■陽馬の木工製作(その2)

 陽馬は立方体の三等分体であり,陽馬を3個組み合わせることで立方体になるので,一個の陽馬の体積は元の立方体の体積の1/3であることが一目瞭然となる.秋山仁先生の言葉を借りれば「陽馬は立方体の原子.数でいえば素数のようなもの」すなわち「立方体の素数」ということになるのであろう.

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【1】九章算術の幾何(角錐台の体積公式)

  [参]クロムウェル「多面体」シュプリンガー・フェアラーク東京

によると,魏の時代に書かれた劉徽の「九章算術」の体積計算では棋(き)と呼ばれる4種類のブロックが利用されているとのことである.

 4種類のブロックとは立方体,塹堵(ぜんと,1/2立方体,三角柱),陽馬(1/3立方体,四角錐),陽馬の二等分体である鼈臑(べつどう,1/6立方体,三角錐)である.鼈臑とはすっぽんのすね(前足の骨)の意であるそうだ.

 塹堵を斜めに切ると陽馬と鼈臑へ分解することができる.陽馬は1個の小立方体,2個の小塹堵,2個の小陽馬へ分解することができる.鼈臑は2個の小塹堵,2個の小鼈臑へ分解することができる.したがって,これらの分解操作は無限回繰り返すことができることになる.

 また,正四角台は中央にある立方体,側面にある4つの塹堵,各隅に1つずつある4つの陽馬に細分される.

 それらをうまく組み換えることによって,3個の三角錐(V=a^2h/3,abh/3,b^2h/3)に転化させることができる.このことは角錐台の体積公式が

  (a^2+ab+b^2)h/3

となることを示している直接的な証明法である.

 劉徽の「九章算術」では,台形の面積公式

  (a+b)h/2

が台形を2個の三角形(S=ah/2,bh/2)に転化させて得られるのと同様のアイディアで角錐台の体積を求めているのである.

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【2】取り尽くし法によらない分解合同

 鼈臑型の四面体は同じ底面ともとの1/3の高さをもつ角柱に変形させることができる(分解合同).鼈臑を下から1/3のところで水平に切る,次に新しくできた四面体を垂直に切る,さらに一方を斜めに切って,4つのピースを組み換えると三角柱になる.中川宏さんによる木工模型を掲げる.

 さらに,中川さんはこの分解合同を相似比1:3,体積比1:27となる27個の鼈臑を用いて示している.大鼈臑を下から1/3のところで水平に切ると上側は8個の小鼈臑からなる中鼈臑,下側は19個の小鼈臑からなる三角錐台,さらに8個の小鼈臑からなる中鼈臑を4個=塹堵+鼈臑,3個=陽馬+鼈臑,1個=鼈臑に分けることで三角柱になることを示している.

 それでは,同じ体積の2つの多面体は常に分解合同であろうか? 20世紀の初め,ヒルベルトはこれを国際数学者会議での問題として問うた.2つの多面体(多角形)が分割合同とは,一方を有限個の小多面体(小多角形)に分割し,それを別の仕方で寄せ集めることにより他方の多面体(多角形)ができることをいう.

 多面体の分割に関するデーンの定理(1900年)

  「正四面体と直方体は(たとえ同じ体積をもっていたとしても)分割合同ではない.」

ことが証明されている.それに対して,任意の三角形は長方形と分割合同であることが証明されるので,デーンの定理は2次元と3次元の違いを際立たせていることになる.

 デーンの定理により,一般には同じ体積をもつ他の多面体には組み替えられないが,鼈臑型四面体の三角柱への組み換えは例外的なケースなのである.

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