■カンタベリー・パズルの木工製作(その5)

 (その4)ではピタゴラスの正方形パズルを取り上げたが,今回のコラムでは,

  [参]Frederickson GN: Dissections: Plane and Fancy, Cambridge University Press, 1997

を参考にして,2次元・3次元図形の切断と並べ替えについて考えてみることにしたい.著作権の関係で図は転載できないので,ページ数を掲げることにした.

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[Q1]正六角形を8個の合同な正三角形に分割せよ.

[A1]同一の円に内接・外接する2つの正六角形を考える.小さい正六角形の面積が3のとき,大きい正六角形の面積は4となる.この問題を解くのに三角関数は不要である.計算する代わりに,以下のような平面分割をしてみよう.

 小さい正六角形の頂点と大きい正六角形の辺の中点が一致するように外側の正六角形を回転させる.次に円の中心と内側の正六角形の頂点を結び,内側の正六角形を正三角形で6等分する.さらに正三角形の重心と頂点を結び,内角30°,30°,120°の二等辺三角形で内側の正六角形を18等分する.このように線でわけると「麻の葉文様」の24個の合同な三角形ができる.そのうち18個が小さな正六角形を形作る.面積比は18:24=3:4であるから,大きい正六角形の面積は4となる.

 次に,大きな正六角形を8個の正三角形に分割することを考える.麻の葉3枚で正三角形ができるから,24ピースを8個の正三角形に分割することができる.ここでは合同な24ピースに切ったが,切り方を工夫してピースの個数を減らすこともできるだろう.たとえば,大きな正六角形を12ピース(小さな正六角形を正三角形に6等分+麻の葉6枚)に切って,残りの麻の葉6枚を正三角形を2個に並び替えると8個の正三角形に作り替えることができる.しかし,これでピース数が最小になっているかどうかはわからない.もっとエレガントな切断方法があるかもしれないのである.

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[Q2]正12角形を3個の合同な正方形に分割せよ

[A2]1辺の長さが2の正方形に内接する正十二角形の面積は3となる.個の問題も計算する代わりに分割してみると,2×2正方形は16個の合同な正三角形と32個の合同な二等辺三角形(内角15°,15°,150°)に分割される.正十二角形は12個の正三角形と24個の二等辺三角形により形作られる.したがって,この正十二角形の面積は3である.すなわち,半径1の円に内接する正十二角形の面積は3であるという円周率πの近似を与えていることになる.

 この問題は1898年にハンガリーの数学者キルシェクにより十二角形の面積が決定されたもので「キルシェクのタイル」と呼ばれる.正方形の中に各辺を1辺とする正三角形を4個作る.次に正三角形の頂点で正方形の中にあるもの同士を結んで正方形を作る.すると,正方形の各辺の中点4個と4つの正三角形の交点8個で正十二角形ができる.このように,正三角形の頂点を結んで作られた正方形と正十二角形がキルシェクのタイルの基本形となる.

 ここでは36ピースに切断しているが,切り方を工夫してピースの個数を12個に減らすことができる(p3).

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[Q3]鼈臑型四面体を三角柱に等積変形せよ

[A3]相似比1:3,体積比1:27となる27個の鼈臑を組み換えると三角柱を作ることができる.

 ここで,大鼈臑を下から1/3のところで水平に切ると上側は8個の小鼈臑からなる中鼈臑,下側は19個の小鼈臑からなる三角錐台,さらに8個の小鼈臑からなる中鼈臑を4個=塹堵+鼈臑,3個=陽馬+鼈臑,1個=鼈臑に分けることができる.

 このことから,鼈臑型の四面体は4つのピースを組み換えると三角柱になることがわかる.すなわち,鼈臑を下から1/3のところで水平に切る,次に新しくできた四面体を垂直に切る,さらに一方を斜めに切って,4つのピースを組み換えると同じ底面ともとの1/3の高さをもつ角柱に変形させることができる.

 この分解合同はヒルによって与えられたと成書にはあるが,ヒルの論文をあたってみてもそのような記述は見あたらなかった.実際はヒルから約50年後,スイスの数学者シドラーによって4ピースのエレガントな切断と組み替えが与えられたようだ(p234).

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[Q4]切頂四面体と菱形十二面体を立方体に等積変形せよ

[A4]中川の六面体(c-squadron)96ピースで菱形十二面体,24ピースで切頂八面体を組み立てることができるが,中川六面体の2分割体となる五面体には1対の鏡像体があり,6対(48対)併せると立方体,24対で切頂八面体,96対で菱形12面体ができる.すなわち,中川六面体の2分割体は立方体・菱形12面体・切頂八面体に対する三重の空間充填図形である.

 この空間充填素子についてまとめておくと

  立方体        中川六面体の2分割体×2×6(48)

  菱形12面体     中川六面体の2分割体×2×96

  切頂八面体      中川六面体の2分割体×2×24

になる.

 2個の切頂八面体を切断して1個の立方体に並び替えるのは難しくはない.切頂八面体の正方形面を対角線で切断して4等分した多面体を8個組み合わせればよい.しかし,1個の切頂八面体から1個の立方体を作るという問題は難しいだろう.これには等分でない13ピースの解が知られているようだ(p241).

 同様に,1個の菱形十二面体を切断して2個の立方体に並び替えるのは難しくはないが,1個の菱形十二面体から1個の立方体を作るという問題は難しい.これも等分ではない13ピースの解が知られている(p242).

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[Q5]中立方体をいくつかのピースに切り離して並べ替え,小立方体と組み合わせて1つの大立方体を作れ

[A5]ピタゴラスの定理:x^2+y^2=z^2をx^3+y^3=z^3に変形して体積を使って証明せよという問題であるが,これには11ピースのパズルが考案されている(p240).

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