインの先生です.ここではラマヌジャンがマハラノビスに出題したパズルを紹介します.

(Q)1からn−1までの和がn+1からmまでの和に等しくなる(m,n)を求めよ.

(A)この問題は,

  (n−1)n/2=(m−n)(m+n−1)/2なる(m,n)を求めるものというものです.これを整理すると

  m^2+m=2n^2

になるのですが,両辺を4倍して1加えます.すると

  4m^2+4m+1=8n^2+1

  (2m+1)^2=2(2n)^2+1

ここで,2m+1=p,2n=qとおくと

  p^2−2q^2=1  (ペル方程式)

に帰着されます.

 √2の最良近似分数列p/q

  1/1,3/2,7/5,17/12,41/29,99/70,239/169,577/408,・・・

において,

  p^2−2q^2=±1  (ペル方程式)

の±1は交互に繰り返し現れます.

  2^2+2^2=3^2−1

  5^2+5^2=7^2+1

  12^2+12^2=17^2−1

  ・・・・・・・・・・・・・

 したがって,

  (p,q)=(3,2),(17,12),(99,70),(577,408),(3363,2378),・・・

 →(m,n)=(1,1),(8,6),(49,35),(288,204),(1681,1189),・・・

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【4】三角数△と四角数□のパズル

(Q1)△=□?,すなわち,三角数n(n+1)/2が完全平方数m^2となるnの値を求めよ.

(A1)n^2+n=2m^2

  4n^2+4n+1=8m^2+1

  (2n+1)^2=2(2m)^2+1

ここで,2n+1=p,2m=qとおくと

  p^2−2q^2=1  (ペル方程式)

に帰着されます.

  (p,q)=(3,2),(17,12),(99,70),(577,408),(3363,2378),・・・

 →(n,m)=(1,1),(8,6),(49,35),(288,204),(1681,1189),・・・nは完全平方と完全平方の2倍を交互に繰り返します.

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(Q2)△+△=△を満たす整数解はあるか?

(A2)x(x+1)/2+y(y+1)/2=z(z+1)/2

両辺を8倍して2を加えると

  (2x+1)^2+(2y+1)^2=(2z+1)^2+1

ここで,2x+1=X,2y+1=Y,2z+1=Z,1=Wとおくと

  X^2+Y^2=Z^2+W^2

 すなわち,□+□=□+□?という問題に帰着されますが,□+□=□+□に対しては,

  (ab−cd)^2+(ad+bc)^2=(a^2+c^2)(b^2+d^2)

  (ab+cd)^2+(ad−bc)^2=(a^2+c^2)(b^2+d^2)

より,恒等式:

(ab−cd)^2+(ad+bc)^2=(ab+cd)^2+(ad−bc)^2

がよく知られていて,ab−cd,ad+bc,ab+cdが奇数で,ad−bc=1を満たすものをみつける問題に帰着されたことになります.

 ad−bc=1なる行列

  J=[a,b]

    [c,d]

をn乗した行列を

  J^n=[A,B]

     [C,D]

とすると,常にAD−BC=1が成り立ちますから,ab−cd,ad+bc,ab+cdが奇数となるもの,たとえば,

  J=[3,2]

    [1,1]

からスタートして2乗,3乗,・・・していきます.

 すると,mod2でみて,

  [1,0]と[1,0]

  [1,1] [0,1]

が交互に現れますが,ab−cd,ad+bc,ab+cdが奇数となるのは

  [1,0]

  [1,1]

のみであることがわかります.

 そこで,

  [1,0]   (mod2)

  [1,1]

となるような任意の行列をひとつ選び,その奇数乗のときだけ採用することにして,

  2x+1=ab−cd,2y+1=ad+bc,2z+1=ab+cd

なるx,y,zを求めると,△+△=△となります.

 たとえば,

  J=[3,2]→(x,y,z)=(2,2,3)

    [1,1]

  J^3=[41,30]→(x,y,z)=(532,450,697)

     [15,11]

  J^5=[571,418]

     [209,153]

→(x,y,z)=(103350,87362,135327)

など無限に解が得られます.

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(Q3)△+△=△+△を満たす整数解はあるか?

   

(A3)x(x+1)/2+y(y+1)/2=z(z+1)/2+w(w+1)/2

  (2x+1)^2+(2y+1)^2=(2z+1)^2+(2w+1)^2

ここで,2x+1=X,2y+1=Y,2z+1=Z,2w+1=Wとおくと

  X^2+Y^2=Z^2+W^2

すなわち,□+□=□+□?という問題に帰着されます.

  2x+1=ab−cd,2y+1=ad+bc

  2z+1=ab+cd,2w+1=ad−bc

 たとえば,

  J=[3,2]→(x,y,z,w)=(1,5,4,3)

    [1,3]

  J^3=[45,58]

     [29,45]

→(x,y,z,w)=(652,1853,1957,171)

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【5】図形数のパズル

 ガードナーは三角数,四角数,三角錐数,四角錐数などの図形数の間で互いに等しいものを問題としています.今回のコラムでは△=□と四角錐数=四角数(リュカの問題)を扱いましたが,これらの対6組のなかで三角数=四角錐数以外はすべて解かれています.

 三角数=四角錐数の問題は,楕円曲線

  3(2y+1)^2=8x^3+12x^2+4x+3

なる方程式に帰着します.この整数解は有限ですが,x=−1,0,1,5,6,85が解のすべてであるかどうかは不明です.

 一方,

  y^2=(x,0)+(x,1)+(x,2)+(x,3)

も楕円曲線

  6y^2=(x+1)(x^2−x+6)

になり,整数解は有限個ですが,この方程式の解はx=−1,0,2,7,15,74,767ですべてであることが示されています.  

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