■カンタベリー・パズルの木工製作(その4)

 デュドニーはイギリスの数理パズルの最も偉大な創始者です.彼は正式な数学教育を受けてはいませんが,一筋縄では解けない難問パズルの本を6冊も書いています.その第一冊がカンタベリー・パズル(Canterbury Puzzles)です.

 中正方形をいくつかのピースに切り離して並べ替え,小正方形と組み合わせて1つの大正方形を作るというパズルがあります.このパズルは面積を使ったピタゴラスの定理:a^2=b^2+c^2の証明玩具になっているのですが,1917年,デュドニーはピタゴラスの定理の証明のために,中正方形を4等分したものと小正方形を組み合わせて大正方形を作るパズルを考案しています.

 中川宏さんにお願いして,このようなピタゴラスの正方形パズルを2種類製作していただきました.今回のコラムではそれらについて紹介します.

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【1】ピタゴラスの正方形パズル(その1)

 ここでは中正方形を4個の等しくないピースに分けたものともうひとつ別の小正方形を並び替えてひとつに大正方形に作りかえるパズルを紹介します.

 このパズルは一見簡単そうに見えるのですが,解を見つけるのは容易ではありません.与えられた2個の正方形の面積の和が新しい正方形の面積に等しいという点でピタゴラスの定理と関係しているパズルですが,中正方形の1辺の長さを1とすると小正方形の1辺の長さが√2/4(したがって,大正方形の1辺の長さは3√2/4)に限定されているという意味で,ピタゴラスの定理と間接的にしか関係していません.

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【2】ピタゴラスの正方形パズル(その2)

 次にピタゴラスの定理を直接的に証明するために,中正方形を4等分したものと小正方形を組み合わせて大正方形を作るパズルを紹介します.

 このパズルでは簡単に解を見つけることができます.ピタゴラスの定理のデュドニーによる証明になっているというわけですが,このパズルで問題となるのは中正方形の切り分け方です.簡単のため,a^2=b^2+c^2において,小正方形の1辺の長さcを1とおいてみます.

  a^2=b^2+1   (c=1,b≧1)

 中正方形の中心を通る長さaの線分で中正方形を4等分するのですが,その際,中正方形の頂点からkb(0≦k≦1/2)離れた辺上の点で切り離されるものとします.また,中正方形と大正方形のなす角をθとします.

 すると,余弦定理より

  k^2b^2+a^2/4−2kb・a/2cos(π/2+θ)=b^2/2

  (1−k)^2b^2+a^2/4−2(1−k)b・a/2cos(π/2−θ)=b^2/2

  asinθ=1

が成り立ちます.

 これより,kに関する2次方程式

  b^2k^2+bk+(1−b^2)/4=0

が得られますから,

  k=(1−1/b)/2,b=1/(1−2k),tanθ=1/b

とすればよいことがわかります.

  k=0  → b=1  → θ=45°

  k=1/6→ b=3/2→ θ=33.6901°

  k=1/5→ b=5/3→ θ=30.9638°

  k=1/4→ b=2  → θ=26.5651°

  k=1/3→ b=3  → θ=18.435°

 以下,

  k=1/6→ b=3/2→ θ=33.6901°

  k=1/3→ b=3  → θ=18.435°

として設計したパズルを掲げます.

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【3】雑感

 デュドニー分割のカンタベリー・パズルの製作にはハトメ(swing-hinge)を用いるが,twist-hingeを用いた7ピースのカンタベリー・パズルも知られている.この7ピース・パズルでは直角三角形のピースを6回ひねると正三角形から正方形に移すことができる.

  [参]Frederickson GN: Unexpected twists in geometric dissections, Graphs and Combinatorics(2007), 23, Suppl, 245-258

 また,fold-hinge (piano-hinge)という二段重ね型の7ピース・パズルも知られている.

  [参]Frederickson GN: Piano-higed dissections: now let's hold, Discrete and computational geometry, Japaneses conference, JCDCG 2002, Revised papers, LNCS, vol.2866, 159-171, Splinger, Berlin(2003)

 前者を木工製作するには板の厚み,ヒンジの中心位置あわせなどかなり難しくそうであるが,後者なら薄い板をテープで留めるだけで済むから木工製作は可能かもしれない.

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