■円とルーローの三角形(その3)

 正n角形の内転形で面積最小のものをAn,接点と正n角形の頂点との距離が最小のものをBnとすると,藤原はA3,B3はともに藤原・掛谷の2角形(半径が正三角形の高さに等しい2つの円弧で囲まれたレンズ型図形)であることを証明した.A4,B4がともにルーローの三角形であることはそれぞれブラシュケ,藤原が証明している.

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【1】定幅曲線

 任意のθについて幅hが一定,すなわち,

  p(θ)+p(θ+π)=h

である曲線を定幅曲線といいます.また,

  ρ(θ)=p(θ)+p”(θ)≧0

は曲率半径が符号を変えないこと,すなわち卵形線であるための条件です.

 ρ(θ)≧0であって,幅hをもつすべての定幅曲線の周長はπhで等しくなります(バービエ).また,定幅曲線のなかで面積が最大になるのは円,最小になるのはルーローの三角形です(ブラシュケ・ルベーグ).

 定幅であるための必要十分条件は,各対点(x(θ),y(θ))と(x(θ+π),y(θ+π))を結ぶ直線がそれらの点での接線に直交することといってもよく,

  p(θ)+p(θ+π)=h

  ρ(θ)+ρ(θ+π)=h

としても同値で,(x(θ),y(θ))での曲率中心と(x(θ+π),y(θ+π))での曲率中心は一致します.

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【2】面積最小の内転形

[1]定幅曲線の場合

 定幅曲線上に原点をとると,一般性を失うことなく

  p(0)+p(π)=h

  p’(0)+p’(π)=0

  p(0)=p’(0)=0

ですから,

  p(π)=h,p’(π)=0

 また,ρ=ds/dθより弧長パラメータsからパラメータθに変更することができ,

  x=∫(0,s)cosθ(s)ds=∫(0,θ)ρ(θ)cosθdθ

  y=∫(0,s)sinθ(s)ds=∫(0,θ)ρ(θ)sinθdθ

より

  xsinθ−ycosθ=p(θ)

  xcosθ+ysinθ=p’(θ)

はそれぞれ

  p(θ)=sinθ∫(0,θ)ρ(θ)cosθdθ−cosθ∫(0,θ)ρ(θ)sinθdθ

  p’(θ)=cosθ∫(0,θ)ρ(θ)cosθdθ+sinθ∫(0,θ)ρ(θ)sinθdθ

と書くことができます.

 接点と正方形の頂点との距離が最小のものをB4とする問題は

  ∫(0,π)ρ(θ)sinθdθ=h

  ∫(0,π)ρ(θ)cosθdθ=0

  0≦ρ(θ)≦h

の付帯条件の下で,

  p(π/2)=∫(0,θ)ρ(θ)cosθdθ=minimize

という変分問題に帰着します.

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[2]定幅曲線でない場合

 「正三角形に内接しながら回転することができる円以外の図形は何か」について考えてみると,それは定幅曲線ではありませんが,定幅曲線の場合と類似の

  p(θ)+p(θ+ω)+p(θ+2ω)=h,  ω=2π/3

  ρ(θ)=p(θ)+p”(θ)≧0

であることが物理的条件です.

 そして

  p(ω)+p(2ω)=h,  ω=2π/3

  p’(ω)+p’(ω)=0

  p(0)=p’(0)=0

より,B3問題は最終的に

  ∫(0,2ω)ρ(θ)G(θ)dθ=h

  ∫(0,2ω)ρ(θ)H(θ)dθ=0

  ρ(θ)≧0   (0≦θ≦2ω)

  ρ(θ)+ρ(θ+ω)≦h   (0≦θ≦ω)

の付帯条件の下で,

  p(ω)=∫(0,ω)ρ(θ)sin(ω−θ)dθ=minimize

という変分問題の形に帰着されることになります.

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[3]面積最小の内転形

 卵形線の接線へ原点から引いた垂線の足の軌跡を垂足曲線といいますが,その面積は

  1/2∫p^2(θ)dθ

卵形線と垂足曲線との間に挟まれる面積は

  1/2∫p’^2(θ)dθ

より,卵形線の面積は

  ∫(0,2π)(p^2(θ)−p’^2(θ))dθ

になりますから,A3,A4は変分問題

  ∫(0,2π)(p^2(θ)−p’^2(θ))dθ=minimize

  p(θ)+p(θ+π)=h   (定幅曲線の場合)

  p(θ)+p(θ+ω)+p(θ+2ω)=h   (定幅曲線でない場合)

に帰着されます.

 また,周長が所与である場合の同様の問題は,

  ∫(0,2π)(p^2(θ)−p’^2(θ))dθ=minimize

  ∫(0,2π)p(θ)dθ=constant

  0≦p(θ)+p”(θ)≦h

に帰着されます.

 もし,p(θ)をフーリエ級数に展開し

  p(θ)=a0/2+Σ(akcoskθ+bksinkθ)

とすると,その面積はパーセヴァルの定理より

  1/2∫(0,2π)(p^2(θ)−p’^2(θ))dθ=1/2{a0^2π+Σ(ak^2+bk^2)(1−k^2)π}

になります.

 ルーローの三角形(A4問題の解),藤原・掛谷の二角形(A3問題の解)はそれぞれ正方形,正三角形に内接しながら回転することができる図形であり,これを応用すれば正方形の穴,正三角形をあけるドリルを作ることができます.藤原・掛谷の二角形では完全な正三角形の穴をあけることができますが,ルーローの三角形であけられる正方形はその角がごくわずかだが丸くなっていて,穿かれる穴の面積は正方形の面積を1とすると0.9877・・・となります.

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