■縮小三角形と重心座標(その8)

[Q]6辺の長さがa,b,c,d,e,fで,与えられた4面体に外接,内接する球面の半径を求めよ.

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【1】空間のヘロンの公式

 ところで,線分と三角形および四面体(三角錐)は,それぞれ最も簡単な1次元図形,2次元図形,3次元図形ですが,次元数nより1つ多い(n+1)個の頂点によって作られる図形をシンプレックス(単体)と呼びます.線分は1次元単体,三角形は2次元単体,三角錐は3次元単体とも呼ばれます.

 この節で取り上げるのは,四面体についての問題「6辺の長さがa,b,c,d,e,fで,与えられた4面体の体積を求めよ」です.

 2つのベクトルa↑,b↑を基底とする平行体(平行四辺形)の面積は,外積は

  a↑×b↑

3つのベクトルa↑,b↑,c↑を基底とする平行体(平行六面体)の体積は,スカラー三重積

  (a↑×b↑)・c↑

すなわち,外積a↑×b↑とベクトルc↑の内積で与えられます.

 |a↑|=a,|b↑|=bとすれば,平行四辺形の面積は,

  S=absinθ

ですから,

  S^2=a^2b^2(1−cos^2θ)

    =|a↑|^2|b↑|^2−(a↑・b↑)^2

    =|a↑・a↑  a↑・b↑|

     |b↑・a↑  b↑・b↑|

 同様に,平行六面体の体積は

  V^2=|a↑・a↑  a↑・b↑  a↑・c↑|

     |b↑・a↑  b↑・b↑  b↑・c↑|

     |c↑・a↑  c↑・b↑  c↑・c↑|

で与えられます.

 これらのように,内積の行列式で定義される行列式をグラムの行列式(グラミアン)といいます.平行体の面積・体積はグラミアンの平方根に等しくなるというわけです.

 また,座標を使って表せば,n+1個の点の座標に(1,1,1,・・・,1)を加えて作られる(n+1)次の行列式の絶対値になります.

  |S|=|1 x1 y1|   |V|=|1 x1 y1 z1|

      |1 x2 y2|       |1 x2 y2 z2|

      |1 x3 y3|       |1 x3 y3 z3|

                     |1 x4 y4 z4|

 原点が含まれるときは,

  |S|=|x1 y1|   |V|=|x1 y1 z1|

      |x2 y2|       |x2 y2 z2|

                   |x3 y3 z3|

のように展開されます.

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 これらはそれぞれn次元単体の体積のn!倍になりますから,三角形面積,四面体の体積は,

  S’=S/2

  V’=V/6

 また,4辺の長さがa,b,cで与えられた三角形,6辺の長さがa,b,c,d,e,fで与えられた四面体の場合は,

  2^2(2!)^2S’^2=|0  a^2 b^2 1|

             |a^2 0  c^2 1|

             |b^2 c^2 0  1|

             |1  1  1  0|

  2^3(3!)^2V’^2=|0  a^2 b^2 c^2 1|

             |a^2 0  d^2 e^2 1|

             |b^2 d^2 0  f^2 1|

             |c^2 e^2 f^2 0  1|

             |1  1  1  1  0|

となります.

 前者はおなじみの平面三角形のヘロンの公式にほかなりませんが,面積をS’=Δとして,

(4Δ)^2=2a^2b^2+2b^2c^2+2c^2a^2−a^4−b^4−c^4

  =(a+b+c)(−a+b+c)(a−b+c)(a+b−c)

ここで,2s=a+b+cとおくと

  Δ^2=s(s−a)(s−b)(s−c)

となり,ヘロンの公式が得られます.

 後者が空間のヘロンの公式であり,V’=Δとして

  (12Δ)^2=a^2d^2(b^2+c^2+e^2+f^2−a^2−d^2)

         +b^2e^2(c^2+a^2+f^2+d^2−b^2−e^2)

         +c^2f^2(a^2+b^2+d^2+e^2−c^2−f^2)

       −a^2b^2c^2−a^2e^2f^2−d^2b^2f^2−d^2e^2c^2

 一見複雑ですが,相対する線分の2乗の積に,他の線分の2乗の和から自分自身の2乗を引いた量をかけた和が

  a^2d^2(b^2+c^2+e^2+f^2−a^2−d^2)

 +b^2e^2(c^2+a^2+f^2+d^2−b^2−e^2)

 +c^2f^2(a^2+b^2+d^2+e^2−c^2−f^2)

であり,4個の三角形の周辺3本の2乗の積の和が

  a^2b^2c^2+a^2e^2f^2+d^2b^2f^2+d^2e^2c^2

です.

 この公式はオイラーの公式とも呼ばれるものですが,複雑であり平面三角形のヘロンの公式のように因数分解できません.ただし,4面の面積が等しい等積四面体=4面が合同な鋭角三角形よりなる四面体(バンの定理)の場合,

  72Δ^2=(−a^2+b^2+c^2)(a^2−b^2+c^2)(a^2+b^2−c^2)

と因数分解した形で表されます.

 なお,三次元空間では三角形は四面体に,正方形は立方体に,正五角形は正十二面体に,円は球に拡張されると考えられます.その際,外心,内心,重心,傍心は任意の四面体に存在するのですが,垂心は必ずしも存在しません.また,三次元空間において四面体の外接球,内接球の半径をそれぞれR,rとすれば,R≧3rが成り立ちます.

 n次元ではR≧nrとなるのですが,高次元の幾何学の例をもう一つあげると,三角形の面積は底辺かける高さ割る2ですが,三角錐になると底面積かける高さ割る3,四次元の三角錐なら底体積かける高さ割る4,五次元なら底四次元面積かける高さ割る5・・・.高次元の多面体ではこのようになることが知られています.

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