■連続回転する多面体の輪(その3)

 鼈臑,パウル・シャッツ立体,工藤の四面体8個には対辺が直交する組が1組,正四面体には3組ある.鼈臑(べつどう,1/6立方体)を8個つないだ環には遊びがあり,同じ角度でも取り得る形はひとつに決まらない.それに対して,6個のパウル・シャッツ立体からなる環は常にタイトで,角度を決めれば形が一通りに定まる1自由度の系である.

 8個の正四面体をつないでできる環にも動きに若干の遊びがあるが,工藤の四面体8個からなる環は,パウル・シャッツ環同様,角度を決めれば形が一通りに定まる1自由度の系のようにみえるという.

 しかし,n角形(n>3)は容易に変形できるので,8個の四面体をつないだ環が1自由度系になるということはどう考えても不可解であった.そこで,中川宏さんから実物を送っていただき「連続回転する多面体の環の動作が1自由度系になるための数学的な条件」を解明することにした.

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【1】パウル・シャッツ環の動作

 パウル・シャッツ環はパウル・シャッツ立体3対を使ったサメの顎のような動くおもちゃで,輪郭が正六角形となるとき中央には正三角形の穴があき,中央の穴が閉じたとき片面は正三角形の平面になる.このとき,パウル・シャッツ立体1対で陽馬型を形成することになる.

 この一連の動作中,パウル・シャッツ環は常に3回対称を保って変形し,あるジョイントの角度を決めれば形が一通りに定まる1自由度の系である.

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【2】工藤の四面体2分割環の動作

 工藤の四面体(2/24立方体)では動作がわかりにくいので,パウル・シャッツ環のように中央の穴が閉じたとき片面が正方形の平面になるように,その2分割体8個からなる環を製作してもらった.

 工藤の四面体(2/24立方体)の2分割体は,分割方向によって1/24立方体と2/48立方体になるが,両者は同じものである.以下,中川宏さんに製作してもらった工藤の四面体の2分割環の動作である.

 2分割環では鼈臑環のように中央に大きな四角い穴があくことになった.すなわち,工藤の四面体はずんぐりしているため,環のジョイントの可動域が制限されて1自由度の系のようにみえるだけであって,実際は1自由度ではないのである.

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【3】鼈臑環の動作

 工藤の四面体2分割環の動作を見ていると,さらに2分割できることに気づかされる.工藤の四面体を2分割したものは1/48立方体であるから,それは鼈臑(1/6立方体)に相似である.鼈臑環ではジョイントの可動域の制限が減少し,よりスムーズな連続回転が可能である.

 以上のことから,連続回転する多面体の環の基本形は一般化したパウル・シャッツ立体であり,a≦1/√3より細長くかつ平たい四面体6個(鏡像体を3個ずつ交互に)をつなくと1自由度回転することができることがわかる.ただし,片面が正三角形の平面になったとき中央の穴が閉じるのはa=1/√3のときに限られることも理解される.パウル・シャッツ環の秀逸さを示すものである.

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