■正多面体の展開図と秋山の定理

 正多面体の展開図を描いてみる.正四面体の展開図は正三角形,平行四辺形の2種類あり,どちらも平面充填図形である.

 立方体の展開図は回転と裏返しで同形になるものを除くと11種類あり,意外なことにそのすべてが平面充填図形となる.正八面体は立方体の双対図形であるから,展開図の個数は等しく,ともに11種類になる.

 正十二面体と正二十面体も互いに双対図形であり,展開図の総数は43380種類にもなるそうである.

 以上は正多面体を辺に沿って切ったときの展開図である.これだけでも何種類もの展開図ができるのだが,辺に沿ってではなく,たとえば紙でできた中空の正四面体をハサミで好き勝手に切って平面に展開することを考えてみよう.

 このときハサミがすべての頂点を通らなければ平面に広げることはできないから,その条件だけは満たさなければならないが,これにより展開図の種類は無限になる.

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【1】秋山の定理

 展開図のコピーをジグソーパズルのようにくぼんだ所に出っ張ったところをピッタリはめ込み,平面を隙間もなく重なりもなく敷き詰めることができるとき平面充填図形という.どのような条件を満たすとき,この平面展開図は平面充填可能な図形になるのだろうか?

[1]正四面体は好き勝手に切っても,辺に沿って切っても平面充填図形になる.

[2]立方体と正八面体は辺に沿った展開図はすべて平面充填図形になるが,勝手に切り込みを入れた展開図は平面充填図形にならない.

[3]正十二面体は正五角形でできているからたとえ辺に沿って切ったとしても平面充填図形にはならない.正二十面体は正三角形でできているが,好き勝手に切っても,辺に沿って切っても平面充填図形にはならない.

[4]任意の多面体に対する結果については,

  Jin AKIYAMA: Tile-makers and semi-tile-makers, Amer. Math. Mon. 114(7), 602-609

を参照されたい.

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【2】秋山研究室レポート

 ところで,デュドニー分割では,正三角形の周は正方形の内部に移り,正方形の周は正三角形の内部の点だけから構成されている.この立体版の分割も考えることができる.すなわち,立体Aの表面が立体Bの内部に移り,立体Bの表面が立体Aの内部の点だけから構成されているというものである.これはデュドニー分割よりも難しい問題であるが,このような例として秋山仁先生の「キツネヘビ」があげられる.

 秋山先生は菱形十二面体と直方体の間の立体ハトメ返し,切頂八面体と直方体の間の立体ハトメ返しなど空間充填形同士のハトメ返しが作られ,講演ではそのような小道具を使って菱形十二面体,切頂八面体の体積を求めておられる.また,このとき多面体の形が変形するばかりでなく,菱形十二面体,切頂八面体の表面が直方体の内部に隠れることを利用して,黄色(キタキツネ)を緑(ヘビ)に変色させ,キタキツネが一瞬にしてヘビに飲み込まれる様子を表現している.

 コラム「連続回転する多面体の輪(その2)」で検討した立方体の環は立方体は6個でも8個でも連続回転することはできず,隣の面と入れ替わるところまでしか動かなかった(△←→▽,□←→◇).そのときは連続回転という観点からしか調べなかったが,適当な稜が蝶番でつながれた8つの立方体の輪も立方体(2×2×2)に折りたたむことができる.表の24面を裏返すと裏の24面が現れてくることを利用して観光地の写真を貼り付けてあるおみやげグッズもあるという.

 先日,秋山研究室を訪問した際に知ったことであるが,秋山先生はこのようなリバーシブルな等積変形多面体をすべて決定する試みをされている.もうひとつ驚かされたのは,多面体の任意の切り口あるいは展開図がすべて平面充填図形になる立体も研究されておられた.xxxをすべて決定するという試みは簡単ではないと思えるのだが,すでにある程度の結論は得られていたことをレポートして,本稿の結びとしたい.

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