■サッカーボール(変形しない32面体)

 正二十面体をイメージして下さい.正二十面体(頂点が12個,正三角形の面が20個ある)の各頂点からのびている5本の辺をそれぞれ1/3の長さの所で切り取り,五角錐をはずします.するとそこに12枚の正五角形が現れ,20枚の正三角形が20枚の正六角形になるわけです.

 サッカーボールは正二十面体の切頂形であって,正五角形が12枚,正六角形が20枚の合計32枚の面で構成されています.12個の正五角形はすべて離れています.

 先日,娘達

  佐藤一麦(小学5年生)

  佐藤千種(4才)

が「ポリドロン」でサッカーボールを作るというので,正五角形が12枚,正六角形が20枚の合計32枚の面で構成されることを教えたところ,最初は正五角形をバラバラに配置しなかったため,間違った異性体(?)を作っていたのですが,最後には正五角形が1枚,正六角形が2枚を1つのユニットとして上手に組み立ててくれました.

 ポリドロンには辺の長さの等しい正三角形〜正六角形の部材があるので,正多面体や準正多面体を簡単に構成することができます.正三角形,正方形に比べて正五角形,正六角形はかなり大きくなるので,巨大なサッカーボールができあがりました.

 92種類あるジョンソン・ザルガラー多面体の面は正三角形,正方形,正五角形,正六角形,正八角形,正十角形のいずれかなので,もし正八角形,正十角形の部材も市販されているならば相当大きなものが構成できることになるでしょう.

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【1】オイラーの多面体公式

 サッカーボールでは,頂点の数v=60,辺の数e=90ですから,面の数f=32となってオイラーの多面体公式

  v−e+f=2

が成り立っています.しかし,実際に頂点の数vや辺の数eを数えたら途中で間違うこと必定です.

 そこで,正五角形がx面,正六角形がy面あるとします.サッカーボールではどの頂点からも3本の辺が出ているので,5x+6y個の頂点は同じ頂点が重複して3回数えられていることがわかります.したがって,頂点数vは

  3v=5x+6y

 同様に,5x+6y個の辺は同じ辺が重複して2回数えられているので,

  2e=5x+6y

 オイラーの公式に代入すると

  (5x+6y)/3−(5x+6y)/2+x+y=2

より,x=12

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

 ここで,

(Q)五角形と六角形からなる多面体には五角形が常に12個ある

ことを証明してみます.

(A)オイラーの多面体定理で示される制限からいえることとして,

  v−e+f=2,2e≧3f,2e≧3v

を組み合わせると,

  2v+2f=2e+4≧3f+4 → f≦2v−4

  2v+2f=2e+4≧3v+4 → v≦2f−4

また,別の組合せ方をすると,

  3v+3f=3e+6≦2e+3f → 3f−e≧6

  3v+3f=3e+6≧2e+3v → 3v−e≧6

 n本の辺をもつfn枚の面とn本の辺が交わるvn個の頂点をもつ凸多面体について,

  F=f3+f4+f5+・・・

  2E=3f3+4f4+5f5+・・・

  6F−2E≧12

に代入すると

  3f3+2f4+f5−f7−2f8−3f9−・・・≧12

 地図のように2つの辺に囲まれた領域まで許すことにすると,この数え上げ公式は

  4f2+3f3+2f4+f5−f7−2f8−3f9−・・・=12

となり,係数が1ずつ小さくなり,それが0となるf6は式中に現れない.

 ここで,

(1)f2=f3=f4=0だとすると,少なくとも12個のf5がなければならないことになる

(2)多面体の面がすべてf5とf6であるならば,f5=12(切頂二十面体)

(3)多面体の面がすべてf4とf6であるならば,f4=6(切頂八面体)

(4)多面体の面がすべてf4,f6,f8であるならば,f4=f8+6(斜方切頂立方八面体)

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【2】サッカーボールの異性体

 ダイヤモンドとグラファイト(鉛筆の芯)に次ぐ炭素第3の形として「フラーレン」があげられる.フラーレンは1970年に大澤映二氏(当時京都大学)が存在を予言していた分子である.フラーレンの中でも60個の炭素原子が球殻状に結合したC60はサッカーボール(切頂20面体)にそっくりで,12個の五角形と20個の六角形からなる網目状のカゴ構造を形成している.

 1985年に,クロト,スモーリー,カール(Kroto,Smalley,Curl)がグラファイトにレーザーを当ててできた欠片をマススペクトルにかけたところ分子量が720(C60)と840(C70)という値が得られその存在が確認された.彼らはネイチャー誌に論文を書いてサッカーボールの画を載せた.(その後,数mg〜数百mgのフラーレンが得られる製法が開発され,NMRで間違いなくサッカーボールの形であることが証明された.)

 彼らの論文はサッカーボールの形を推定しただけであるが,結局この3人がノーベル化学賞をもらって,大澤映二氏の名前は世界に広く知られることはなく随筆で止まってしまった.日本人にとっては残念なストーリーであるが,大澤映二氏は有機合成のエキスパート,現在でも精力的に人造・人工ダイヤの研究を行っておられる(現・ナノ炭素研究所).

 その後,サッカーボール型のC60だけでなく、ラグビーボール型のC70,金属を内部に取り込んだC80などが次々に発見され,これら一群の球状炭素分子はフラーレンと総称される.

 フラーレンはダイヤモンドに次ぐくらい硬く,セシウムやルビジウムなどのアルカリ金属を加えると超伝導をおこすという化学的性質をもつ.切頂20面体は頂点が60あり,どの頂点からも3本の手がでている.したがってC60では30本の二重結合(12500のケクレ構造)が描ける.

 また,頂点数v=60でどの頂点にも正五角形,正六角形が3枚ある異性体は1812種類もある.そのうちで12個の五角形がすべて離れているものが1つだけあり,それがサッカーボール型のC60である.この形は最も安定であるが,C60,C70以外にも正五角形12枚,正六角形は20枚〜100枚以上の0次元ダイヤモンドが知られている.

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【3】サッカーボールは本当に丸いか?

 次に,サッカーボールの5角形面間距離と6角形面間距離のどちらが大きいかを計算してみることにします.

 この計算に必要とされる数値は互いに相貫する

  正二十面体の中心から頂点までの距離(外接球の半径):R20

  正二十面体の中心から面の中心までの距離(内接球の半径):r20

  正十二面体の中心から頂点までの距離(外接球の半径):R12

  正十二面体の中心から面の中心までの距離(内接球の半径):r12

  R12=sin(π/3)=√3/2

  r12=cot(π/5)cos(π/3)=((5+2√2)/5)^(1/2)/2

  R20=τsin(π/5)=τ(10+2√5)^(1/2)/4

  r20=τcot(π/3)cos(π/5)=τ/√3・(√5+1)/2) 

です.

 正二十面体の切頂比を(0≦t≦2/3)とおくと,内接球をもつための条件は

  切頂面までの距離:r12+(R20−r12)(1/2−t)

  正二十面体面までの距離:r20

が等しくなることです.

  r12+(R20−r12)(1/2−t)=r20

はtに関する1次方程式で,その解は

  t=(7-√5-2√(10+2√5)/3))/(6-2√5)=0.242945

となりました.

 すなわち,正二十面体のある頂点から隣接する頂点までの距離の約24%のところを五角錐状に切り落とすと,正五角形面12枚と不等辺六角形面20枚の合計32枚の面で構成される外接球・内接球を併せもつ多面体になるはずです.

 この多面体はサッカーボールと正二十面体の間,

  正12面体←→切頂12面体←→12・20面体←→切頂20面体←→★←→正20面体

に位置しますから,サッカーボールでは

  5角形面間距離/2=r12+(R20−r12)(1/2−1/3)=.732003

  6角形面間距離/2=r20=.755763

  5角形面間距離/6角形面間距離=.968562

ということになります.

 なお,正十二面体の切頂として内接球をもつための方程式を立てると

  r20+(R12−r20)(1/2−t)=r12

  (0≦t≦1+1/√5)

より

  t=1.1128

が得られました.

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