■カンタベリー・パズルの木工製作(その2)

 デュドニーの問題は4切片で正三角形から正方形に移すことですが,カンタベリー・パズルには平面充填形(タイル張り)の理論が潜んでいることに気づけばその切り分け方を見いだすことができます.

 ハトメのうち2つは正三角形の2辺の中点にあり,もう一つの辺は0.982:2:1.018に内分され,その一方にハトメがついているのですが,今回のコラムでは正三角形を4つの多角形(3つの四角形と1つの直角三角形)に分割する際,辺を0.982:2:1.018に内分する作図方法を紹介します.

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【1】正三角形の分割

 デュドニーのカンタベリー・パズルでは,正三角形と正方形の面積は等しい.1辺の長さが2の正三角形の面積は3^1/2だから,同じ面積をもつ正方形の1辺の長さは3^1/4でなければならない.

 1回で正三角形から正方形に移すことは簡単ではない.しかし,中線で2つの直角三角形に分割して並べ直せば1回で1×√3の長方形を作成することができる.

 そこで,中線ではなくその位置をずらすことを考え,正三角形ABCの辺BCの中点をM,辺CAの中点をNとし,辺AB上に内分点F,Gをとり,線分FMに点Nと点Gから垂線を下ろして正三角形を分割することにする.

  A(0,3^1/2),B(−1,0),C(1,0)

  M(0,0),N(1/2,3^1/2/2)

 正三角形の周は正方形の内部に移り,正方形の周は正三角形の内部の点だけから構成されるから,正三角形の2辺の中点M,Nをとるのは正三角形の周を正方形の内部に移し,3つの頂点を1点に会させるためである.

 また,線分FMに点Nと点Gから垂線を下ろすのは4つの角をすべて直角にするためである.また,このとき,辺AB上の2点F,Gに対してFG=1となることが必要条件になる.

 BM=MC=CN=NA=1であるが,中線上にもLM=1となるような点をとり,その点を点Lとする.次に,LM=1を1辺とする正三角形を辺AB側に描き,その頂点の位置を点Kとする.

  K(−3^1/2/2,1/2)

 最後に,辺AB上に

  LM=KF=FG=1

となる点Fと点Gを求める.このとき,MNFGは平行四辺形となっている.

 AF=tとおくと

  F(−t/2,−t3^1/2/2+3^1/2)

  G(−(t+1)/2,−(t+1)3^1/2/2+3^1/2)

と表されるから,KF=1より

  t^2−3t+3−3^1/2=0

  t=(3−(4・3^1/2−3)^1/2)/2=.509015

  AF:FG:GB=t:1:(1−t)

 =1.018:2:0.982

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【2】デュドニー分割の計量

 点Nから下ろした垂線の足を点P,点Gから下ろした垂線の足を点Qとすると,正三角形は3つの四角形と1つの直角三角形に分割される.3つの四角形もそれぞれ直角をもつ.

  BM=MC=CN=NA=1

であるが,正方形を構成するためにはさらに

  PN=QG

  PM+QM=FM(=2PN=2QG)

という関係が成り立てばよいのだが,この作図法では当該の十分条件が満たされているのである.そのことを示すために,デュドニー分割の計量を与えておこう.

  F(−t/2,−t3^1/2/2+3^1/2)=(−.254508,1.29123)

よりFMの方程式は

  (t3^1/2/2−3^1/2)x−(t/2)y=0

ここで,m=(t3^1/2/2−3^1/2)/(t/2)=−5.07345とおくと

  mx−y=0

また,

  G(−(t+1)/2,−(t+1)3^1/2/2+3^1/2)=(−t/2−1/2,−mt/2−3^1/2/2)=(−.754508,.425205)

  FM^2=(t/2)^2+(t3^1/2/2−3^1/2)^2=(t/2)^2(1+m^2):FM=1.31607

  PN^2=(m/2−3^1/2/2)^2/(1+m^2):PN=.658037

  QG^2=(mt/2+1/2−mt/2−3^1/2/2)^2/(1+m^2)

     =(m/2−3^1/2/2)^2/(1+m^2)=PN^2

  Pのx座標=(1+m3^1/2)/2(1+m^2)=−.145615

  Pのy座標=m×(Pのx座標)

  Qのx座標=(1+t+m^2t+m3^1/2)/2(1+m^2)=−.108892

  Qのy座標=m×(Qのx座標)

  PM^2=(1+m3^1/2)^2/4(1+m^2):PM=.752986

  QM^2=(1+t+m^2t+m3^1/2)^2/4(1+m^2):QM=.563088

  PF=QM,PM=QF

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【3】正方形の分割

 こうしてFM,PN,QGを切ればよいのだが,厚手の正方形の板から切り出すほうが実際的であろう.その場合の寸法を示しておく.あらためて記号をふりなおして,この板をABCD,辺上にPQRSを以下のようにおく.

  AB=QF+FP=FM,.572145:.427855=u:1−uに内分する点をPとする

  BC=2PN=FM,中点をQとする

  CD=PM+MQ=FM,.572145:.427855=u:1−uに内分する点をRとする

  DA=2QG=FM,中点をSとする

 このようにしてから,点Pと点Sを結び,線分PSを.509015:.490985=t:1−tに内分する点Tをとる.点Tと点Q,点Tと点Rと結べば正方形の分割ができあがる.

 各点の座標を

  A(0,1),B(0,0),C(1,0),D(1,1)

  P(0,1−u),Q(.5,0),R(1,u),S(.5,1)

  u=.572145,t=.509015

と定めると

  T(.5t,1−u(1−t))

これらから各ピースの角度を計算することができる.Tにおける角度はすべて60°である.

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【4】雑感

 解答から出発したので簡単に内分点を与えることはできたが,詳細までは思い至らない.デュドニーに訊ねたいのはいったいどうやってこの作図法を思いついたのかである.

 ところで,デュドニー分割では,正三角形の周は正方形の内部に移り,正方形の周は正三角形の内部の点だけから構成されている.この立体版の分割も考えることができる.すなわち,立体Aの表面が立体Bの内部に移り,立体Bの表面が立体Aの内部の点だけから構成されているというものである.これはデュドニー分割よりも難しいリバーシブル問題であるが,このような例として秋山仁先生の「キツネヘビ」があげられる.

 秋山先生は菱形十二面体と直方体の間の立体ハトメ返し,切頂八面体と直方体の間の立体ハトメ返しなど空間充填形同士のハトメ返しが作られ,講演ではそのような小道具を使って菱形十二面体,切頂八面体の体積を求めておられる.また,このとき多面体の形が変形するばかりでなく,菱形十二面体,切頂八面体の表面が直方体の内部に隠れることを利用して,黄色(キタキツネ)を緑(ヘビ)に変色させ,キタキツネが一瞬にしてヘビに飲み込まれる様子を表現している.

 コラム「連続回転する多面体の輪(その2)」で検討した立方体の環は立方体は6個でも8個でも連続回転することはできず,隣の面と入れ替わるところまでしか動かなかった(△←→▽,□←→◇).そのときは連続回転という観点からしか調べなかったが,適当な稜が蝶番でつながれた8つの立方体は立方体(2×2×2)に折りたたむことができる.

 この折りたたみは輪にはならないものの繰り返してできるので,表の24面を裏返すと裏の24面が現れてくることを利用した観光地の写真を貼り付けてあるおみやげものもあるという.最も単純なリバーシブル多面体であると思われる.

 先日,秋山研究室を訪問した際に知ったことであるが,秋山先生はこのようなリバーシブルな等積変形多面体をすべて決定する試みをされている.もうひとつ驚かされたのは,多面体の任意の切り口あるいは展開図がすべて平面充填図形になる立体も研究されておられた.xxxをすべて決定するという試みは簡単ではないと思えるのだが,すでにある程度の結論は得られていたことをレポートして,本稿の結びとしたい.

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