■変形するデルタ32面体

 コラム「変形するデルタ20面体に対する疑義」に掲げたゴールドバーグのデルタ20面体は,面の形を変えずに連続的に変形するという折り曲げ可能多面体ではなくて,3つの安定した形状をとるという多面体という意味の3安定多面体であった.この変形多面体は,安定した形状から別の安定した形状への移行中には面は微かに曲がらなければならない.

 もうひとつの変形するデルタ多面体の例がポール・メイソンにより発見されている.それは立方体の各面を底面とする6つの四角錐のひとつを切り離し,その間に反角柱を挿入したものである.この多面体は容易に変形させることができ,いくつ安定な形があるのかもわからないほどである.

 ひとつだけ離れた角錐を正方形面にしても容易に変形させることができる.

 しかし,この多面体も折り曲げ可能多面体ではなく,ある部分はほんの少しねじられているのである.とはいえ,実際に認識できるほどのねじれではなく,無限に小さい振動なので認識できる限界を超えているのである.

===================================

 面の形は変わらずに二面角が変わる連続的な運動を「多面体の折り曲げ」という.1813年,コーシーはどんな凸多面体でも折り曲げ不可能なことを証明した(剛性定理).1897年,ブリカールは折り曲げ可能な閉多面体が存在することを証明し,とくに折り曲げ可能8面体については3型に分類されることを述べている.

 形状が変わる凹多面体をはじめてみつけたのはブリカールだが,その多面体では面同士が互いに貫通した自己交差をもつものであった.そのため,面を取り除き,辺を針金細工にしなければ実際に作ることはできなかった.

 形状の変わる性質を保ったまま面同士が貫通しないもの(すなわち3次元空間に埋め込まれたもの)を見つけたのは1970年代のコネリーで,1978年にはシュテッフェンにより9つの頂点と14の三角形面からなる最も単純な折り曲げ可能多面体が考案されている(それでもなおシュテッフェン多面体の体積に対する多項式をパソコンで求めることはできないという).

===================================

 「変形する」にはさまざまな意味があり,

[1]微動・無限小振動する(メイソンのデルタ32面体)

[2]2種類以上の安定した形をとる(ゴールドバーグのデルタ20面体)

[3]連続的に変形する折り曲げ可能多面体(コネリー,シュテッフェン)

のいずれかである.

「ポリドロン」によるデルタ多面体の構成では

  佐藤一麦(小学5年生)

  佐藤千種(4才)

の協力を得ました.また,「ポリドロン」は東京書籍がその取り扱い店となっています.

  連絡先:tel:03-5390-7513,fax:03-5390-7409(大山茂樹)

[参]クロムウェル「多面体」シュプリンガー・フェアラーク東京

===================================