■ピックの公式の拡張(その2)

 ピックの公式を拡張したものがリーブの公式である.穴がない場合に図形を切ると2つの部分に分かれるが,穴がひとつの場合は切れ目を2箇所に,穴が二つの場合は切れ目を3箇所に入れなければ図形を2つの部分に分けることはできない.

 リーブの論文:

  Reeve, JE: On the volume of lattice polyhedra, Proceedings of the London Mathematical Society (3rd series), 7, 378-95, 1957

では,式を3次元に場合に拡張するためには図形に空いた穴の個数を考慮しなければならないことを出発点にして議論されている.

 面積(体積)を求めるのトポロジーの定理が必要とされるというのは奇妙なことと感じられる.今回のコラムではリーブの論文の一部を抜粋して紹介する.

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【1】ピックからリーブへ

 まず最初に,ピックの公式

  A=I+B/2−1

   A:格子多角形の面積

   I:内部の点の個数

   B:境界線上の点の個数

をリーブ流にアレンジしたい.

  A=(I+B)−B/2−1

 図形ωの境界を∂ω,すなわち,中身を含まない表面を表し,整数格子点の数をL1(・)をすると,ピックの公式は

  A(ω)=L1(ω)−L1(∂ω)/2−1

と表される.ここで,ωには中身に加えて表面∂ωも繰り込まれていることに注意されたい.

 さらにこの式を一般化する.オイラー・ポアンカレ標数をχ(・)とすると,ピックの公式:

  A(ω)=L1(ω)−L1(∂ω)/2−1

の一般形は

  A(ω)={L1(ω)+χ(ω)}−{L1(∂ω)+χ(∂ω)}/2

で表されるというものである.

 m次元複体ωのk次元面の個数をαkと表すとき,オイラー・ポアンカレ標数は,単体の個数の交代和

  χ(ω)=Σ(0,k)(-1)^kαk

で定義されるが,リーブの論文中の定義は

  χ(ω)=Σ(0,k)(-1)^(k+1)αk

となっているため,

  χ(ω)=−f=−1,χ(∂ω)=−(v−e)=0

 したがって,穴のない場合は

  A(ω)=L1(ω)−L1(∂ω)/2−1

というわけである.

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【2】リーブの公式

 3次元の任意の格子多面体に対しては内部や境界面上の点の個数から体積を求める式はないという例をあげると,4点(0,0,0),(1,0,0),(0,1,0),(1,1,z)を頂点とする三角錐(体積z/6)では,

  内部の格子点数=0

  面上の格子点数=4

  辺上の格子点数=4

を変化させることなしに,zとともに体積をいくらでも大きくすることができる.

 しかし,半整数格子L2を導入すれば体積を求めることができるというのが,リーブの定理である.

  12V(ω)=2{L2(ω)−2L1(ω)+χ(ω)}−{L2(∂ω)−2L1(∂ω)+χ(∂ω)}

 凸格子点多面体の場合は,

  χ(ω)=−c=−1,χ(∂ω)=−(v−e+f)=−2

より

  12V(ω)=2{L2(ω)−2L1(ω)}−{L2(∂ω)−2L1(∂ω)}

 当該の三角錐の場合

  L1(ω)=4,L1(∂ω)=4

  L2(ω)=2z−1+10,L2(∂ω)=10

より

  V(ω)=z/6

 縦a,横b,奥行きc,体積abcの直方体の場合は

  L1(ω)=(a+1)(b+1)(c+1)

  L1(∂ω)=2(a+1)(b+1)+2c(a+1)+2(b−1)(c−1)

  L2(ω)=(2a+1)(2b+1)(2c+1)

  L2(∂ω)=2(2a+1)(2b+1)+4c(2a+1)c+2(2b−1)(2c−1)

より

  V(ω)=abc

 なお,ここで,

  L2(∂ω)−4L1(∂ω)=−6

が成り立っている.

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【3】リーブの公式(その2)

 半整数格子L2を導入した場合は

  12V(ω)=2{L2(ω)−2L1(ω)}−{L2(∂ω)−2L1(∂ω)}

であるが,リーブはn分整数格子Ln(n=2,3,5,7,・・・)を導入するとき

  2(n−1)n(n+1)V(ω)=2{Ln(ω)−nL1(ω)}−{Ln(∂ω)−nL1(∂ω)}

  Ln(∂ω)−n^2L1(∂ω)=2(1−n^2)

となることも示している.

 また,リーブはより高次元に拡張した式も予想している.4次元の場合は半整数格子L2に加え,3分整数格子L3を導入して

  72V(ω)=2{3L(ω)−3L2(ω)+L3(ω)+χ(ω)}−{3L(∂ω)−3L2(∂ω)+L3(∂ω)+χ(∂ω)}

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【補】オイラーの多面体定理

 凸多面体の頂点,辺,面の数をそれぞれv,e,fとすると,

  v−e+f=2  (オイラーの多面体定理)

が成り立ちます.これは3次元立体について,0次元の特性数であるv,1次元の特性数であるe,2次元の特性数であるfの関係を述べたものと解釈されます.

 量(v−e+f)はオイラー標数と呼ばれます.オイラー標数は幾何学において重要な概念である位相不変量の草分けであり,一般に,図形がいくつかの3角形によって分割されているとき,

  頂点の数−辺の数+3角形の数

は分割の仕方によらず定まり,図形に固有な量になるというものです.例えば,平面図形(多角形)は1つの面が無限大となって全体が一面に広がってしまった正多面体と解釈することができますから,オイラー標数は1となり,また,種数(穴の数)gの向き付け可能な閉曲面の場合は2−2gとなることはよく知られています.

 二次元における正多角形,三次元における正多面体と同じ概念が四次元における正多胞体で,正(5,8,16,24,120,600)胞体の6種類あります.胞の個数をcで表すと,4次元空間では,

v−e+f−c=0

というオイラーの定理が成り立っています.

 ところで,線分と三角形および四面体はそれぞれ最も簡単な1次元図形,2次元図形,3次元図形です(単体:シンプレックス).線分は2つの端点(0次元の境界要素)をもち,その内部は1次元です.三角形は3つの頂点(0次元)と3つの辺(1次元)をもち,その内部は2次元です.四面体は4つの頂点(0次元)と6つの辺(1次元)および4つの面(2次元)をもち,その内部は3次元です.これらの数をまとめて書くと

    2,1

   3,3,1

  4,6,4,1

ですが,これらの数はパスカルの三角形の一部分に相当しています.これから類推すると4次元のシンプレックスは5,10,10,5,1,すなわち5つの頂点と10辺,10面,5面,5胞(正5胞体)になります.

 これより,n次元単体についてはv=n+1C1,e=n+1C2,f=n+1C3,c=n+1C4,・・・ですから,

  v−e+f−g+h−i+・・・=1±1

したがって,nが奇数のとき2,偶数のとき0になることが理解されます.

 オイラーの多面体定理(単体分割の個数の交代和:v−e+f−g+h−i+・・・)を一般化したものが,オイラー・ポアンカレの定理で,オイラー数はベッチ数の交代和

  Pv−Pe+Pf−Pg+Ph−Pi+・・・

に等しいというのが,オイラー・ポアンカレの内容です.

 ベッチ数とは,形には関係しないで,接触と分離にだけ関係するトポロジカルな示性数で,1次独立なq次元サイクルの個数,簡単にいえば図形の中に潜む種々の次元の穴の数のことです.

 単体分割の個数はベッチ数に比べてはるかに大きい数ですから,単体分割の仕方を複雑にするほどオイラー標数

v−e+f−g+h−i+・・・

を実際に計算するのは面倒になりますが,ベッチ数の交代和

  Pv−Pe+Pf−Pg+Ph−Pi+・・・

に基づくと,オイラー標数を効率よく計算することができます.

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