■幾何学の2つの定理

 約2000年に及ぶユークリッド幾何学の時代を経て,17世紀以降,ボヤイ・ロバチェフスキー幾何学,リーマン幾何学,射影幾何学,位相幾何学などいろいろな考えに基づく種々の幾何学が誕生しました.幾何学の黄金時代といってもよいでしょう.今回のコラムでは射影幾何学におけるシュタイナーの定理と非ユークリッド幾何学におけるポンスレーの定理を紹介します.

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【1】シュタイナーの定理

 小円を大円の内部におき,この2つの円の中間に次々に接する円列を作る.たいていの場合,最後の円は重なってしまい,この円列は互いに接する円環をなさない.しかしときとして完全な円環をなす場合がある.このとき,最初の円をどこに選ぼうとも完全な円環をなす.

 接する円の族に関する定理では何百という美しい定理があるが,シュタイナー円鎖では小円を大円の内部におき,この2つの円の中間に次々に接する円列を作る.たいていの場合,最後の円は重なってしまい,この円列は互いに接する円環をなさない.しかしときとして完全な円環をなす場合がある.これがシュタイナー円鎖である.

 最も簡単なものとしては,たとえば,半径が3と1の同心円に対しては6個の単位円よりなるシュタイナー円鎖が存在し,円の中心の軌跡は半径2の円となる(円の最密充填).シュタイナー円鎖をなす円の中心の軌跡は楕円となる.

 アルキメデスのアルベロス(靴屋のナイフ)円列はシュタイナーの円鎖の特別な場合になっていて,円の中心はすべて基線上に長径をもつ楕円の上にのっている.この円列の円の中心から基線までの距離は半径の2倍,4倍,8倍,・・・となる(パップス).

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【2】ポンスレーの定理

 小円を大円の内部におく.大円上の点P0から小円へ接線を引き,大円と交わる点をP1とする.P1から再び小円へ接線を引き,大円と交わる点をP2とする.この2つの円の中間に次々に接する接線列を作る.たいていの場合,最後の交点は最初の点P0と重ならない.しかしときとして完全に重なる場合がある.このとき,最初の点P0をどこに選ぼうとも完全な多角形環をなす.

 2つの定理に共通する特徴は2つの円が同心円ならば自明であるということである.シュタイナーの定理はメビウス変換

  w=(az+b)/(cz+d)

により同心円の場合に帰着させて射影幾何学的に証明できるが,ポンスレーの定理ではそれができない.2つの非同心円は射影変換により同心円には変えられず,円と楕円になる.

 ポンスレーの定理の場合,直線を直線に移す円板の非ユークリッド幾何学的な変換が必要になるが,それは

  x’=(ax+by+c)/(ux+vy+w)

  y’=(dx+ey+f)/(ux+vy+w)

という形の(実)変換である.

 ポンスレーの定理では楕円積分に帰着させる微分積分学的な証明が知られている.また,ポンスレーの定理は2つの円を2つの楕円に置き換えても成立する.

 ポンスレーの定理においてn=3の場合,一方の円(半径R)に内接し,もう一方の円(半径r)に外接する三角形は無数にある.これが成り立つための条件は2つの円の中心間距離をdとして,

  R^2−2Rr=d^2

となることである(オイラーの定理).

 四角形やそれ以上のn角形についても同様の定理が成り立ち,ひとつの円に内接し,他の円に外接する四(n)角形は無数にある.オイラーの定理のn角形版として,フースの定理が知られている.たとえば,内接円と外接円の両方をもつ四角形(双心四角形)では,

  2R^2(r^2+d^2)=(r^2−d^2)^2    (フースの定理)

が成り立つ.フースは双心五角形,六角形,七角形,八角形に関する同様の公式も見つけている.

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