■kフィボナッチ数列と超黄金比(その2)

 フィボナッチ数列の整除性(mod2,3,4,・・・)の周期性については,コラム「フィボナッチ数列と有限体」で述べたのでそれを参照していただきたいのですが,kフィボナッチ数列の剰余数列にも周期が存在することが証明されます.ここでは行列による周期性の解法のあらすじを紹介します.

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【1】フィボナッチ数列の周期性の解析

 Fn+1=Fn+Fn-1と同値なベクトルの漸化式を

  [Fn ]=[0,1][Fn-1]=A[Fn-1]

  [Fn+1] [1,1][Fn ]  [Fn ]

で置き換えると,

  [Fn ]=A^n[Fn-1]

  [Fn+1]   [Fn ]

  A=[0,1]

    [1,1]

は対称行列で,

  A^2=[1,1],A^3=[1,2],A^4=[2,3]

     [1,2]    [2,3]    [3,5]

  A^5=[3,5]

     [5,8]

A^nも対称行列となることに加え,フィボナッチ数列が現れることがわかる.すなわち,

  A^n=A^n-1A=[Fn-2,Fn-1][0,1]=[Fn-1,Fn ]             [Fn-1,Fn ][1,1] [Fn, Fn+1]

 ここではこの道具を使って,合同式

  L705=1  (mod705)

を確かめてみることにするが,L0=2,L1=1,n=704として

  [L704]=A^704[2]

  [L705]    [1]

したがって,L705=1(mod705)の整除性の周期性はA^704(mod705)を評価することに等しく,行列の積の演算において705の倍数をすべて捨ててよいことになる.

  704=64+128+512

  A^64 =[142,423],A^128=[283,141]

      [423,565]     [141,424]

  A^512=[424,564],A^704=[142,423]

      [564,283]     [423,565]

  [L704]=[142,423][2]=[707]=[2]

  [L705] [423,565][1] [1411][1]

より

  L705=1  (mod705)

  L704=2  (mod705)

が成り立つことが示されたことになる.

  [参]シェーンベルグ「数学点描」近代科学社(三村護訳)

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【2】kフィボナッチ数列の周期性の解析

  A=[0,1]

    [1,1]

の拡張行列は

  A3 =[0,1,0],A4 =[0,1,0,0]

     [0,0,1]    [0,0,1,0]

     [1,1,1]    [0,0,0,1]

                [1,1,1,1]

となり,kフィボナッチ数列の周期性の解析に応用することができる.

 トリボナッチ数列に対しては

  A3^n =[Fn-2,Fn-2+Fn-3,Fn-1]

 [Fn-1,Fn-1+Fn-2,Fn ]

 [Fn ,Fn +Fn-1,Fn+1]

テトラナッチ数列に対しては

  A4^n =[Fn-3,Fn-3+Fn-4,Fn-3+Fn-4+Fn-5,Fn-2]

      [Fn-2,Fn-2+Fn-3,Fn-2+Fn-3+Fn-4,Fn-1]

 [Fn-1,Fn-1+Fn-2,Fn-1+Fn-2+Fn-3 Fn ]

 [Fn ,Fn +Fn-1,Fn +Fn-1+Fn-2,Fn+1]

となる.

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【3】kフィボナッチ数列の一般項

 kパスカルの三角形の自己相似性については省略し,kフィボナッチ数列の一般項を求めるあらすじを紹介したい.特性方程式

   x^2−x−1=0,x^3−x^2−x−1=0,・・・は重解をもたないので,これらの行列は対角化可能である.k=3の場合で示すが,

  A3 =[0,1,0]

     [0,0,1]

     [1,1,1]

  P^-1A3P=[λ1 ,0,0],P^-1A3^nP=[λ1^n,0,0]

        [0,λ2 ,0]        [0,λ2^n,0]

        [0,0,λ3 ]        [0,0,λ3^n]

 区間[3/2,2]に実数解をもつ以外にkが奇数のときは1,kが偶数のときには1と区間[−1,0]にも実数解が存在する.たとえば,特性方程式

  x^2−x−1=0

の2つの解は

  α=(1+√5)/2,β=(1−√5)/2

ただし,異なるk個の固有値はすべて実数というわけではなく,複素数解をもつので注意が必要である.

 一方,

  A3^n =[Fn-2,Fn-2+Fn-3,Fn-1]

 [Fn-1,Fn-1+Fn-2,Fn ]

 [Fn ,Fn +Fn-1,Fn+1]

が成り立つので,トリボナッチ数列の一般項は

  Fn=α1λ1^n+α2λ2^n+α3λ3^n

 F0=0,F1=1,F2=1ならば

  α1+α2+α3=0

  α1λ1+α2λ2+α3λ3=1

  α1λ1^2+α2λ2^2+α3λ3^2=1

すなわち,ヴァンデルモンデの行列の入った連立方程式

  [1  ,1  ,1  ][α1] [0]

  [λ1 ,λ2 ,λ3 ][α2]=[1]

  [λ1^2,λ2^2,λ3^2][α3] [1]

が得られる.結局,kフィボナッチ数列の一般項は行列の対角化と連立方程式の問題に帰着されたことになる.

  α1=λ1/(λ1−λ2)(λ1−λ3)

  α2=λ2/(λ2−λ1)(λ2−λ3)

  α3=λ3/(λ3−λ1)(λ3−λ2)

より,トリボナッチ数列の一般項は

  Fn=λ1^n+1/(λ1−λ2)(λ1−λ3)+λ2^n+1/(λ2−λ1)(λ2−λ3)+λ3^n+1/(λ3−λ1)(λ3−λ2)

のような部分分数分解の形になる.

 ところで,フィボナッチ数列{Fn}の通常型母関数f(x)は

    f(x)=F0+F1x+F2x^2+F3x^3+・・・

   xf(x)=   F0x+F1x^2+F2x^3+・・・

  x^2f(x)=       F0x^2+F1x^3+・・・

また,Fn=Fn-1+Fn-2より

  f(x)=x/(1−x−x^2)=ΣFnx^n

と簡単な式になる.kフィボナッチ数列の母関数も同様にして

  f(x)=x/(1−x−x^2−・・・−x^k)=ΣFnx^n

 =Σ(α1λ1^n+α2λ2^n+α3λ3^n+・・・)x^n

 具体的には求めないが,

  Σλi^nx^n=λix/(1−λix)

より,部分分数分解

  Σαiλix/(1−λix)=x/(1−x−x^2−・・・−x^k)

して両辺を比較することでも,αiが決定されることになる.

 こうして,kフィボナッチ数列の一般項は

 =Σλi^n+k-2/(λi−λ1)・・・(λi−λi-1)(λi−λi+1)・・・(λi−λk)

であることがわかる.

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【4】ペラン数列

  [参]松田修+津山高専数学クラブ「11からはじまる数学」東京図書

に最後の章末問題:ペラン数列について説明します.

 フィボナッチ数列では正方形をらせん状に並べましたが,ここでは正三角形をらせん状に並べてみましょう.最初の3つの正三角形は1辺の長さを1,次の2つは1辺の長さが2で,そのあとは3,4,5,7,9,12,16,21,・・・.このようにしてもおおよそ対数らせんを描きます.

 数列

  1,1,1,2,2,3,4,5,7,9,12,16,21,・・・

は直前の1項を除いたその前の2項を加えたものです.パドヴァンの数列と呼ぶことにしますが,漸化式は

  Pn=Pn-2+Pn-3   (P0=P1=P2=1)

で表されます.

 その特性方程式

  x^3−x−1=0

の唯一の実数解より,パドヴァン数列の連続する2項の比は

  p=1/3{3√(27/2−3√69/2)+3√(1/2+√69/18)}=1.324718・・・

に次第に近づくことになります.pがφよりも小さいことより,パドヴァン数列はフィボナッチ数列に較べてゆっくりと増加することになります.

  p^5−p^3−p^2=0

  p^4−p^2−p^1=0

より

  p^5−p^4−p^3−p^1=p^5−p^4−1

ですから,3次方程式p^3−p−1=0の解はこの5次方程式も満たすことがわかります.あるいは,因数分解

  p^5−p^4−1=(p^3−p−1)(p^2−p+1)

でもよいのですが,このことから

  Pn=Pn-1+Pn-5

の関係が成り立つこともわかります.

 リュカはパドヴァン数列と同じ生成規則に従い,最初の項の値が異なるものを考案しました(1876年).

  An=An-2+An-3   (A0=3,A1=0,A2=2)

  3,0,2,3,2,5,5,7,10,12,17,22,29,・・・

 この数列は現在ではペラン数列と呼ばれるものです.この数列の項比もpに近づきますが,さらに深遠な性質「nが素数のときAnはnで割り切れる」をもっています.しかし,逆命題「Anがnで割り切れるときnは素数である」は必ずしも成り立たないことが知られています.ただし,その最小の反例は数万の大きさなので,コンピュータでも使わなければ反証できません.

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